アートと文藝のCafe

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年末の大捕りもの

チュー太郎 覚悟せい!

 

 カミさんに、「絶対ブログなんかに書いちゃだめよ」と、きつく念を押されているネタがある。
 「家の恥」
 というものに当たるのだそうだ。

 

 まぁ、俺も「いいネタ」じゃないことは分かる。
 他人様から “後ろ指さされる” というたぐいの話なのかもしれない。
 「不潔な家だな」
 とか、
 「戸締りが不用心な家なのかな」
 などと思われることもあるだろう って気もする。

 

 でも、こんなにビックリした事件ははじめてなので、どうしても書かざるを得ない心境だ。 
 俺にとっては、この4~5年を通じて最大の衝撃なのよ。

 

 それは何か? というと、ついに家にネズミが出たのだ。
 築30年程度の家だから、まだネズミの侵入を許すほど、老朽化が進んでいるわけでもない。

 

 カミさんは清掃熱心だから、ネズミの好むほど家の中がとっちらかった状態というわけでもない。

 

 だけど、ある晩、リビングの扉を開けて廊下に出たカミさんが、顔色を変えて、部屋に戻ってきた。
 「ネズミがいた」
 というのだ。

 「えっ !」
 と叫んだ俺は、とりあえず布団叩きを手に持って廊下に出た。

  
 すると、灰色の小さな物体が、風のような素早さで俺の足元をすり抜けていくではないか。
 大きさは、人間の拳(こぶし)ぐらい。
 それが耳を左右に振り、尻尾を上下になびかせ、ピョンコピョンコ跳ねながら、一目散に階段を降りていく。
 なんというすばしっこさだ !

 

 ゴキブリよりも大きな侵入物を見たことがなかったから、俺もパニックになった。

 

 階段の踊り場を回ったときに、すでにヤツの姿は消えていた。
 その先にあるのは、扉を開けたままの俺の部屋。
 部屋の電気は消してあったから、“チュー太郎” のヤツは暗闇を利用して、ゆくえをくらませたのだ。
 
 照明をつけると、床には、乱雑に置かれている書籍や古雑誌のたぐい。
 仕事に使う書類の束。
 そんなものが、ここかしこに散乱しながらうず高く積み上げられ、複雑な迷路をなしている。

 

 それらの集積物をある程度かき分けてみたが、積み重ねた雑誌類の束の奥は濃い闇に包まれたまま。それ以上の “チュー太郎” の追跡は諦めざるを得なかった。

 

 「家の中に何が潜んでいる」という気配は、実はこの秋口あたりからあった。
 パソコンを置いている部屋と、その隣にある納戸を仕切る壁の間から、ときどきコトコトという音がするようになったのだ。

 

 壁の厚みは10cm程度。
 その間はおそらく空洞になっているのだろうけれど、その空洞のどこからか、コツコツと、壁を小さく叩くような音がし始めた。

 

 それが機械音のように聞こえたので、壁の間を通っている配線が垂れ下がって来て、それがぶらぶら揺れるようになったのか? などと思ったくらいだった。

 

 ところが、“異常” は次第にハッキリとあらわれるようになった。
 隣の納戸の扉を開けると、床に米粒程度の黒い塊が散らばっているのを見るようになったのだ。

 「これ、ネズミのフン?」
 はじめて見たものだったが、それくらいの見当はついた。 

 

 いやぁ、大変なことになったぞぉ … 
 と思い、パソコンを開いて、ネズミ対策情報のネットを次々と開いてみることにした。

 

 いろいろな情報を見ると、ネズミはどこからでも入ってくるという。
 「エアコンの通気口や換気扇の通風孔から入り、水回りの排水管やパイプを利用して、家の隅々にまで移動していく」
 とも。
 
 さらに、こんな情報も。
 「ネズミは繁殖力が旺盛」。
 「そのまま放置すると、メスネズミが1回の出産で5~9匹程度の子を産むから、複数のネズミがいた場合、1年で100匹以上のネズミが家のなかにひしめいてしまうことになる」
 などと書いてあるサイトもあった。

 

 さらに、ネズミが棲みつくことによる被害も。
 「ダニのような害虫が寄生するようになる」
 「ネズミそのものが病原菌を媒介することもある」
 「配線をかじったりして、電気器具の故障や出火を招く」

 

 そうやって危機を煽るネズミ情報の大半は、
 「素人が捕獲するのは至難のワザ。駆除はプロの任せた方が確実」
 という結論に誘導していく。
 で、
 「プロによるネズミ駆除のお値段は、被害に応じて、10万円から25万円程度。お問い合わせは、こちらに
 というフォーマットになっていた。

 

 「やぁ、これは面倒なことになったなぁ … 
 とぼやきながらパソコンを見ていたら、俺の右の眼が、視界の横を走る物体をキャッチ。


 「あっ !」
 と叫ぶ間もなく、一匹のネズミが、パソコン横の本棚を垂直に駆け上がり、本と本の間の隙間に姿を消したのだ。 

 


 急いで、本棚の本を床に下ろし、ネズ公の退路を探ってみたが、どこに姿を消したかはまったく推測もできず。
 ネズミは、500円玉程度の穴があれば、そこを通ってしまい、2~3cm隙間などものともせずにくぐり抜けるという。

 

 「2~3cmの隙間
 本棚の上までよじ登り、懐中電灯を照らしてみると、確かに棚と壁の境目に2~3cmの隙間があった。
 「なるほど。ここから退散したか

 

 その奥は、懐中電灯の光も届かない漆黒の闇。
 暗黒街からの闖入者は、人間界の掟をあざ笑うかのように闇の底に舞い戻ったようだった。
 
 
 翌日、ホームセンターに行って、ネズミ駆除のグッズ類を探してみた。

 あるある。 
 毒エサのたぐいから、ネズミの嫌う臭いを発散するスプレー。
 昔からよくある金網状のかご式捕獲機。
 表面に粘着剤を塗布し、その上を通ったネズミを動けなくさせるシート。
 
 それだけたくさんのネズミ捕獲(駆除)グッズがあるというのは、やはりネズミ害に悩む家庭が多いということなのだろう。

 

 「どれが効果的ですかね?」
 店員に聞いてみた。

 「それぞれ一長一短ですね」
 と店員はいう。
 「毒エサは、昔は確実な駆除の方法でしたが、最近のネズミは耐性が強くなり、毒ぐらいでは死なない新種も増えています。それに、巣のなかで死んでしまうと、死体の処理が難しい」

 

 「では、ネズミ・スプレーは?」
 「これはネズミの嫌いなハーブの臭いと猫の臭いをミックスさせたスプレーですが、10日ぐらいで臭いが薄れるので、また巣に戻ってきます」

 

 「かご式の罠は?」
 「1匹捕まってしまうと、それを見た残りのネズミはもう近づかなくなるんですよ。それに生きたまま捕獲するから、水に浸けて窒息死させるなどの作業が要求されますね」

 

 「では、お薦めは?」
 「はじめての方は、みなさん粘着シートを買われますね。これだと、捕まった後に “生ゴミ” として処理できます。ただ、ネズミは警戒心が強い動物ですから、なかなか捕まらないんですよ」

 この店員さん、いったい売る気があるのやら、ないのやら。


 とりあえず、猫の臭いのするスプレーと、粘着シート(↓)を2セット買って店を出た。

 

 さっそく、粘着シートの1セット(2枚)を、本棚のいちばん奥の隙間の前にセットした。
 もう1セットは、ネズミのフンが落ちていた納戸の床に置いてみた。
 

 
 1日経過。
 どちらの粘着シートにも変化はなし。

 

 2日経過。
 相変わらず、壁と壁の間ではコトコト音がするけれど、粘着シートにネズミが近寄っている気配はなし。

 

 3日目。
 撒きエサで釣ることを考えた。
 スーパーに行って、匂いの強そうなスルメイカと、おつまみ用サラミを買い、それを粘着シートの真ん中に置いてみることにした。

 

 

 こうなると、もう2時間おきぐらいに、ハンティングの成果を見てみたくなる。
 パソコンに座って、画面を見ていても、いつも間にか頭の中は “チュー太郎” のことでいっぱいになっている。

 

 4日目ぐらいの朝。
 粘着シートの様子を見にいくと、ついに身体の半身がベトベトした粘液にまみれて横たわっている子ネズミを発見した。
 シートの真ん中にセットしたスルメイカ欲しさに、我慢できずに粘着糊のところに足を踏み入れてしまったのだろう。

 

 予想外の成果に、こちらがびっくりした。
 こわごわとシートを拾い上げてみた。

 

 まだ、息がある。
 じっとこちを見据えている目が、「お慈悲を 」と訴えているようにも見える。
 顔があまりにも可愛いので、そのことに衝撃を受けてしまった。

 

 目をつぶり、合掌してから、子ネズミを挟んだシートを閉じて、そのままコンビニの袋に収めた。
 
 
 しかし、壁と壁の間から伝わってくる “コトコト音” は消えない。
 親ネズミたちが残っていることは明らかだった。

 

 またホームセンターに行き、さらに粘着シートを追加購入した。

 

 購入したついでに、

 「1匹捕まったよ」
 と店員にいってみた。
 「それはうまくいった例ですよ。最後まで捕まらなかったというお客さんもいっぱいいますから」

 

 今度は粘着シートを4セットぐらい買った。
 子ネズミを捕まえるのにも2セットを要したのだ。
 もっと悪知恵のついた親ネズミを捕るには、その倍ぐらい必要だろう。

 

 さらに、納戸の大掃除も始めた。
 ここには古着や古布団、聞かくなったレコード、昔のガスストーブなどが一切合切詰め込まれている。

 

 さらに、ネズミがエサとして食べていたものも判明した。
 昔、俺のオフクロが、非常食として蓄えていた黒砂糖。
 それを入れた段ボール箱が食いちぎられていて、黒砂糖の入ったビニール袋が破られ、さんざん食べつくされていることも分かった。
 
 そいつらを整理し、不衛生なガラクタを捨て、ようやくネズミのフンが大量に落ちていた部屋の隅までたどり着いた。


  
 あった !
 壁の奥に、2~3cm程度の隙間。
 レコードを置いた棚を長年放置してきたために、総重量100kg近いその重みで床が沈み、床と壁の間に隙間ができていたのだ。

 

 イヒヒヒ !
 ようやくヤツらの出入り口をキャッチしたぞぉ !
 まずはその周辺を清潔になるまで丹念に掃除。

 

 そして、舌なめずりしながら、隙間から少しだけずらしたところに粘着シートをまず1枚。
 それに繋げるように、さらに1枚。


 ヤツらが壁を垂直に登っていくことも確認していたので、ガムテープを使って、壁と垂直に1枚貼り、その隣の壁にも、垂直方向に1枚。
 
 そして、床に敷いたシート中央には、撒きエサとして、輪切りのサラミとスルメイカをどっさり。

 

 はて、成果はいかに?

 

 罠を仕掛けてから、約7時間後。
 つまり、知り合いと外で飲んで帰ってきたころ、納戸の扉を開けて電気をつけると、いた !
 


 子ネズミより一回り大きい。親ネズミ。
 それが、シートとシートの間に挟まってもがいているのだ。
 たぶん、床の罠に気づき、壁沿いに垂直にジャンプしようとして、壁に貼り付けたシートに足を取られ、そのまま床に落下したのだろう。

 

 ネズミをサンドイッチ状態にした2枚のシートの1枚をはがしてみると、確かにネズミの体中に黄色い粘着液がこびり付いている。そのため、体は1mmたりとも動かない状態になっている。

 

 しかし、その目は憤怒に燃えていて、
 「お前のところには、もう永久にネズミ年は来ないぞ」
 と呪っているようにみえた。


 こいつも、シートを二つ折りにしてビニール袋に入れ、朝の生ゴミに出した。


 だが、まだ壁の中からのコトコト音は消えない。
 いったい何匹いるのか見当もつかない。
 引き続き、新しいシートを入り口前に仕掛け、スルメの匂いで釣る。

 

 3匹目が捕まったのは、その翌朝だった。
 「粘着シートにはなかなか引っかからない」とホームセンターの店員は言っていたが、うちの場合はものすごく高効率だ。

 

 捕まったネズミは、「どうか勘弁してください」と涙目で訴えている。
 多少表情が優しそうに見えたから、母親ネズミかもしれない。

 



 
 よく見ると、親ネズミとはいえ、可愛い顔をしている。 
 なんでこんな連中を殺生しなければならないのだ? と疑問を感じつつ、
 「来世は多少でも人間に好かれるハムスターぐらいに生まれかわれよ」
 と心のなかで合掌しつつ、シートを二つ折りにしてコンビニの袋に収容した。


 以降、壁と壁の間のコトコト音はいっさい途絶えた。
 ネズミの出入り口には、また新しい罠をしかけておいたが、今度はいつまで経っても、もう何の反応もなかった。
 けっきょく、親子3匹だけの「核家族ファミリー」だったのかもしれない。


 
 姿が見えなくなると、見えなくなったでさびしい。
 非衛生的な生き物とはいえ、愛くるしい姿には、どこか癒される要素があるのだ。


 
 それにしても、今の家でネズミを見るということがはじめてだったので、それなりの新鮮な衝撃を受けた。
 都市文明の恩恵にたっぷり浴していると思った室内に闖入したネズミは、まさに、“小さな自然の暴威” そのものだった。

 

 「文明」が荒廃すると、 つまり家具の重みなどで、床が沈み込んだりすると、そのぽっかり空いた「文明」のほころびから、異形の「自然」が顔をあらわすようになる。

 

 つまり、絶えず家の補修は必要であり、部屋の隅々にわたるまで掃除や整理整頓も欠かせないということだ。
 いい教訓になった。

 

 

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