アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

映画

『月はどっちに出ている』は今だからこそ解る映画だ

去年(2023年)の暮れに近い時期のことである。 2022年に亡くなった映画監督の崔洋一を偲んで放映された『月はどっちに出ている』を、BSシネマで久しぶりに観た。 最初に観たのが1990年代だったから、30年ぶりである。 細部はかなり忘れていたが、それでもや…

『イノセンス』の映像は資本主義のメタファーである  

押井守 作 アニメ『イノセンス』を読み解く 中学生のときに同じクラスで知り合い、今でも年に2~3度ほど会う友人グループがいる。 みな70代に差し掛かった老人たちだ。 しかし、中学時代に小説や評論を持ち寄って同人雑誌をつくった仲だけに、会うと、あい…

クールな空気感の静かなヤクザ映画

映画批評北野武 『アウトレイジ』&『アウトレイジ ビヨンド』 前回のブログで、松本人志がつくった映画を語る際に、北野武監督の映画を引き合いに出した。 今回は、その北野武の映画についてあらためて紹介する。 2010年~2012年に公開された『アウトレイジ…

『私をスキーに連れてって』という映画の不条理感  

映画評クリスマスが表層的な文化として定着した代表例 映画としての大ヒット作だった『私をスキーに連れてって』(1987年公開)は、また音楽としても大ヒット曲と結びついている。 それは、ユーミンが歌った『恋人がサンタクロース』だ。 映画自体は、当時、…

ゴジラ様! カッコいい!

映画批評 “ゴジラ・ファン” にとって、ゴジラ映画の最大の関心事は、とにかく、 「ゴジラの姿がカッコいいか? どうか?」 である。 そりゃ、ストーリーも大事。 キャストの演技も大事。 しかし、それは、映画の構成要素としては、二の次、三の次。 ゴジラ映…

フェルメール『真珠の耳飾りの少女』

絵画・映画批評秘められたエロティシズム 17世紀のオランダの画家、ヨハネス・フェルメールの描いた『真珠の耳飾りの少女』は、非常に多くの謎を秘めた絵画であるという。 まず、制作された時期が分からない。 誰の注文によって描かれたのかも分からない。 …

『第三の男』は今でこそ見るべき映画

『第三の男』に描かれた魔都ウィーン 50年以上の前の話だ。 冷戦時代の西ドイツのボンやケルンを回ってから、オーストリアのウィーンに入ったことがある。 同じゲルマン系の人々が住む街だから似たようなものだろう、と思っていたが、ウィーンに着くと、まっ…

映画『燃えよ剣』の出来映え

強さのなかに甘さを隠した、新しい土方像 いい映画だった。 『燃えよ剣』(司馬遼太郎・原作/原田眞人・監督)。 あまり期待しないで映画館に入ったが、観ているうちに引き込まれ、土方歳三(岡田准一)が戦死する最後の戦闘シーンでは、つい目頭がウルウル…

映画『拳銃の報酬』

9歳のときに観た「拳銃の報酬」の衝撃 小さい頃、何度か親父に映画に連れていったもらったことがある。 しかし、記憶に残っているのは、この一本しかない。 『拳銃の報酬』(1959年) 私が小学3年生のときのことだ。 映画の原題は、「ODDS AGAINST TOMORROW…

「美の巨人たち」でとりあげられた「ナイトホークス」

昔、土曜日の夜に家にいるときは必ず観ていた番組があった。 テレビ東京『美の巨人たち』(10:00~10:30)。 この番組が改変され、タイトルも変わって『新 美の巨人たち』となったのは、2019年4月6日からだった。 新しくスタートした新番組がどんな内容だ…

エドワード・ホッパー「ナイトホークス」

フィルム・ノワールに影響を与えたエドワード・ホッパー ▲エドワード・ホッパー 「ナイトホークス」(1942年) 「ホッパーの作品はしばしば映画のワンシーンに例えられる」 と、よくいわれる。 特に、この「ナイトホークス(夜ふかしする人々)」という絵は…

『家族ゲーム』という映画の謎

今年(2021年)は、映画監督の森田芳光デビュー40周年、没後10年に当たる。 それにちなんだのかどうか知らないが、この夏テレビのBS放送で、森田監督の代表作ともいえる『家族ゲーム』が再放映されていた。 この映画を最初に見たのは、2011年の暮れ。 まさに…

映画のノイズ(ターミネーター3を観て)

『ターミネーター3』(2003年公開)をBSのWOWOWで観る。 未来の地球で起こるアンドロイド(ロボット)と人間の戦いの話。 第一作は1984年に公開されたが、その後シリーズ化されて、現在6作まで制作されている。 全作とも、タイムマシンに乗って、「未来」…

『勝手にしやがれ』の新しさとは何だったのか?

『勝手にしやがれ』(1959年 フランス映画)は、ジャン・リュック・ゴダールの代表作ともいえる映画だ。 なんといっても邦題がいい! この映画の本質をずばり表現している。 話は単純。 フランスの田舎町で、自動車を盗んで警官を殺してしまった男(ジャン・…

トウモロコシ畑の中の天国

映画「フィールド・オブ・ドリームス」 (1989年) トウモロコシ畑の奥に分け入っていくと、そこが別の世界への入口であるかのような気分になる。 … ということを感じるようになったのは、『フィールド・オブ・ドリームス』という映画を観てからのことだ。 …

黒人音楽フェスの “奇跡” 『サマー・オブ・ソウル』

1960年代ブラックミュージックのすべて 50年間眠っていたライブ映像を神わざ的な編集作業で復活させた『サマー・オブ・ソウル』。 ついにこの8月27日(金)に日本公開が実現した。 この俺が、見ないわけにはいかないじゃないか! 1969年、夏。 あの有名なウ…

『エイリアン』という映画は「神」を描いた作品だ

8月の中旬ぐらいに、SF映画『エイリアン』(8月9日)と、『エイリアン2』(8月16日)を2週続けてBSプレミアムで観た。 両者とも、一度は公開されたとき封切館で観ている。 そのときは、SFホラー的な1作目に対し、それをアクション映画に作り替えた2作…

名曲ありて「名画」あり

ある日どこかで 「名画」とは何か? この言葉が意味するものには、絵画と映画の両方があるが、とりあえず映画における「名画」を考えてみる。 感動を得られたもの。 深い印象を与えてくれたもの。 無類に面白かったもの。 …… などなど、「名画」といわれる映…

灰とダイヤモンド

祝祭(ダイヤモンド)と死(灰) 『灰とダイヤモンド』という言葉から、今の人たちは何を想いうかべるのだろうか。 2013年に、ももいろクローバーZがリリースしたアルバムの中に、そういうタイトルの歌があるという。 1994年までさかのぼれば、日本のロック…

映画『AI 崩壊』

AI が人間を裏切る日は来るのか? BSのWOWOWで、入江悠監督の『AI 崩壊』(2020年1月31日公開)を見る。 AI が、医療現場から交通システムに至るまで、国民のすべての生活をコントロールするようになった2030年の日本の姿を描いた映画だ。 そのAI が、人間に…

映画 『トゥルーマン・ショー』

監視社会の中で生きるのは 幸福なのか悪夢なのか 1998年に制作されたピーター・ウィアー監督、ジム・キャリー主演のアメリカ映画。 『トゥルーマン・ショー』 2021年1月16日に、BSのWOWOWシネマで鑑賞。 封切り時に映画館で見たわけではないが、過去にテレ…

戦後日本を裏から描いたヤクザ映画

2020年の年末、BS放送のWOWOWで、深作欣二の『仁義なき戦い』シリーズ全5作をまとめて特集していた。 全部、録画して、久しぶりにじっくり見た。 やっぱり、いい映画だ! 面白い! … と思ったけれど、昔映画館で見ていたときと何かが違う。 ふと気づくと、…

『七人の侍』の主役は野武士たちだ

三船敏郎 生誕100年にちなみ、WOWOWシネマで、彼の代表作が続けて放映された。 そのなかで、黒澤明監督による『用心棒』(1961年)、『椿三十郎』(1962年)、『七人の侍』(1954年)の3本をピックアップして見たが、やはり『七人の侍』が群を抜いて素晴ら…

権力者が舞台を去るときの悲哀

映画『ニコライとアレクサンドラ』 とトランプ大統領 ロシアのロマノフ王朝の最後を描いた『ニコライとアレクサンドラ』(フランクリン・J・シャフナー監督)という映画がある。 ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世とその皇后アレクサンドラ、そしてその5人…

50年経って再び『イージー・ライダー』を見る

WOWOWシネマで、アメリカ映画『イージー・ライダー』を久しぶりに見た。 1969年の作品である(日本公開は1970年)。 この映画を最初に見たのは、私が二十歳のときだった。 それからちょうど50年経つ。 漠然とした記憶として残っているのは、アメリカの荒野の…

黒沢清 『回路』

恐怖の正体は “物の不在感” にあり 日本映画の監督で「クロサワ」といえば、世間的にはまだ黒澤明(くろさわ・あきら)の方が知られているが、この2020年、『スパイの妻』でヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞(監督賞)をとった黒沢清(くろさわ・きよし)に…

映画『人間の条件』をめぐる論争

例年この時期は、テレビなどで(太平洋戦争の)終戦にまつわる特集が組まれる。 WOWOWなどでも、映画『日本のいちばん長い日』、『アルキメデスの大戦』、『連合艦隊司令長官 山本五十六』、ドキュメンタリー映画『東京裁判』などが、ほぼ連日にわたって放映…

サラリーマンたちが演じる“やくざ映画”『半沢直樹』

やっぱ『半沢直樹』は面白いわ。 7月27日(日)に放映された第二話の視聴率は22.1%だったという。 私は、この視聴率がどれほど高いものなのかはよく分からないが、NHKがしきりに番宣を繰り返す大河ドラマ『麒麟がくる』の平均視聴率が15~16%台だというい…

蘇れ!マカロニ・ウエスタン

作曲家のエンニオ・モリコーネが亡くなった(2020年7月6日)。 追悼ニュースでは、『アンタッチャブル』、『ニューシネマ・パラダイス』などといった映画音楽の作曲家として紹介されていた。 しかし、私のようなシニア世代からみると、エンニオ・モリコーネ…

退屈が怖かったマリー・アントワネット

フランス革命で命を散らした “悲劇の王妃” として、マリー・アントワネットの名前を知らない人は、まずいないと思う。 ▼ マリー・アントワネットの有名な肖像画 「民衆はパンが食べられなくて、みな困っています」 と侍従からの報告を受けたとき、 「それな…