アートと文藝のCafe

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カンブリア紀に栄えた恐怖の大魔王

最大・最強生物アノマロカリス

 
 落ち込んでいるときは、古生物の話なんかにうつつを抜かしていると、癒される。
 
 昔、「肺血栓症」の様態が安定するまで、病院の入退院を繰り返したり、家に閉じこもって安静を保った時期があった。
 今のコロナ禍における「ステイホーム」と同じ状況を経験していたのだ。
 
 もともと独りでいる時間を耐えることは、それほど苦痛ではない。

 

 しかし、体が思うように動かないということとは別に、社会との接点を断ってしまうと、気力も一気に萎えることがある。

  
 そんなとき、何をしていたかというと、古生物の本などを読んで気を紛らわせていた。

 

 面白かったのは、カンブリア紀の奇妙な生き物たちの話。
 「古生物」というと、恐竜が一番人気だけど、それ以前の生き物たちも、よく調べてみるとなかなか面白い。
 
 とくに興味をもったのが、「アノマロカリス」という生き物。
 本を読んで知ったことだが、アノマロカリスというのは、「奇妙なエビ」という意味だという。
 

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アノマロカリスWikipediaより)
 


 確かに、イラストを見るとエビっぽい。
 が、この “エビ” は、今から5億年前のカンブリア紀においては、食物連鎖の頂点に立つ最大・最強の生物だったらしい。

 

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 この時代、生物の種類が突然増えた。
 専門家は、これを「カンブリア紀の爆発」という。
 特に、硬い殻(から)を持ったさまざまな生物が海中を埋め尽くすようになった。
  
 なぜ、このとき生物の多様化が進んだのかは、諸説ある。
 また、殻を持つ生物がなぜ生まれたかということに関しても、諸説ある。
  


 忘れてならないのは、この時代に、生物たちがいっせいに「眼」を持ったことだ。
 
 それまで、地球は霧に覆われた世界だったので、眼は不要だった。
 ところがカンブリア紀に入って太陽の光が増大し、その光りが霧を突き破って海中をも透過するようになった。

 

 生物たちは、その光に反応する器官を持つようになったのだ。
 それが「眼」だった。  


 眼を持つとは、一体どういうことなのだろうか?
 
 すべての生き物が、お互いの存在を確認し合うようになったことを意味する。
 そのとき、
 「あ、あいつは俺より小さいから食べてやれ」
  なんていう乱暴なヤツが現れてきて、海の中は一気に弱肉強食の世界になったと思われる。


 
 この時代、殻(から)を持つ生き物が現れたのは、そこで生じる戦いへの備えだったかもしれない。
 (それとは関係なく、偶然殻を持ったに過ぎないという学者もいる)
 
 で、殻を持った生物の代表的なものが、ちょっとゴキブリっぽい形をした三葉虫
 大きいものは60㎝~70㎝もあったといわれ、太古の海を生きる生物としては立派な体格の持ち主だった。
 

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三葉虫の化石 (Wikipediaより)
 
 が、そんな三葉虫族に容赦なく襲い掛かり、ガッツリ捕食していたのが、体調1mはあったと思われるアノマロカリス

 

 なにしろ、当時はこれより強い生物は他にいなかったらしく、ジュラ紀でいえばティラノザウルス。今のアフリカのサバンナでいえばライオンのように、「無敵の帝王」として振る舞っていたらしい。
 
 しかし、そんな最強生物の存在が知られるようになったのは、比較的最近 1980年代のことだという。
 
 というのは、その全体像を伝えるような化石がなかったからだ。
 アノマロカリスというのは、その捕食肢(ほしょくし)やら、口やら、胴として残された化石をパズルのように組み合わせることによって、ようやくその全貌が分かった生物だったのだ。

 
 最初に化石として発見されたのは、その捕食肢 つまりエサをバクっと押さえるための触手 つぅか、ハサミっていうのか、そこの部分だった。
 その形がエビに似ていた。

 

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 だから、最初の発見者は、それを大きな生物の捕食肢(ハサミ?)とは思わず、それ自体が単体のエビだと判断した。(アノマロカリス 奇妙なエビという命名はそこから生まれている)。
 
 捕食肢が “エビ” だと思われたのは仕方がなかった。
 その部分だけでも、10㎝ぐらいあったからだ。
 大きな生き物のいなかったカンブリア紀の海では、10㎝もあれば、立派な体躯を持つひとつの生き物だった。
 
 それとは別に、胴と口の化石も、それぞれ別個に発見された。
 しかし、これも捕食肢と同じように、最初は独立した生き物だと勘違いされた。
 胴はナマコの仲間に分類され、口はクラゲの仲間の扱いを受けた。
  


 しかし、一部の学者たちは、やがてその “エビ(捕食肢)” に疑問を感じるようになった。
 アノマロカリスの捕食肢はその後もたくさん発見されたが、奇妙なことに、どの化石にも消化管がない。
 つまり、食べた物を消化する機能を持たない生物ということになってしまう。

  
 そこで、「これはなんかもっと大きな生き物の “一部” ではないのか?」という推論が生まれ、そこからアノマロカリスの本格的研究が進むようになったという。
 
 こうして、別個の生き物だと思われていた捕食肢と、胴と、口が統合されたとき、学者たちは、その生物の巨大さ(といっても1mだが )と、その捕食行動を完璧にこなすための身体構造に舌を巻いたという。

 

 神ですらこのような完全無欠の捕食者を設計するのは難しい と思われるほどの恐ろしい生き物だったのだ。

 

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 だが、このカンブリア紀の帝王は、その後どうなったのか。
 それ以上のものに進化することもなく、いつのまにか姿を消したらしい。
 
 食物連鎖の頂点に立つ無敵の王者がなぜ滅んだのか。
 答えは闇の中。
 
 しかし、生物の歴史ではそのようなことが頻繁に起こる。
 そして、その多くは謎に包まれた長い年月を送ることになる。
 恐竜が絶滅した原因も、真相が知られるようになったのは比較的最近のことだ。

 

 いつかは、アノマロカリスが姿を消した理由も明るみに出るだろう。
 それがちょっと楽しみ。