アートと文藝のCafe

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「美の巨人たち」でとりあげられた「ナイトホークス」

 

 昔、土曜日の夜に家にいるときは必ず観ていた番組があった。
 テレビ東京美の巨人たち』(10:00~10:30)。

 

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 この番組が改変され、タイトルも変わって『新 美の巨人たち』となったのは、2019年4月6日からだった。

 

 新しくスタートした新番組がどんな内容だったか、最初に観たときの印象はあまり覚えていない。
 
 ただ、面白くなくなったという記憶だけが残っている。
 がっかりして、スタートして10分ぐらいでチャンネルを切り替えたと思う。

 

 それまでの(旧)『美の巨人たち』は、古今東西のアート1点にテーマを絞り、それを多角的に解説していく番組だった。
 有名な作品を取り上げて、今までの解釈とは異なる説明を加えた企画もあったし、一般的には知られていなかった無名のアーティストの作品を掘り出して世に知らしめたこともあった。

 

 とにかく、取り上げる対象がよかったし、スクリプト(台本)も完成度が高く、それを語る小林薫氏のナレーションもよかった。
 もう本当に、美術好きにはたまらなく愛しい番組だったのだ。

 

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 それが『新 美の巨人たち』になって、いろいろなタレントが週替わりで解説していく番組に変わった。
 扱うテーマも、「旅番組」を銘打ったせいか、やたら地方の旅館だとか、美術館、遊園地などという建築系が増えた。

 

 つまり、絵画や彫刻が出てくることがほとんどなくなったのだ。
 アート好きの私にはさびしい改変になったが、もっとひどいのは、出てくるタレントたちの感想がつまらないこと。

 

 文学や芸術の番組では、専門家でもないタレントがほどこす内容の薄い解説ほど貧しいものはない。
 もう、スプリクトを書く専門家はいなくなったのか?
 それとも、そういうプロのライターが書いたものを、タレントたちが伝える能力を持ち合わせていなかったのか。

 

 とにかく新シリーズになってからは、私はまったく観なくなった。

 

 だから、私がここで書くものは、すでに放送が終了した昔の『美の巨人たち』についてである。

 

 そのなかで記憶に残ったものの一つに、エドワード・ホッパーの『ナイトホークス(夜更かしをする人々)』がある。
 放映されたのは、2016年の3月26日。
 「ニューヨーク、真夜中の物語」というサブタイトルが添えられていた。

 

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 この回は、もう本当に洒落たつくりになっていた。
 特に、挿入される音楽がドンピシャに決まっていたのだ。

 

 冒頭に流れる曲は、ヴァンゲリスが映画『ブレードランナー』のためにスコアを書いた「愛のテーマ」。
 番組の中ほどに流れる曲は、同じく『ブレードランナー』より、「ワンモア・キス」。

 

 そして、絵の核心に迫るときは、スタンダードジャズの名曲「ラウンド・ミッドナイト」(守山紘二クインテット)。

 

 まぁ、決まり過ぎ ともいえなくはないが、やはりあの「ナイトホークス」という絵に音楽を付けるとすれば、ノスタルジックで物憂い映画音楽か、1950~60年代のクールなジャズしかないと思えた。

 

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 番組スタッフも見事にそういう空気感を察知し、次から次へとお洒落なBGMを探してきた。
 絵と音がぴったりと合ったおかげで、まるで映画を観ているような気分になった。

 

 特に、1982年制作のSF映画ブレードランナー』は、監督のリドリー・スコットがこの『ナイトホークス』の絵を掲げ、「俺はこんな雰囲気の画面を撮りたいんだ!」と叫んだといわれているだけあって、画面に使われたヴァンゲリスの音楽と、『ナイトホークス』との相性はよかった。

 

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当時の番組冒頭に流れた曲は、これ。

 

他のシーンでは、次の曲も使われていた。  
One More Kiss … Dear

 

『ナイトホークス』という絵のタッチにもっとも合っていたのは、この曲。

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