アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

文芸

モノクロ画像による大人の写真集

写真評論エルンスケン 『セーヌ左岸の恋』 「大人」というのは、年齢のことではなく、文化概念である。 「ビールの苦さが分かるようになれば、大人だ」 などとよく言うけれど、ビールは子供が飲んでも、大人が飲んでも苦いことには変わりない。 しかし、その…

秀吉の成金趣味

ネットをさまよっていたら、 「豊臣秀吉という人は、とっても芸術的なセンスに恵まれた人だ」 というようなことを書いているブログを、発見した。 秀吉 … 芸術? あまり、ありえない言葉の組み合わせに思えて、少し注意深く読んでみた。 なかなか面白い記事…

「人生最後の読書」に選ぶ本

文芸批評光瀬龍 『百億の昼と千億の夜』 私たちが把握できる “宇宙” はどこまでか 我々が把握できる「空間」と「時間」は、はたしてどのくらいの規模までなのだろうか。 もし、目に見える範囲なら、我々は経験上、およその「空間」と、そこに至るまでの「時…

桜の樹の下には

コロナウイルスは、日本では “花見の季節” を直撃した。 いつもなら、桜の木を取り囲むようにブルーシートを敷いた団体が座り込み、昼夜を問わず宴たけなわの光景を展開するはずなのだが、さすがに今の時期、そういう光景は見られない。 そのためか、人気の…

桐野夏生の『抱く女』を読む

70年代全共闘運動の終焉 『抱く女』は、日本の現代女流作家を代表する桐野夏生(68歳)が2015年に発表した、自伝的色彩を持つ青春小説である。 それをこのブログで取り上げるのは、先だって書いた記事( 『全共闘運動はまだ総括されていない』 )を補完する…

ランボーやカフカよりも餃子のラー油

短歌を作るようになって、ちょうど1年ほど経つ。 知人に誘われて、地元の「短歌の会」に顔を出したのが、昨年の1月18日。 月1回の会に2首ほど用意して提出してきたが、わずか1年ほどの修行では成果が上がるわけもなく、勉強会を主宰する藤井徳子先生か…

『国盗り物語』 斎藤道三の最期

何度も読み返す本というのがある。 特に小説など、ある感銘を受けた情景が浮かんでくると、 「また、あそこが読みたいな」 という気分になり、その部分だけを拾い読みすることがある。 司馬遼太郎の書いた『国盗り物語』の題3巻。 斎藤道三(さいとう・どう…

短歌とは狂気を飼いならす作業である

短歌作家 穂村弘の『ぼくの短歌ノート』を、この前ようやく読了した。 この本については、一度このブログで触れた(↓)。 https://campingcarboy.hatenablog.com/entry/2019/01/29/072856 そもそも、読み始めたのは、ちょうど1年前だ。 つまり、1冊の本を…

村上春樹はもうノーベル賞を取れない

毎年この季節になると、村上春樹がノーベル文学賞を取るかどうかという話題がメディアに採り上げられるが、今年もそれは叶わなかった。 毎度のことなので、“ハルキスト” と呼ばれるファン層の落胆ぶりもそれほど話題にならなかった。 たぶん多くの日本人は分…

自作短歌の悪評例

ひょんなことから、“短歌の会” というのに参加するようになって、そろそろ半年になる。 『無窮花植ゑむ』などの著書をお持ちの藤井徳子(ふじい・のりこ先生 = 日本歌人クラブ)のご指導を仰ぎ、月1回くらいのペースで拙作の講評をいただいている。 例会は…

NHK『平成万葉集』にみる日本人の短歌ブーム

「平成」という時代もあと数日というときに、NHK制作の『平成万葉集』(BSプレミアム)という番組が放映された。 俳優の生田斗真と吉岡里帆が、素人の短歌を中心に拾い上げて朗読し、かつ実作者を訪ねてインタビューするという企画で、何回かに分けて放映さ…

穂村弘の文章は最高だ

文芸批評 理屈では語れない文章 「短歌ブーム」という話も聞く。 特に、これまで短歌と縁がなさそうな若い人が、最近関心を持ち始めているとも。 新元号の「令和」という言葉が万葉集から採られたというニュースがこれほど脚光を浴びたのも、その底辺には現…

『燃えよ剣』に描かれたテロリストの美学

司馬遼太郎の人気小説『燃えよ剣』の映画化が決まり、2020年に公開される予定だという。 主人公の歳三を演じるのは、岡田准一。 近藤勇役は、鈴木亮平。 沖田総司役には、Hey ! Say ! JUMPの山田涼介。 ほか、芹沢鴨が伊藤英明。 土方とからむ女性役には、柴…

戦争は平和の使者のような顔して近づいてくる

文芸批評 島尾敏雄『贋(にせ)学生』 いちばん危機が迫った社会というのは、一見、平和な相貌をしている。 大地は豊かな恵みを人間に与え、物資は潤沢に整い、時間はのんびりと流れ、人々の声は明るい。 ちょうど、太平洋戦争直前の日本がそうだった。 今の…

まっすぐな道はさびしい

俳句とか短歌が持っているなんともいえない情感が好きである。 病院などに入院して、退屈な午後をやり過ごしているとき、デイルームなどで拾った週刊誌などを開いていると、必ず短歌や俳句のページに目が行く。 病院という閉鎖空間に閉じ込められていると、…

見城徹氏の直球勝負で書かれた読書論

文芸批評『読書という荒野』 見城徹(けんじょう・とおる)氏の『読書という荒野』という本を読んだのは、2018年7月の猛暑日だった。 まさに、真夏の炎天下を思わせるような、熱い本だった。 すべて直球勝負。 それも、うなりとともに人の胸元をえぐってく…

フェルメールの絵からこっそり消されたものは何か?

書籍紹介 藤田令伊・著 『フェルメール 静けさの謎を解く』 フェルメール人気はどのようにして生まれたのか? 17世紀のオランダの画家ヨハネス・フェルメールに対する人気は、近年「異常」といえるほど高い。 書店では、各種の解説本が出回っているし、美術…

短歌から学べる現代社会

「短歌の会」というのに入って、3ヶ月経つ。 月に1回合評会が開かれる。 2月はサボってしまったが、その間につくった一首が「秀歌」に選ばれて、住んでいる市の広報に載った。 「おぉ !」 と思った。 だって、わが人生でたった3首つくったうちの1首だ…

陳腐な言葉の新鮮なニュアンス

歌謡曲批評『よこはま・たそがれ』 五木ひろしの『よこはま・たそがれ』という曲をはじめて聞いたのは、もう50年くらい前の話になる。 私はまだ二十歳だった。 最初に聞いたのは、五木ひろしの歌ではなかった。 友人の一人が、マージャンの牌をつまみながら…

人に読んでもらえる文章

堀井憲一郎さんの文章道 その2 前回「書きたい原稿があったら今すぐ書け!」というタイトルのブログで、堀井憲一郎さんの『今すぐ書け、の文章法』という本をちょっと紹介させてもらったけれど、実は、少し漏れたところがある。 … というか、話が長くなるの…

書きたい原稿があったら今すぐ書け!

堀井憲一郎さんの 『今すぐ書け、の文章法』 すぐに書けないものに、面白いものがあった試しはない コラムニストとして、数々の名文を残している堀井憲一郎さんが、2011年に発表した文章読本の決定版。 私などは、昔これを読んで、かなり勉強させてもらった…

バブル期の「不倫」はビジネスだった

桐野夏生とは編集 作家。1951年、金沢生まれ。成蹊大学法学部卒。会社員、 少女小説家(ペンネームは野原 野枝美・ノバラ ノエミ)を経て、 1993年、女探偵、村野ミロが主人公の「顔に降りかかる雨」で 第39回江戸川乱歩賞を受賞。 著作に、新しい性愛を描い…

池田晶子の短い生涯

池田晶子とは編集 1960年生まれ。慶応大学文学部哲学科卒業。専門用語を使わず、哲学するとはどういうことかを日常の言葉で語る。 著書「14歳からの哲学」は27万部のベストセラーとなった。 2007年2月23日、腎臓癌のため死去。46歳。 当時連載していた「週刊…

教科書に出てくる “泣ける名作”

文芸批評 この不条理感が子供に分かるのか? 2016年の1月から3月まで、約2ヶ月ほど肺の病気で入院していたが、そのとき読んで印象に残った本のなかに、『もう一度読みたい教科書の泣ける名作』(学研教育出版 2013年)という本があった。 「わが国の小学…

桐野夏生 編 『我等、同じ船に乗り』

桐野夏生とは編集 作家。1951年、金沢生まれ。成蹊大学法学部卒。会社員、 少女小説家(ペンネームは野原 野枝美・ノバラ ノエミ)を経て、 1993年、女探偵、村野ミロが主人公の「顔に降りかかる雨」で 第39回江戸川乱歩賞を受賞。 著作に、新しい性愛を描い…

村上春樹 『若い読者のための短編小説案内』

村上春樹とは編集 日本の小説家、翻訳家。国際的なベストセラー作家。代表作に『羊をめぐる冒険』『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』など多数。レイモンド・カーヴァーの全訳など翻訳活動でも著名。 略歴1949年1月12日に京都府京都市で生まれる。兵…

『愛の年代記』より「エメラルド色の海」

塩野七生とは編集 日本(出身)の作家 1937年(昭和12年) 東京都に生まれる。 日比谷高校、学習院大学文学部哲学科卒。 イタリアに渡ったのち、1968年に作家としてデビュー。以降、「ローマ人の物語」を始め数々の著作を送る。 2006年12月、1992…

キャンプ怪奇小説『柳』

文芸批評 ブラックウッド 「柳」 キャンプをテーマにしたホラー小説で、アルジャーノン・ブラックウッドが書いた『柳』はものすごく怖い物語のひとつだ。 『幻想と怪奇1―英米怪談集(ハヤカワ・ミステリ 1976)に収録されていた作品である。 ウィーンから黒…

余白を読む美学

文芸批評 テレビで観たか、本で読んだか。 俳句の話。 俳句とは「余白、静寂、余韻」の文学であるそうな。 五、七、五 という限られた文字数のなかで、ひとつの作品を完結させなければならない俳句は、言葉を盛り込むよりも、言葉を切り捨てることによって世…

ロックンローラー司馬遼太郎

文芸批評 司馬遼太郎の文体は、ロックンロールだ。 黙読していても、言葉の転がり方が、実に軽快だ。 読んでいると、気分がうきうきと高揚し、血液中のアドレナリンが毛穴からいっせいに吹き出すような錯覚に襲われる。 たとえば、こんな感じ。 …… 元亀元年…