アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

文芸

『雲霧仁左衛門』と「陰翳礼讃」的な日本美学

NHK総合の「土曜時代ドラマ」枠で放映されている『雲霧仁左衛門』が楽しみになった。 ハードディスクに録画し、のんびりできる時間を見つけて、ゆっくり見ている。 もとは、BSプレミアムで、2013年から放送されていたものらしい。 いま流れているのは、その…

貨幣のいたずらに人間は悩みかつ魅せられる

「岩井克人『欲望の貨幣論』を語る」について 「貨幣」とは何か? 誰にとっても自明な存在である “おカネ” というものは、実は人類がなかなか究明しきれない謎のかたまりであるそうな。 人々がおカネを欲しがるのは、どういう理由なのか? こんなバカげた質…

『松田聖子と中森明菜』80年代歌姫たちの対決

この2020年4月に、松田聖子はデビュー40周年を迎えたという。 40年前といえば、1980年。 山口百恵が引退して、日本の女性アイドルが変った年だ。 この1980年という年は、アイドルが変わっただけではなかった。 時代そのものが変化し始めていた。 その変化を…

ビルの谷間の空海

会社勤めをしていた頃、いちばん忙しいときは、土日も会社に泊まり込んでいた。 ある日曜日、会社を離れて街に出たときの情景を、今でも思い出すことがある。 何年前のことか忘れた。 ただ、画像を焼くCD-Rが切れたので、それを買うために、昼食を兼ねて外に…

村上春樹『女のいない男たち』

コロナ禍で「ステイホーム」が浸透したせいか、書店の売上げが伸びたという。 確かに、読書は、ある程度 “退屈な時間を持て余す” という気分に支えられるようなところがあるから、運動も外出も制限されたときのやるせない気分を紛らわせるには理想的な時間の…

「さらば愛しき女よ」

映画批評 映画「さらば愛しき女よ」のけだるく甘い切なさ 原題、『Farewell, My Lovely(フェアウェル・マイ・ラブリー)』。 レイモンド・チャンドラーが1940年に書いた同名小説をディック・リチャーズ監督が1975年に映画化した洒落た作品である。 ハードボ…

『資本論』は優れたエンターテイメントである

ここのところ、「資本主義」をテーマにしたブログ記事をやたら書いている。 新型コロナウイルスによって、各国の経済活動が “鎖国状態” に入り、グローバル資本主義に急ブレーキがかかったように見えてきたからだ。 そういう状況下では、法政大学の水野和夫…

資本主義は「煩悩」を全面開花させる

書評水野和夫 著 『資本主義がわかる本棚』 いま我々が暮らしている社会は、「資本主義社会」と呼ばれる社会である。 それがどんな社会かというと、「煩悩(ぼんのう)」をかぎりなく肯定していく社会といっていい。 「煩悩」とは仏教用語で、「人の苦の原因…

『桐島、部活やめるってよ』とスクールカースト  

「スクールカースト」という言葉がある。 カーストとは、インドで古代から現代に至るまで連綿と続く身分差別制度のことだが、そのような身分差別が、今の日本の中学・高校あたりに広がっている様子を指す言葉だ。 最近はあまりこの言葉を耳にしなくなってき…

邪悪なるものの美学(岩井志麻子の『楽園』)

性愛が最も高揚した瞬間に、人は「死」に隣接していることを、われわれは日常的に知ることがない。 おそらく性愛の瞬間においても、それを実感する機会は少ないであろう。 ただ、優れた文学、絵画、映画などだけが、その事実を教えてくれる。 岩井志麻子の『…

吉本隆明に対する二度目の挫折

合田正人氏の書いた『吉本隆明と柄谷行人』(PHP新書)という本を読んだ。 この二人の思想家の名前は、若い頃に人文系思想書に没頭したシニア世代なら、忘れられない名前かもしれない。 著者の合田氏がまさにその一人であるようだ。 「1975年に大学に入学し…

推理小説の金字塔『点と線』(松本清張)

「推理小説」といわれるものを、ほとんど読んだことがない。 好き嫌いというレベルではなく、トリックとか “からくり” といったたぐいのものが、能力的に理解できないのだ。 つまり、そういう理数的な “構造体” を理解する力が自分には致命的に欠けていて、…

モノクロ画像による大人の写真集

写真評論エルンスケン 『セーヌ左岸の恋』 「大人」というのは、年齢のことではなく、文化概念である。 「ビールの苦さが分かるようになれば、大人だ」 などとよく言うけれど、ビールは子供が飲んでも、大人が飲んでも苦いことには変わりない。 しかし、その…

秀吉の成金趣味

ネットをさまよっていたら、 「豊臣秀吉という人は、とっても芸術的なセンスに恵まれた人だ」 というようなことを書いているブログを、発見した。 秀吉 … 芸術? あまり、ありえない言葉の組み合わせに思えて、少し注意深く読んでみた。 なかなか面白い記事…

「人生最後の読書」に選ぶ本

文芸批評光瀬龍 『百億の昼と千億の夜』 私たちが把握できる “宇宙” はどこまでか 我々が把握できる「空間」と「時間」は、はたしてどのくらいの規模までなのだろうか。 もし、目に見える範囲なら、我々は経験上、およその「空間」と、そこに至るまでの「時…

桜の樹の下には

コロナウイルスは、日本では “花見の季節” を直撃した。 いつもなら、桜の木を取り囲むようにブルーシートを敷いた団体が座り込み、昼夜を問わず宴たけなわの光景を展開するはずなのだが、さすがに今の時期、そういう光景は見られない。 そのためか、人気の…

桐野夏生の『抱く女』を読む

70年代全共闘運動の終焉 『抱く女』は、日本の現代女流作家を代表する桐野夏生(68歳)が2015年に発表した、自伝的色彩を持つ青春小説である。 それをこのブログで取り上げるのは、先だって書いた記事( 『全共闘運動はまだ総括されていない』 )を補完する…

ランボーやカフカよりも餃子のラー油

短歌を作るようになって、ちょうど1年ほど経つ。 知人に誘われて、地元の「短歌の会」に顔を出したのが、昨年の1月18日。 月1回の会に2首ほど用意して提出してきたが、わずか1年ほどの修行では成果が上がるわけもなく、勉強会を主宰する藤井徳子先生か…

『国盗り物語』 斎藤道三の最期

何度も読み返す本というのがある。 特に小説など、ある感銘を受けた情景が浮かんでくると、 「また、あそこが読みたいな」 という気分になり、その部分だけを拾い読みすることがある。 司馬遼太郎の書いた『国盗り物語』の題3巻。 斎藤道三(さいとう・どう…

短歌とは狂気を飼いならす作業である

短歌作家 穂村弘の『ぼくの短歌ノート』を、この前ようやく読了した。 この本については、一度このブログで触れた(↓)。 https://campingcarboy.hatenablog.com/entry/2019/01/29/072856 そもそも、読み始めたのは、ちょうど1年前だ。 つまり、1冊の本を…

村上春樹はもうノーベル賞を取れない

毎年この季節になると、村上春樹がノーベル文学賞を取るかどうかという話題がメディアに採り上げられるが、今年もそれは叶わなかった。 毎度のことなので、“ハルキスト” と呼ばれるファン層の落胆ぶりもそれほど話題にならなかった。 たぶん多くの日本人は分…

自作短歌の悪評例

ひょんなことから、“短歌の会” というのに参加するようになって、そろそろ半年になる。 『無窮花植ゑむ』などの著書をお持ちの藤井徳子(ふじい・のりこ先生 = 日本歌人クラブ)のご指導を仰ぎ、月1回くらいのペースで拙作の講評をいただいている。 例会は…

NHK『平成万葉集』にみる日本人の短歌ブーム

「平成」という時代もあと数日というときに、NHK制作の『平成万葉集』(BSプレミアム)という番組が放映された。 俳優の生田斗真と吉岡里帆が、素人の短歌を中心に拾い上げて朗読し、かつ実作者を訪ねてインタビューするという企画で、何回かに分けて放映さ…

穂村弘の文章は最高だ

文芸批評 理屈では語れない文章 「短歌ブーム」という話も聞く。 特に、これまで短歌と縁がなさそうな若い人が、最近関心を持ち始めているとも。 新元号の「令和」という言葉が万葉集から採られたというニュースがこれほど脚光を浴びたのも、その底辺には現…

『燃えよ剣』に描かれたテロリストの美学

司馬遼太郎の人気小説『燃えよ剣』の映画化が決まり、2020年に公開される予定だという。 主人公の歳三を演じるのは、岡田准一。 近藤勇役は、鈴木亮平。 沖田総司役には、Hey ! Say ! JUMPの山田涼介。 ほか、芹沢鴨が伊藤英明。 土方とからむ女性役には、柴…

戦争は平和の使者のような顔して近づいてくる

文芸批評 島尾敏雄『贋(にせ)学生』 いちばん危機が迫った社会というのは、一見、平和な相貌をしている。 大地は豊かな恵みを人間に与え、物資は潤沢に整い、時間はのんびりと流れ、人々の声は明るい。 ちょうど、太平洋戦争直前の日本がそうだった。 今の…

まっすぐな道はさびしい

俳句とか短歌が持っているなんともいえない情感が好きである。 病院などに入院して、退屈な午後をやり過ごしているとき、デイルームなどで拾った週刊誌などを開いていると、必ず短歌や俳句のページに目が行く。 病院という閉鎖空間に閉じ込められていると、…

見城徹氏の直球勝負で書かれた読書論

文芸批評『読書という荒野』 見城徹(けんじょう・とおる)氏の『読書という荒野』という本を読んだのは、2018年7月の猛暑日だった。 まさに、真夏の炎天下を思わせるような、熱い本だった。 すべて直球勝負。 それも、うなりとともに人の胸元をえぐってく…

フェルメールの絵からこっそり消されたものは何か?

書籍紹介 藤田令伊・著 『フェルメール 静けさの謎を解く』 フェルメール人気はどのようにして生まれたのか? 17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールに対する人気は、近年「異常」といえるほど高い。 書店では、各種の解説本が出回っているし、美術…

短歌から学べる現代社会

「短歌の会」というのに入って、3ヶ月経つ。 月に1回合評会が開かれる。 2月はサボってしまったが、その間につくった一首が「秀歌」に選ばれて、住んでいる市の広報に載った。 「おぉ !」 と思った。 だって、わが人生でたった3首つくったうちの1首だ…