19日(水曜日)。
テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」の冒頭に、10日間の謹慎処分を解かれたコメンテーターの玉川徹氏が登場し、「電通と菅氏には申し訳ないことをした」と謝罪。
「今後は現場の取材を中心に番組構成に携わる」
と発言した。
つまり今後は、「コメンテーター」という形でスタジオからは発言しないということらしい。
私は、玉川氏に好感を感じる視聴者の一人としてこの問題に関してずっと関心を持っていたので、とりあえず現場の取材レポーターとして彼の姿を観ることができることに多少安堵している。
ことの発端は、9月28日のオンエア中、玉川氏は、安倍晋三元首相の国葬に出席した菅義偉前首相の弔辞に触れ、その内容は(広告代理店の)電通がつくったものだと断言。
「僕は演出側の人間としてテレビのディレクターをやってきましたから。(僕だったら)そういうふうに作りますよ」
と言い切ったことだった。
もちろんこれは事実誤認だったので、玉川氏は翌日に謝罪し、発言を撤回した。
しかし、ことはそれで終わらなかった。
氏の発言は安倍元首相の「国葬批判」にもつながるものだったので、安倍氏寄りの自民党議員たちが怒りの声を上げた。
特に、菅前首相の弔辞は、批判的な見方も多かった今回の国葬におけるもっとも “感動的” なシーンだったので、それを否定的に語った玉川氏は自民党議員の集中砲火を浴びることになった。
現に、自民党の西田昌司参院議員などは、ユーチューブで玉川氏を次のように批判し
「菅氏の弔辞を完全に腐す無礼千万なコメント。事実に基づかないで(テレビ朝日の)一社員が腐す発言をするというのはお詫びで済む話じゃない。 テレビ朝日としての責任を取ってもらいたい。 厳正な処分をしないといけない」
こういう流れを受けて、10月6日には、テレビ朝日で開かれた「放送番組審議会」で
その発言記録を入手した「文春オンライン」によると、審議会に出席した委員は、幻冬舎の見城徹社長、弁護士の田中早苗氏、作詞家の秋元康氏、脚本家の内館牧子氏、スポーツコメンテーターの小谷実可子氏、作家の小松成美氏、サイバーエージェントの藤田晋社長、ジャーナリストの増田ユリヤ氏の8名。
その審議は2時間に及び、
「(玉川氏は)何を根拠にあれだけの問題を公器で言ったのか」
と玉川氏を糾弾する意見が相次いだという。
それにしても、この玉川氏への批判の声の大きさは何を示したことになるのだろう。
はっきりいうと、これは、日本の広告界を牛耳っていた電通と、そういうビジネスを容認してきた自民党主流派の「終わり」を意味するものだということだ。
東京五輪の贈収賄事件が暴き出したのも、電通的ビジネスの “闇” だった。
その背後には、自民党の元組織委員会会長の森喜朗元首相が絡んでいるという見方が一般的だ。
結局、金まみれの五輪にしたのは、「電通」OBで元組織委員会理事の高橋治之氏と、自民党の五輪推進派が後押ししたものだったといえる。
(それは、あの五輪の開幕式と閉会式のお粗末なパフォーマンスが象徴的に示している)。
この一連の贈収賄事件には、紳士服大手の「AOKIホールディングス」、出版大手の「KADOKAWA」も絡んでいたことが明るみに出た。
広告代理店。 ファッションブランド。 出版文化。
そういう “昭和的な” 産業がすべて凋落したことが示された事件だった。
つまり、安倍元首相の「国葬」というのは、結局そんな “昭和的” なビジネスと文化が終わったことを示す事件だったといえなくない。
「モーニングショー」で、玉川氏が、
「菅元首相の弔辞には電通が絡んでいる」
と言い切ったことは、もちろん事実誤認てあったが、しかし、いみじくも昭和的なものの終焉を象徴的に語ったものだと私は感じている。
今回の騒動を受けて、SNSでは、玉川氏の「事実誤認」を批判する人々の声が溢れた。
しかし、みんな何か勘違いしていないか?
ワイドショーのコメンテーターの仕事は、ニュースの内容を正しく繰り返すことだけではない。
「そのニュースが、視聴者が考えるに値するかどうか」
ということを示唆するのも仕事の一つだと考えている。
そういう観点で振り返ったとき、現在朝のワイドショーなどで、玉川氏以上の仕事をしているコメンテーターがどれだけいるだろうか。
“カリスマモデル” などという肩書で登場するギャル系のコメンテーター。 あるいは「人をいじる」ことしか芸のなお笑い系芸人たち。
これらの人々のコメントをまともに聞くこと以上に辛いことはない。
その点、玉川氏は視聴者に「考えるヒント」を与え続けてくれた人だった。
確かに多少軽率なところはあったが、玉川氏はそういう力を持ったコメンテーターの一人だったと私は思っている。