アートと文藝のCafe

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小説『暗黒街の掟』

創作(ヨタ話)

 

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 「やつは頭もいいし、度胸もある。しかも、キャバレーのステージで歌っている女が、客席の暗がりの中からでも見つけ出すほどの美男子だ。
 それに一つのシマを仕切るだけでは満足できない貪欲さってのも持ち合わせている。
 ただ、ちょっと調子に乗りすぎた。どんなに才能があっても、自分の限界を計算できないやつは、やはりこの町では長くは生きられないのさ。
 ジョー。そろそろ、やつの魂に平穏を与えてやってくれ」
  
 「かしこまりました」
  
 「あ、そうだ。もし、やつの美人の妹に会ったら、やつは旅に出たと伝えてやれ。長い旅だとな」

……………………………………………………………………
 
 これは今書いているハードボイルド小説の一節だ。
 ただ、全体の構想はまだ決まっていない。
 主人公もどんな人間にするのか、それも決めていない。
  
 要するに、このセリフだけを思いついたというわけ。
 ま、アメリカの昔のギャング映画のセリフなんてのは、みんなこんな感じだったな。
 ギャング映画って死語か ?
 今じゃなんていうんだろう。アクション映画 ?
 そりゃあんまりだよな。

 

 とにかく、今は派手な映像で見せる映画ばかりになっちゃったんで、セリフで楽しませてくれるようなシナリオがなくなったんだな。
 
  とかなんとか書いているうちに、小説の続きを思いついた。
 で、この後、「ジョー」と呼ばれる殺し屋が、暗黒街のボスの命令を受けて、主人公を殺しにいくわけね。
 雰囲気は、禁酒法時代 つまり1920年代のニューヨークって感じがいいかな。

 

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 さて、殺し屋ジョーにどんな人物像を与えるか
 そうそう、よくありがちだけど、ボクサー上がりの黒人っていうことにしようかね。
 八百長ボクシングに巻き込まれて、人生を棒に振った というヤツね。
 いかにもベタだけど、ま、定番ということで。

 

 で、このジョー。
 ちょっとお洒落でね。
 ペンシルストライプのスーツの胸にピンクのポケットチーフなんか忍ばせて、昔風のストローハットなんか被っていて。
   
 で、主人公の住んでいるアパートの前まで来て、公園のベンチに座って、ちょっと窓を見上げて。
 売店でポップコーンを買って、ハトにエサをやるんだな。物憂げにね。

 
  
 そうしたら、突然主人公が そうだな 名前をケリーとでもしておこうか。
 ちょっとイタリア系の顔立ちでさ。
 いかにも、女を好きそうな って雰囲気たっぷりの男でね。
 そのケリーが、ジョーの背中ごしに声をかけるわけ。

 

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 「マンハッタンのハトは、血まみれた手からこぼれるエサが好きらしいな」
 振り返るジョーの前に、両手をコートのポケットにだらしなく突っ込んだ主人公のケリーが立っているわけ。
 
 「こんなところで何をしているんだ ? ジョー。ハトの用心棒にでもなったのか ? 」
 「ま、そんなところだ。安い報酬だがね」
 「このご時世で、仕事があるだけいいさ」

 
  といって、ケリーはポケットからシガーを取り出して、口にくわえるのね。
 すると、ジョーも立ち上がって、ライターで火をつけてやるわけ。
 
 「ありがとう。 で、いくらだったんだ ? 」
 と、ケリーがジョーに訊くわけ。物憂そうな上目づかいでさ。
 「いくら って ? 」
 「俺の命の値段さ」

 

 そう尋ねるケリーに対して、ジョーの方もまったく悪びれる様子もなく、こう言うわけよ。
 
 「そんなものは決まっちゃいないぜ。要は、あんたの出方しだいだ。
 フレディさんは取り引きの条件を出さなかったが、俺は取り引きの成立する余地はあると思うよ。
 なんたって彼は、慈悲にすがる人間には優しい慈善事業屋のオヤジさんだからな。
 少なくとも、フレディさんのお孫さんは、そう信じている。
 簡単な話だ。
 シマのひとつと、いまお前の恋人となっているあの女を、フレディさんに返せばいいだけの話さ。
 あんたが得意な、飽きた女に別れ話を切り出すときのようにね。
 そうすりゃ、フレディさんも、お前にヤクの売人ぐらいのポストを授けてくださるぜ。
 あんたも、ツーペアでフルハウスに挑むほどのバカじゃねぇだろ? なんなら俺が口添えしてやってもいいぞ」

 
 
 「ジョー。俺を相手に取り引きする気かえ ? 」
 「ケリー。こいつは取り引きじゃねぇ。友情だ」
 
 …… と、2人の目に火花が飛び散ったところまではいいんだけど、う~ん。この先がなかなか思い浮かばない。
 やっぱり小説は意外性が大事だ。
 
 よし ! ボクサー上がりのヤクザなジョーが、実は日本料理のファンだということにしたらどうなるだろう。
 決まった !
 ジョーの次のセリフはこうだ。

 

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 「友情の証しが欲しい。そう思っているんだろう ? ケリー。
 いいさ。寿司バーで、サケを一杯おごろう。
 俺は最近、エンガワというのに凝っているんだ。そいつをソイソースにたっぷりまぶして食うと、まいう~だぞ。
 ワサビという神秘的なスパイスもなかなかいい。あれはテイスト・オブ・ゼンだ。
 ゼンという宗教があるだろ?
 こう見えても、俺はけっこう日本通でね」
 
 すると、ケリーも返すわけね。

 

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 「お前が日本通だとは意外だな。でも、分かるぜ。
 お前たちの祖先も、日本人のようなものだからな。
 イエローモンキーにブラックモンキーだ。
 ともに『猿の惑星』で、俺たちをいじめた連中だからな」


 
 「ケリー。口をつつしめ。相手がお前じゃなかったら、今ごろお前の首は宙を飛んで、自分の胴体を上から眺めているところだぜ。ハラキリを知らないな?」

 

 
 「それを言うなら “首切り” だろ。ま、いいさ。エンガワは俺も嫌いじゃない。ただ、やっぱりヅケのうまさにはかなわないな。
 ヅケって知ってるか ? マグロをソイソースに3年ほど浸してじっくりつけ込むんだ。要はマグロのチーズだ。10年モノのヅケともなると、末端価格で10万円だ。
 少し臭いが、こいつを一度味わうと、タクワンというベジタブルも食えるようになる」


 
 「ケリーよぉ、お前、フナズシかなんかと間違えていねぇか ? 
 まぁ、いい。そろそろガリの味が恋しくなってきた。ガリってのはジンジャーのことだが、まるで神ワザみてぇに薄く切ってあるんだ。
 そういうワザを身につけるには、30年ぐらいかかるらしい。
 気の長い日本人しかできねぇ芸当よ。でも、こいつはバーボンとものすごく合う」


  
 「ガリもいいが、シャコもいいぜ。日本人は寿司屋でシャコを注文するとき、ガレージちょうだい! って言うんだってな」
 「 …………
  


 ああぁ …、収拾がつかなくなってきた。
 いったい、何を書きたいのかね、この私は。
 小説 …… 難しいよね。
 才能ねぇな。