アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

『月はどっちに出ている』は今だからこそ解る映画だ

去年(2023年)の暮れに近い時期のことである。 2022年に亡くなった映画監督の崔洋一を偲んで放映された『月はどっちに出ている』を、BSシネマで久しぶりに観た。 最初に観たのが1990年代だったから、30年ぶりである。 細部はかなり忘れていたが、それでもや…

1箱に入っている煙草の本数は、実は決まっていない

煙草をやめて、7~8年経つ。 その時期に肺を患って入院したおかげで、スパッと断ち切ることができた。 おかけで、禁煙後に会った人たちからは、 「ずいぶん顔色が良くなったな」 と言われた。 それ以前は、土葬されて掘り起こされたゾンビみたいな顔色だっ…

「余韻」の正体

俳句や短歌、そして短いポエムといった文芸形式は、みな短い言葉のなかに、最大級の「美」と「真実」を残すため、言葉の壮絶な “ダイエット” が行われている。 面白いのは、削られた言葉の方に、「美」や「真実」が残ることだ。 私たちは、通常それを「余韻…

女同士のケンカ

お昼時ぐらいに商店街を歩いていたら、私鉄の駅前で、何やら騒がしい一団が口角(こうかく)泡を飛ばして、激論していた。 男1人に女2人。 男を挟んで、左右の女が眦(まなじり)を決して、お互いを罵り合っている。 その声のでかいこと、でかいこと !! 近…

米谷清和の絵は、観る人の「言葉」を奪う 

絵画批評 絵を観るということは、何をすることか? 絵を観るのは、昔から好きだった。 特に気に入った絵に接すると、その絵から、目に見えない「扉」のようなものが突然開いて、その奥に見知らぬ空間が顔を覗かせているように思えることがある。 そのときの…

ドリフターズの笑いの秘密が今よく分かる

“昭和のお笑い” を代表する芸人グループ「ドリフターズ」のコントを久しぶりに観た。「ドリフターズ」の結成60周年を記念した「ドリフ大爆笑 国民が選ぶベストコント60」(フジテレビ)という番組である。 彼らのお笑いのパワーに、改めて圧倒されたといって…

『イノセンス』の映像は資本主義のメタファーである  

押井守 作 アニメ『イノセンス』を読み解く 中学生のときに同じクラスで知り合い、今でも年に2~3度ほど会う友人グループがいる。 みな70代に差し掛かった老人たちだ。 しかし、中学時代に小説や評論を持ち寄って同人雑誌をつくった仲だけに、会うと、あい…

レプリカントの命(ブレードランナー論序説)  

映画『ブレードランナー』に影響を与えた1940年代アメリカ文化 昔、通勤で使っている駅前で、屋台のラーメンを食べていたときのことだった。 「酔いざましに、ラーメンを食って解散しよう」 … という感じの初老のサラリーマンが3人。酒臭い息を漂わせながら…

ジャズはいつだって大人の音楽

昔から、ジャズを聞いていると、いつも「大人の音」というイメージを持つことが多かった。 その気分を伝えるためのうまい言葉がなかなか見つからない。 強いていえば、大人の切なさ、大人の粋さ、大人のカッコよさ、大人のずるさといったものが、モヤモヤと…

「ことわざ」は突っ込みどころ満載だ  

人生の真実を、気の利いた言葉の中に鮮やかに集約する「ことわざ」。 日本人が、古来より受け継いできた「ことわざ」は、まさに、生きるための知恵の結晶である。 だけど、よく考えてみると、どれも「なんか変 … 」という感触がつきまとう。 たとえば、 「負…

歌声喫茶

「歌声喫茶」という喫茶店がある。 ロシア民謡とか昔の小学唱歌のような歌を、店に居合わせたお客たちが一斉に合唱する喫茶店のことだ。 ▼ 「歌声喫茶」 BSフジ『昭和は輝いていた』より そういう店が都内にもたくさんあるという話を聞いたのは、50年以上も…

クールな空気感の静かなヤクザ映画

映画批評北野武 『アウトレイジ』&『アウトレイジ ビヨンド』 前回のブログで、松本人志がつくった映画を語る際に、北野武監督の映画を引き合いに出した。 今回は、その北野武の映画についてあらためて紹介する。 2010年~2012年に公開された『アウトレイジ…

松本人志の闇のようなニヒリズム

ネットニュースでは、松本人志の「性加害疑惑事件」への言及が止まらない。 ジャーナリストも芸人たちも、この事件に対しては、こぞってコメントを発したがっている。 たぶん、この件に言及すれば、自分の名前がSNS上で大いに拡散することに気づいたからだろ…

今の日本に何が起こっているのだろう?

今年は、元旦から能登半島地震が起こり、翌2日には羽田空港の滑走路における航空機事故が起きた。 なんとも波乱に満ちた幕開けとなった2024年。 思い出せば、昨年(2023年)もとんでもないことがたくさん起こった年だった。 世界的にみれば、一昨年から続い…

謹賀新年

小説「最終電車」

乗客は静かだった。 眠っている初老の男ひとり。 女性週刊誌を眺めている独身風の中年OLひとり。 抱き合っている学生のカップルが一組。 乗っているのは、私を含めその5人だった。 私は、席に座って眠ってしまうのを避けるために、車両の最後部に立ち、退屈…

年末の大捕りもの

チュー太郎 覚悟せい! カミさんに、「絶対ブログなんかに書いちゃだめよ」と、きつく念を押されているネタがある。 「家の恥」 というものに当たるのだそうだ。 まぁ、俺も「いいネタ」じゃないことは分かる。 他人様から “後ろ指さされる” というたぐいの…

『私をスキーに連れてって』という映画の不条理感  

映画評クリスマスが表層的な文化として定着した代表例 映画としての大ヒット作だった『私をスキーに連れてって』(1987年公開)は、また音楽としても大ヒット曲と結びついている。 それは、ユーミンが歌った『恋人がサンタクロース』だ。 映画自体は、当時、…

大河ドラマ『どうする家康』は失敗だったのか?

ドラマ批評 ようやく面白くなってきたと思ったら、終わり。 そんな感じで最終回を迎えるNHKの『どうする家康』。 平均10%台を記録していた視聴率も、ここにきて1ポイント上昇。11%台をまで跳ね上がってきたという。 しかし、平均視聴率でみると、62回とい…

ゴジラ様! カッコいい!

映画批評 “ゴジラ・ファン” にとって、ゴジラ映画の最大の関心事は、とにかく、 「ゴジラの姿がカッコいいか? どうか?」 である。 そりゃ、ストーリーも大事。 キャストの演技も大事。 しかし、それは、映画の構成要素としては、二の次、三の次。 ゴジラ映…

阪神タイガースの奇跡

現在73歳。 東京生まれで、東京育ち。 それでも50年間、“大阪の阪神” ファンをやっている。 江夏、田淵という選手が輝きを放っている時代の阪神に魅せられたのだ。 東京という土地柄もあって、周りの友達はみな巨人ファンだった。 しかし私は、完璧なチーム…

将棋というゲームの恐ろしさ

2023年10月11日、将棋の藤井聡太名人が「王座戦」で、永瀬拓哉九段を下し、ついに8冠を達成した。 そのニュースが脚光を浴びたせいで、それ以降、テレビなどではその対局の棋譜(きふ)を紹介しながらプロの棋士(きし)が解説するシーンが増えた。 それら…

『どうする家康』は面白いのかどうか

2023年の大河ドラマ『どうする家康』が、この1月8日から始まった。 ここに至るまでのNHKの番宣はすさまじかった。 年末から年始にかけて、BS放送も含め、NHKの歴史教養番組はことごとく「徳川家康」に焦点を当てた。 前作『鎌倉殿の13人』が大ヒットしたこ…

謹賀新年

あけましておめでとうございます。

サッカー解説にも新しい波

日本中が熱気に包まれたサッカーのワールドカップが終わってしまった。 今回も、結局日本チームは「ベスト8」の壁を打ち破ることができず、テレビを通じて観戦していた自分としては悔しい思いをしたが、しかし今回の「ベスト16」進出は、今までとは違ったも…

“玉川徹問題” にみる電通文化の終わり

19日(水曜日)。 テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」の冒頭に、10日間の謹慎処分を解かれたコメンテーターの玉川徹氏が登場し、「電通と菅氏には申し訳ないことをした」と謝罪。 「今後は現場の取材を中心に番組構成に携わる」と発言した。 つまり今…

安倍氏の「国葬」問題が暴き出したもの

2022年 9月27日(火曜日)。 安倍晋三元首相の「国葬」が行われた。 最後まで賛否両論に分かれた国葬だった。 葬儀場となった武道館周辺では安倍氏を偲んで献花に訪れる人々が長蛇の列をつくったが、一方、その近くでは「国葬反対」のプラカードを掲げた市民…

カラバッジョの謎の作品

恐くて、美しい眼の女 かくも恐ろしく、かつ美しい眼をした女性を描いた絵を、ほかに知らない。 タイトルは、「ホロフェルネスの首を斬るユディト」。 西洋絵画ではおなじみのテーマで、クラナッハ、クリムトなど有名な画家の無数の作品が残されている。 し…

他国に軍事介入した国は必ず失敗する

プーチン大統領のロシア軍が隣国ウクライナに侵攻して2ヶ月が経ったが、相変わらず、各国のニュースが戦況の報告に時間を割いている。 そういう報道のなかで、 「ロシアは悪。ウクライナは善」 という単純な二分法を批判する意見が目立つようになってきた。…

思ってもいない言葉が口をつく

人間、追いつめられて、疲労も蓄積してくると、頭脳と肉体がそれぞれ別の方向に向かって歩き出してしまうことがよくある。 思ってもいない言葉が、ふと口をつくというヤツ。 いくつかの例があるが、私の場合、そのひとつが、「意味のない独り言」。 先だって…