アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

創作

小説「最終電車」

乗客は静かだった。 眠っている初老の男ひとり。 女性週刊誌を眺めている独身風の中年OLひとり。 抱き合っている学生のカップルが一組。 乗っているのは、私を含めその5人だった。 私は、席に座って眠ってしまうのを避けるために、車両の最後部に立ち、退屈…

掌編小説 『手を拾う』

夜の歩道に、人の手が落ちていた。 ひからびた枯葉のように縮こまりながら、それでも最後の力を振り絞って、その手が助けを呼んでいるように見えた。 近づくと、ただの手袋だった。 風が舞って、手袋が揺れたのだ。 ニットで編まれた、ありふれた手袋。 近く…

CRY ME A RIVER

CRY ME A RIVER 狭い階段を降りると、素っ気ない木の扉。 扉の上には、古めかしいネオン管のイルミネーション。 『 RUMI 』 この季節、扉の前に立っただけで、その奥から歌声や喧騒が響いてきたというのに、今日はやけに静まり返っている。 … どんな顔をして…

掌編小説 『幽霊狩り』

コロナ禍で夏休みも短縮され、長女が宿題として出された「幽霊の標本作り」が間に合わないというので、仕方なく夏休みの最後の土日は、長女を伴って幽霊狩りに出かけた。 私はあまり幽霊に関心がなかったから、長女の話を聞いてびっくり。 いま、子供たちの…

ホラー小説「眼鏡の少女」 

夏も終わろうとするのに、地獄のような猛暑が続いています。 それを乗り切るには、全身にサァーッと鳥肌が立つような「怪談」が効果的です。 残暑厳しいこの季節。このブログでもときどき「怪談スペシャル」をお送りしたいと思います。 第一回 眼鏡の少女 「…

掌編小説「In A Silent Way(長瀞に行く)」

youtu.be 夢のなかで、私は、長瀞(ながとろ)という土地に行くつもりでいる。 そのため、私は中央線に乗って西に向かっている。 ただ、夢のなかの “長瀞” は、埼玉県・秩父にあるあの観光地として有名な「長瀞」ではなく、私のまったく知らない土地になって…

掌編小説「狐部隊」

「狐部隊って知ってた?」 隣りに座った女は、そう言って私の方を振り向く。 「いいや。… 何それ?」 私は、物憂く返事する。 深夜のパブだ。 とっくに電車は終わっている。 地下室の穴倉みたいなカウンターに座っている客は、もう私と女しかいない。 カウン…

ランボーやカフカよりも餃子のラー油

短歌を作るようになって、ちょうど1年ほど経つ。 知人に誘われて、地元の「短歌の会」に顔を出したのが、昨年の1月18日。 月1回の会に2首ほど用意して提出してきたが、わずか1年ほどの修行では成果が上がるわけもなく、勉強会を主宰する藤井徳子先生か…

自作短歌の悪評例

ひょんなことから、“短歌の会” というのに参加するようになって、そろそろ半年になる。 『無窮花植ゑむ』などの著書をお持ちの藤井徳子(ふじい・のりこ先生 = 日本歌人クラブ)のご指導を仰ぎ、月1回くらいのペースで拙作の講評をいただいている。 例会は…

創作 『ボートに吹く風』

枯葉が敷きつめられた池の上で、ボートを漕ぐ。 茶色と黄色の色に染まった池。 樹木の葉が落ち始める頃になると、岸に近いところは、その枯葉に埋め尽くされて水が見えない。 オールが跳ね上がった瞬間だけ、下に埋もれた水が顔を出す。 「こんな公園が学校…

小説『暗黒街の掟』

創作(ヨタ話) 「やつは頭もいいし、度胸もある。しかも、キャバレーのステージで歌っている女が、客席の暗がりの中からでも見つけ出すほどの美男子だ。 それに一つのシマを仕切るだけでは満足できない貪欲さってのも持ち合わせている。 ただ、ちょっと調子…