アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ニール・ヤング的哀愁

ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』が発売されたのは、1970年だった。 その年、日本では学生運動が各地に広がり、よど号ハイジャック事件があり、三島由紀夫の割腹自殺があり、社会は騒然とした雰囲気に包まれていた。 その一方で、「人…

タクシーゲイシャ

ゲイシャって言葉の響きから、漢字を当てると「芸者」の方が先に思い浮かぶけれど、電話なんかでタクシーを呼ぶときも「ゲイシャ」だ。 こっちは「迎車」だけど。 で、タクシーの迎車ってのはほとんど使ったことがないのだが、昔、肺を患って、病院に通って…

フリードリッヒ『山の十字架と聖堂』

絵画批評フリードリッヒの描く異形の「自然」 カスパール・フリードリッヒの絵にはじめて接したのは、二十歳ぐらいの頃だった。 ひまに任せて、家にあった『芸術新潮』をめくっているときに、突然、衝撃的な絵が目に飛び込んできたのである。 荒れた岩山の向…

ビルの谷間の空海

会社勤めをしていた頃、いちばん忙しいときは、土日も会社に泊まり込んでいた。 ある日曜日、会社を離れて街に出たときの情景を、今でも思い出すことがある。 何年前のことか忘れた。 ただ、画像を焼くCD-Rが切れたので、それを買うために、昼食を兼ねて外に…

諸星大二郎『暗黒神話』

スケール感にあふれる壮大な宇宙ロマン 諸星大二郎の『暗黒神話』を、また読み返す。 何度読んでも、面白い。 ストーリーが分かっていても、絵を観るだけで楽しい。 歴史、古代神話、考古学、宇宙科学という取り合わせによって描かれる彼の宇宙ロマンは、と…

自分を売り込んでも、自分の値段は自分で決められない

自己啓発本のほとんどは、「自分を売る」ことのノウハウを教えるものといってもかまわない。 いかにしたら、自分の能力や個性を相手に認めさせるか。 そのためには、「謙虚になること」、「相手に優しくなること」、「相手の立場を想像すること」などと諭さ…

カンブリア紀に栄えた恐怖の大魔王

最大・最強生物アノマロカリス 落ち込んでいるときは、古生物の話なんかにうつつを抜かしていると、癒される。 昔、「肺血栓症」の様態が安定するまで、病院の入退院を繰り返したり、家に閉じこもって安静を保った時期があった。 今のコロナ禍における「ステ…

村上春樹『女のいない男たち』

コロナ禍で「ステイホーム」が浸透したせいか、書店の売上げが伸びたという。 確かに、読書は、ある程度 “退屈な時間を持て余す” という気分に支えられるようなところがあるから、運動も外出も制限されたときのやるせない気分を紛らわせるには理想的な時間の…

「さらば愛しき女よ」

映画批評 映画「さらば愛しき女よ」のけだるく甘い切なさ 原題、『Farewell, My Lovely(フェアウェル・マイ・ラブリー)』。 レイモンド・チャンドラーが1940年に書いた同名小説をディック・リチャーズ監督が1975年に映画化した洒落た作品である。 ハードボ…

なぜいまだに“昭和的なるもの”が話題になるのか?

平成が終わろうとしていたころ、「今の若者が昭和歌謡に夢中 … 」みたいな情報がマスコミに流れていたことがあった。 そのころ、ふと思ったことがあった。 そういう若者たちが、「昭和」という言葉からイメージしているものって、いったい何なのだろう? 「…

『資本論』は優れたエンターテイメントである

ここのところ、「資本主義」をテーマにしたブログ記事をやたら書いている。 新型コロナウイルスによって、各国の経済活動が “鎖国状態” に入り、グローバル資本主義に急ブレーキがかかったように見えてきたからだ。 そういう状況下では、法政大学の水野和夫…

資本主義は「煩悩」を全面開花させる

書評水野和夫 著 『資本主義がわかる本棚』 いま我々が暮らしている社会は、「資本主義社会」と呼ばれる社会である。 それがどんな社会かというと、「煩悩(ぼんのう)」をかぎりなく肯定していく社会といっていい。 「煩悩」とは仏教用語で、「人の苦の原因…

ドラマ『野ブタ … 』は何を訴えていたのか?

ネットニュースの「文春オンライン」(2020年5月16日)で、霜田明寛さんというライターが、15年ぶりに再放送されている『野ブタ。をプロデュース』が、なぜ今の時代に大反響を呼び起こしているのか? … ということを分析されていた。 私は、当時そのドラマを…

ソウル・ミュージック解説本の名著

高校生の頃、自分の好きな音楽が変った。 1960年代後半のことである。 それまでは、同じ年ぐらいの仲間と同じように、「ロック」と呼ばれる白人系の洋楽を聞いていた。 ビートルズやローリング・ストーンズというビッグネームはもちろん、クリーム、レッド・…

「コロナ後」に世界の風景は変わっているか?

世界中で、コロナ対策のロックダウンが徐々に解除されてくると、各メディアから、「アフターコロナ(コロナ後)」という言葉が出回り始めた。 人々の心に、「コロナ騒動」が終息したあとの世界を問う意識が生まれてきたからだ。 日本においても、「緊急解除…

コロナによる経済的疲弊は日本に何をもたらすか

新型コロナの感染拡大を防止すための「緊急事態宣言」の解除が始まったことを機に、コロナ禍による疲弊した経済をどう立て直すかという議論も活発になってきた。 コロナ禍をやり過ごすために「自粛生活」を強いる指導方針がこのまま続くと、日本の経済的損失…

堀江貴文は庶民をバカにしている

先週の日曜日『サンデージャポン』(TBS)で、堀江貴文(ホリエモン)が、政府の緊急事態宣言を批判し、それに唯々諾々と従った国民を汚い言葉でこき下ろした。 私は、ちょうどその番組を家で見ていたが、そう発言するホリエモンに憤りを覚えた。 彼の言って…

どんな瞬間に企画は生まれるのか

人間は、絶えず何かを「企画」しながら生きている。 「企画」というと、広告代理店とか編集プロダクションの “専売特許” のように思われがちだが、普通の営業でも、製造業に関わる工場労働においても、仕事を続ける上で「企画」は必要とされる。 資本主義原…

掌編小説「狐部隊」

「狐部隊って知ってた?」 隣りに座った女は、そう言って私の方を振り向く。 「いいや。… 何それ?」 私は、物憂く返事する。 深夜のパブだ。 とっくに電車は終わっている。 地下室の穴倉みたいなカウンターに座っている客は、もう私と女しかいない。 カウン…

『桐島、部活やめるってよ』とスクールカースト  

「スクールカースト」という言葉がある。 カーストとは、インドで古代から現代に至るまで連綿と続く身分差別制度のことだが、そのような身分差別が、今の日本の中学・高校あたりに広がっている様子を指す言葉だ。 最近はあまりこの言葉を耳にしなくなってき…

映画『嵐を呼ぶ男』の主題歌は隠れた名曲だ

両親は日本人なのに、突然変異的に西洋人のハーフのような顔つきで生まれてしまった子どもがいる。 音楽にも、そういうものがある。 出自は歌謡曲ながら、奇妙に “洋楽っぽい” 部分が突如顔を出すというような曲があるのだ。 昭和歌謡に多い。 こういう曲に…

ヒマラヤを越えるアネハヅル

凄いドラマだよな。 ヒマラヤを越えていくツルたちの話。 夏の間、モンゴル高原で暮らすアネハヅルという鳥は、冬が近づくと、仲間同士が編隊を組んで、暖かいインドに旅立つ。 その中には、生後3ヶ月ほどの若鳥たちのグループもいる。 彼らは、大人たちと…

「素数」の神秘

高校生の頃、「数学」が苦手だった。(今でもそうだ) 10段階の通信簿で、最高評価が「2」だったし、数学のテストでは、代数も幾何も、100点満点で2~3点を取るのが精いっぱいだった。 「国語」とか「倫理社会」とか「歴史」ってのは、まぁまぁの点を取っ…

邪悪なるものの美学(岩井志麻子の『楽園』)

性愛が最も高揚した瞬間に、人は「死」に隣接していることを、われわれは日常的に知ることがない。 おそらく性愛の瞬間においても、それを実感する機会は少ないであろう。 ただ、優れた文学、絵画、映画などだけが、その事実を教えてくれる。 岩井志麻子の『…

目玉が飛び出るほどの激痛

人間には、突如予期せぬ痛みが襲ってくることがある。 歯が痛い。 頭が痛い。 お腹が痛い。 痛みにはいろいろな種類があるけれど、「居ても立ってもいられない !」というほどの激しい痛みはそうやたらあるものではない。 だけど、私の場合、そういう痛みが…

ビートルズに出会うまで(私の音楽遍歴)

自分の洋楽体験の話を少しする。 私は、1950年生まれ。 これを書いている2020年で、70歳になる。 もの心がついた頃、… つまり5~6歳ぐらいだった自分の周りには、童謡か歌謡曲しかなかった。 J ポップなどあるわけもなく、ジャズもロックもなかった。 当時…

吉本隆明に対する二度目の挫折

合田正人氏の書いた『吉本隆明と柄谷行人』(PHP新書)という本を読んだ。 この二人の思想家の名前は、若い頃に人文系思想書に没頭したシニア世代なら、忘れられない名前かもしれない。 著者の合田氏がまさにその一人であるようだ。 「1975年に大学に入学し…

推理小説の金字塔『点と線』(松本清張)

「推理小説」といわれるものを、ほとんど読んだことがない。 好き嫌いというレベルではなく、トリックとか “からくり” といったたぐいのものが、能力的に理解できないのだ。 つまり、そういう理数的な “構造体” を理解する力が自分には致命的に欠けていて、…

モノクロ画像による大人の写真集

写真評論エルンスケン 『セーヌ左岸の恋』 「大人」というのは、年齢のことではなく、文化概念である。 「ビールの苦さが分かるようになれば、大人だ」 などとよく言うけれど、ビールは子供が飲んでも、大人が飲んでも苦いことには変わりない。 しかし、その…

メジャーセブンスの魔法

「都会の夜」を音楽で表現するときの和音 「都会の夜に似合うサウンド」 そんな言葉があったら、多くの人はどんな音楽を連想するだろうか。 私の場合は、一言ですむ。 メジャーセブンス系の和音で作られた音だ。 まばゆいネオンライトに照らされたストリート…