アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

女同士のケンカ

 
 お昼時ぐらいに商店街を歩いていたら、私鉄の駅前で、何やら騒がしい一団が口角(こうかく)泡を飛ばして、激論していた。

 

 男1人に女2人。
 男を挟んで、左右の女が眦(まなじり)を決して、お互いを罵り合っている。
 その声のでかいこと、でかいこと !!
 近づく前に、彼らがしゃべっているのが中国語だと分かった。

 

 女2人の形相が凄まじい。
  お互いが相手を指差し、白目をむき出し、大地を踏み固めるように足を鳴らし、まるで京劇の格闘シーンのようなパフォーマンスを繰り広げている。
  
  ちょっと日本人のケンカと違う。
  「闘志」の形が “演技的” というか。
  一種の “口論ショー” という雰囲気もなきにしもあらず。

 

 あまりにも珍しので、駅の時刻表を見るふりをして、しばらく観察した。
 眺めること10分。
 1人の女の方が黙りこみ、一方の女の罵倒がいっそう激しくなる。
 男は というと、女の間にぼおっと立っているだけで、どちらの話にも加担しない。

 

 中国語が分からないので、何が争点なのか見当もつかないが、そこから歩いて10分ほどのターミナル駅まで歩いていくか、私鉄を使うかということで意見が分かれた … みたいな様子にも見える。
 いや、もっと深刻な対立が生まれたのかもしれないが、推測するすべもない。
  


 やがて、黙りこくっていた女の方が反撃に出た。
 つっ立っている男の方に向き直り、
 「あんたはどうなのよ」
 と、男を責め始めたのだ。

 

 するともう一人の女も男をにらみ、
 「そうよ。黙ってないで、この女にビシッと言ってやんなさいよ」
 という感じで、そっちの方も男に詰め寄っている。
  
 それに対して、男はだんまりを決め込んで、どちらの言い分も公平に聞いてやるという態度をとっている。
 泰然自若というか、開き直っているというか。

 

 「この男はダメだ」
 と、女同士は思ったのか、再び男を放って罵り合いを始めた。

 

 淡白で気の短い日本人だったら、さっさと取っ組み合いになっていたはずだ。
 しかし、中国人たちはそれをしない。
 顔と、言葉と、ボディランゲージで相手を威嚇しながらも、ドツキ合いまでには至らない。

 

 日本人のケンカはそうはいかない。
 お互いに、あっというまに「手」が出る、「足」が出る。

 

 昔、朝の通勤電車内で女同士のケンカを見たことがある。

  ひとりはOL。もうひとりは女学生 … というか専門学校の生徒風。

  「なんだ、このぉ!」
  「何すんだよぉ!」

 

 

  いきなり車内で怒号が飛び交ったかと思うと、いきなり取っ組み合いが始まった。
  肩が触れたのか、カバンでも当たったのか。

 

  「今日はハッキリ決着をつけるわよ、私のカレと別れて!」
  というような “ワケあり” のケンカでもなさそうで、単なる偶発的なドンパチだと思うが、もう、草原でしとめた獲物を争うハゲタカとハイエナの猛々しさ。

 

  すげぇんだ!
  髪の毛の引っ張り合い。
  もう、ホントにお互いの毛がちぎれそうなんだわ。


  
  こういうときに仲裁に入るのが、たいてい中年オヤジなんだけど、どうして女同士のケンカを止めに入る男って、みんな余裕ぶっこいたニヤニヤ顔なんだろう。
 
  「まぁ、みっともないから止めなさいよ。かわいい顔が傷つくよ」
  なんて、中途半端に “大人の男” を演じようとするから、かえって火に油を注ぐだけ。

  「消えろよ! ハゲ」
  と2人に言われて、あっさり引っ込んじゃうんだから、男の時代も終わったよな。

  
  あとは、もう人間のいないジュラ紀白亜紀の大地。
  「このやろう、やったわねぇ!」
  「うるせぇ黙れ! このバカ」
  「てめぇ、逃げるんじゃネェよ、こいつぅ!」
  「死ねぇ、このバカやろぉ」
  
  言葉だけ聞いていると、もう男だか女だか分からない。
  取っ組み合った女同士は、そのまま転がるようにホームに降りて戦闘を継続していたけれど、残念ながら(?)、電車がホームを離れてしまったため、リングを変えた第2ラウンドは観ることができなかった。
  
  それにしても、男も女もイライラしている。
  みんな生きるのが大変な世の中になったようだ。

  自分が巻き込まれるのはイヤだけど、野次馬としては、楽しみが増えた。