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『私をスキーに連れてって』という映画の不条理感  

映画評
クリスマスが表層的な文化として定着した代表例

 

 

 映画としての大ヒット作だった『私をスキーに連れてって』(1987年公開)は、また音楽としても大ヒット曲と結びついている。
 それは、ユーミンが歌った『恋人がサンタクロース』だ。

 

 映画自体は、当時、そうとう話題になった作品であることは分かっていたが、スキーにも、トレンディードラマにも興味がなかったので、未見だった。
 それを、最近BSシネマで鑑賞した。

 

 スキー映画であると同時に、クリスマス映画。
 主人公たちが出会うのがクリスマス・イブであるし、音楽も、さきほどの『恋人がサンタクロース』のほか、同じくユーミンがつくった「ロッヂで待つクリスマス」も挿入歌として使われ散る。

 

 

 ビッグコミックスピリッツの連載漫画『気まぐれコンセプト』や、単行本の『見栄講座』で、80年代風俗をシニカルなギャグに仕立てて話題を呼んだホイチョイ・プロダクションの制作であることは知っていたので、皮肉を利かせたコメディタッチの作品を想像していたが、多少のドキドキ感も盛り込んだわりとシリアスな映画だった。

 

 だが、この内容の薄い、まったく表層的な展開はいったい何なのだろう?

 

 恋もあり、友情もあり、事件も起こり、美しいスキーシーンや華やかなパーティーシーンが盛りだくさんなのにもかかわらず、恋と友情は、その本質を問われることはなく、事件には深刻さが欠け、スポーツとしてのスキーのアクチュアリティもなく、にぎやかなパーティーには、贅沢感もときめきもない。



 

 すべてが徹底的に表層的。
 音響的には、若者たちの明るい歓声、たわいない恋バナ、そして、彼らが雪上を滑るときのユーミンの歌声しか印象に残らない。

 

 というか、むしろ、徹底的に内容を掘り下げることを否定した制作者たちの断固たる姿勢に、ある種の「覚悟」すら感じる。

 

 そうであるならば、世評とは反して、これは “表層の華麗さ” だけを生真面目に追求したストイックな映画であるのかもしれない。

 

 ゲレンデを滑空していく若者たちの映像に、リズミカルなユーミンの歌がかぶさる。
 音楽の力を利用した、軽やかで、美しいシーンが連続する。

 そこには確かに、
 「スキーってカッコいい !」
 「スキーが上手な男に声をかけられたい」
 「スキー場に行けば、お洒落で可愛い女の子をゲットできそう」
 という、当時の若者の素朴な夢が描かれている。

 

 
 そういう願望形だけを過剰に膨らませながらも、本来はいちばん肝心なことであるはずの、
 「そこでゲットできる恋とは何なのか」
 ということは一つも描かれない。

 

 そして、ドラマは、適度な緊張感を持たせながらも、けっきょく、たわいない予定調和の大団円に向かっていく。

 

 観終ると、
 「なるほど 。バブル時代(1985年~1991年)というのは、こういうものだったのか」
 といううつろな感慨が訪れる。

 しかし、奇妙な感触だけはいつまでも残る。


 制作者たちは、いったい何を語ろうとしていたのだろう。
 
 ― 何もない ―

 

 その虚無感が、むしろ作品の奥に潜んでいる巨大なブラックホールを暗示しているようで、ちょっと不条理な感触すら引き寄せる。

 

 そこに着目すると、ある意味、記念すべき “傑作” かもしれない。

 

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