アートと文藝のCafe

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家庭の危機は台所から始まる

 「洗い物をする旦那は奥さんに嫌われる」

 …… てなことがあるわけはない、と思っていたら、お昼のテレビを観ていたら、ほんとうにそうらしい。

 

 実は、私は食事が終わった後に、よく食器を洗ったりする。
 こちらとしては、食事を作ってくれたカミさんに対し、ささやかな “恩返し” のつもりで、汚れた皿が重なった洗い場に立つわけだが、実はこの私の作業が、カミさんに喜ばれた記憶がない。

 

 「あらまぁ、そんなことまでしなくてもいいのに」
 と、こちらを気遣ってくれるような反応があるときは、珍しく機嫌がいいときだ。

 

 たいていは、
 「やめて、洗い物をするのは 。シンクの中の汚れた皿に手を付けないでちょうだい」
 と怒鳴られる。

 

 理由ははっきりと言わない。
  
 これは私の密かな推測だが、要は、私が洗い物をするのは、
 「お前が家事をサボっているから、代わりに俺がしてやっているんだぞ」
 という、私の嫌味ったらしいメッセージだと思っているフシがありそうなのだ。

 

 まったくそんなつもりはないのだが、私が洗い場に立つと、
 「あんたが洗い物を始めると、私は休めないじゃないのよ」
 などと怒られたこともあったから、たぶん、自分が「家事をサボるな」と言われているような気になるのだろう。

 

 そういうカミさんの叱責を受けずに洗い物を済ませてしまうためには、カミさんが台所を離れたタイミングを見計らい、猛スピードで一気にやってしまうしかないと思っているのだが、今日テレビを観ていたら、旦那の洗い物を嫌がる主婦の心理には、もう少し違ったものがあることを教えられた。
 
 

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 主婦たちが、旦那の食器洗いを嫌う一番の理由は、
 「食器の洗い方が雑である !」
 ということらしい。
 だから、洗ってもらっても、けっきょく自分でもう一度洗い直さないとならないという。


 
 主婦というのは、漠然と台所に立って、韓流ドラマの次の展開を予想しながら口笛気分で皿を洗っているわけではないのだそうだ。

 

 食べ終わった食事の種類や皿の汚れ具合から、洗う工程を緻密に計算し、場合によってはしばらくお湯に浸け、洗う順番を定めて、洗剤の量を割り出す。
 そして、スポンジを選択。
 皿の汚れ具合によっては、スポンジを使い分け、洗剤を落とす水量も調節する。
  
 こういう手順がしっかり頭の中に叩き込まれ、洗う前に使用する水道の量、洗い終わる時間まで寸分の狂いもなくピタッと合うのが主婦の洗い物。

 

  が、そういう細かな神経をつかっている奥さんの気持ちを知らない旦那が、気まぐれに洗い物に手を出すと、どうなるか。

 

 全体に雑。
 皿の油などが完全に取れていなくても頓着しない。
 水道は流しっぱなしで、水がシンクの外に跳ねても平気。
 当然、床がバスルームのように水浸しになっても気づかない。
 おまけに皿を割る。
 それも、いちばん大切にしている皿を、まるで狙いすましたかのように、見事に割る。

 

 さらに、イラっとするのは、
 「ほら、お前のために皿を洗ってやったよ」
 というあの “押しつけがましい” 得意顔だという。
 
 う~む ……
 うちのカミさんが皿を洗う旦那を嫌う理由も、これだったのか。

 
 
 しかし、そのことが分ってしまっては、もううかつに汚れた皿に手を出すことができない。
 油残し
 水はね
 皿割り
 
 どれもみな私の得意ワザだ。

 

 どうりで、私が洗い物を始めると、カミさんの顔が、
 「桃太郎がサルとキジとイヌの護衛なしで、不用心に一人で歩いているところを見つけた鬼」
 のような表情になるわけだ。
 
 覚えておこう。
 家庭の危機は台所から始まる。