アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

文芸

庄野潤三の小説に流れる不思議な空気感

庄野潤三の短編集『プールサイド小景・静物』(新潮文庫)を買った。 収録されていた七つの短編にはそれぞれ独特の空気があって、どれも不思議な気分にさせられた。 どの作品も、昭和25年(1950年)から昭和35年(1960年)までの間に書かれたものである。 芥…

言葉にならないもの(柄谷行人について)

柄谷行人(からたに・こうじん)という批評家の本について、以前にも書いたことがあったが、そのなかの『意味という病』(1975年)という本をもう一度取り上げてみたい。 この著作は、シェークスピアの『マクベス』を論じた「意味に憑かれた人間」を中心に構…

オウム真理教とは何だったのか? (2)

※ 前回のブログ ↓ (2022年3月24日)の続き オウムの教義は資本主義のメカニズムをなぞった オウムの元信者たちのインタビューで構成された『約束された場所で』(1998年刊)という本で、著者の村上春樹は、オウム信者たちの奇妙な平板さに貫かれた精神に違…

オウム真理教とは何だったのか? (1)

村上春樹とオウム信者の対談 27年前、オウム真理教という宗教が当時の若者たちを惹きつけた理由は何だったのか。 小説家の村上春樹は、オウムの元信者たちにインタビューした『約束された場所で』(1998年刊 写真上)という書物で、オウムに関わった人々の精…

柄谷行人の初期文芸評論三部作

自分の生き方にふと迷いが生じたり、思考が行き詰まったり、周りの状況が霧に包まれてきたように感じられたときは、必ず読み返す本がある。 『畏怖する人間』(1972年) 『意味という病』(1975年) 『マルクスその可能性の中心』(1978年) の3冊だ。 著者…

山のクリスマス

山のクリスマス もうとっくに死んじゃったけど、俺のオフクロは、無類にクリスマスが好きだった。 戦争を体験して、物資の少ない時代を知ってた人だから、モノを大切にしていた。 だから、なんかのときに手に入れた、クリスマス用のきれいな赤い包装紙を毎年…

なぜ小説家になるのは難しいのか

僕の周りには、「小説を書いている」と、こっそり打ち明ける人が、昔からたくさんいた。 別に、僕が “文芸サークル” のようなものに所属していたということではない。 キャンパスの芝生広場で偶然話し合うようになった他の学部の人間とか、飲み屋でたまたま…

名言とは何か?

巷でよく「名言」とされる言葉を拾ってみると、その多くは、「人生の成功者」になるための “修行を説く” ようなものが多い。 たとえば、 「自分と同レベルだと思っていた隣人が成功すると、人間というものは屈辱を感じるものだ。しかし、その隣人の幸せに素…

「資本主義」の女神 瀬戸内寂聴

高度成長期の思想を反映した不倫小説 作家の瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)氏が2021年11月9日に逝去。 いっときテレビのワイドショーやニュース番組は、この報道に明け暮れた。 享年99歳。 その年まで明晰な頭脳を保ち、現役作家として活躍し、講演…

映画『燃えよ剣』の出来映え

強さのなかに甘さを隠した、新しい土方像 いい映画だった。 『燃えよ剣』(司馬遼太郎・原作/原田眞人・監督)。 あまり期待しないで映画館に入ったが、観ているうちに引き込まれ、土方歳三(岡田准一)が戦死する最後の戦闘シーンでは、つい目頭がウルウル…

片岡義男の再評価が始まる

このところ、小説家・エッセイストの片岡義男を再評価する動きが顕著になってきている。 朝日新聞では、現在「文化」欄で、片岡氏のロングインタビューの連載を開始した。 さらに、9月17日には『片岡義男を旅する一冊』(株式会社SHIRO 2,200円)というムッ…

必殺の剣法「薩摩示現流」

司馬遼太郎さんの幕末小説を読んでいると、「薩摩示現流(さつまじげんりゅう)」という言葉によく出くわす。 『新撰組血風録』 『燃えよ剣』 『竜馬がゆく』 『跳ぶが如く』 こういう作品群では、必ず「示現流」という剣術の話が紹介される。 NHKの大河ドラ…

司馬遼太郎 『坂の上の雲』を読む

バルチック艦隊の悲劇 司馬遼太郎の『坂の上の雲』は、日本近代史を深堀りする画期的な名著の一つに数えられるが、私が読んでいちばん記憶に残っているのは、意外にも、“敵国” として描かれたロシア軍の記録なのだ。 なかでも、バルチック艦隊の悲劇は、魂を…

司馬遼太郎に洗脳された日本人 … だってよ

近頃、いろいろな方のブログを拝読していると、広告の掲載欄を残しているものに、次のような広告を見る機会が増えた。 「司馬遼太郎に洗脳された日本人」 「司馬遼太郎の日本史」の罠 一般人のブログのみならず、有名ブロガーとしてネットに多くの読者を持つ…

作詞のコツ

夕食を食いながら、テレビで「日本作詞家大賞」の選考会を兼ねた歌番組を観ていた。 大半が演歌である。 テロップに流れる歌詞だけ眺めていると、どれもたいしたことのない詞に思える。 ありきたりの言葉だけが連なる何のヒネリもない詞ばかり。 …… と思って…

吉行淳之介 『驟雨』

「驟雨」という言葉がある。 「しゅうう」と読む。 にわか雨、それも糸のような淡い走り雨のことをいう。 この言葉を覚えたのは、吉行淳之介の短編『驟雨』を読んでからである。 小説のテーマは、娼婦とその客との間に繰り広げられる淡い恋愛ドラマだ。 たぶ…

現代の「不倫」が貧しいわけ

「不倫」がこれほど社会的バッシングを受けるようになってきたのは、いったいいつ頃からだろう。 最近のテレビ報道などを見ていると、不倫が発覚したタレント・芸能人に対する番組コメンテーターや視聴者の糾弾がどんどん激しさを増している。 その理由を探…

三島由紀夫 没後50年

作家の三島由紀夫が、自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた事件(1970年11月)から、今年で50年経つ。 それにちなんで、テレビも含め、いろいろなメディアで三島の生前の功績やあの事件の意味を問うような企画が続いた。 昨日の夜、その一つであるEテレの…

『雲霧仁左衛門』と「陰翳礼讃」的な日本美学

NHK総合の「土曜時代ドラマ」枠で放映されている『雲霧仁左衛門』が楽しみになった。 ハードディスクに録画し、のんびりできる時間を見つけて、ゆっくり見ている。 もとは、BSプレミアムで、2013年から放送されていたものらしい。 いま流れているのは、その…

貨幣のいたずらに人間は悩みかつ魅せられる

「岩井克人『欲望の貨幣論』を語る」について 「貨幣」とは何か? 誰にとっても自明な存在である “おカネ” というものは、実は人類がなかなか究明しきれない謎のかたまりであるそうな。 人々がおカネを欲しがるのは、どういう理由なのか? こんなバカげた質…

『松田聖子と中森明菜』80年代歌姫たちの対決

この2020年4月に、松田聖子はデビュー40周年を迎えたという。 40年前といえば、1980年。 山口百恵が引退して、日本の女性アイドルが変った年だ。 この1980年という年は、アイドルが変わっただけではなかった。 時代そのものが変化し始めていた。 その変化を…

ビルの谷間の空海

会社勤めをしていた頃、いちばん忙しいときは、土日も会社に泊まり込んでいた。 ある日曜日、会社を離れて街に出たときの情景を、今でも思い出すことがある。 何年前のことか忘れた。 ただ、画像を焼くCD-Rが切れたので、それを買うために、昼食を兼ねて外に…

村上春樹『女のいない男たち』

コロナ禍で「ステイホーム」が浸透したせいか、書店の売上げが伸びたという。 確かに、読書は、ある程度 “退屈な時間を持て余す” という気分に支えられるようなところがあるから、運動も外出も制限されたときのやるせない気分を紛らわせるには理想的な時間の…

「さらば愛しき女よ」

映画批評 映画「さらば愛しき女よ」のけだるく甘い切なさ 原題、『Farewell, My Lovely(フェアウェル・マイ・ラブリー)』。 レイモンド・チャンドラーが1940年に書いた同名小説をディック・リチャーズ監督が1975年に映画化した洒落た作品である。 ハードボ…

『資本論』は優れたエンターテイメントである

ここのところ、「資本主義」をテーマにしたブログ記事をやたら書いている。 新型コロナウイルスによって、各国の経済活動が “鎖国状態” に入り、グローバル資本主義に急ブレーキがかかったように見えてきたからだ。 そういう状況下では、法政大学の水野和夫…

資本主義は「煩悩」を全面開花させる

書評水野和夫 著 『資本主義がわかる本棚』 いま我々が暮らしている社会は、「資本主義社会」と呼ばれる社会である。 それがどんな社会かというと、「煩悩(ぼんのう)」をかぎりなく肯定していく社会といっていい。 「煩悩」とは仏教用語で、「人の苦の原因…

『桐島、部活やめるってよ』とスクールカースト  

「スクールカースト」という言葉がある。 カーストとは、インドで古代から現代に至るまで連綿と続く身分差別制度のことだが、そのような身分差別が、今の日本の中学・高校あたりに広がっている様子を指す言葉だ。 最近はあまりこの言葉を耳にしなくなってき…

邪悪なるものの美学(岩井志麻子の『楽園』)

性愛が最も高揚した瞬間に、人は「死」に隣接していることを、われわれは日常的に知ることがない。 おそらく性愛の瞬間においても、それを実感する機会は少ないであろう。 ただ、優れた文学、絵画、映画などだけが、その事実を教えてくれる。 岩井志麻子の『…

吉本隆明に対する二度目の挫折

合田正人氏の書いた『吉本隆明と柄谷行人』(PHP新書)という本を読んだ。 この二人の思想家の名前は、若い頃に人文系思想書に没頭したシニア世代なら、忘れられない名前かもしれない。 著者の合田氏がまさにその一人であるようだ。 「1975年に大学に入学し…

推理小説の金字塔『点と線』(松本清張)

「推理小説」といわれるものを、ほとんど読んだことがない。 好き嫌いというレベルではなく、トリックとか “からくり” といったたぐいのものが、能力的に理解できないのだ。 つまり、そういう理数的な “構造体” を理解する力が自分には致命的に欠けていて、…