アートと文藝のCafe

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亭主を笑い飛ばす女房たち

 

 うちのカミさんが、近所のオバ様方と “お茶” してきたらしい。
 嫌な話を聞いた。
 
 今、カミさんの周りに集まるオバ様方の “お茶” で、いちばん盛り上がる話題は、亭主の自慢話らしいのだ。
  
 「自慢話」という言葉に、無邪気に喜んではいけない。
 「どれだけダメな夫か」ということの、ダメさ加減を自慢するらしいのだ。

 

 ウチの旦那は、会話も面白くなければ、出世もできない、運動神経も鈍い とかいう例を、どれだけ面白く語れるかということの芸の競い合いみたいなことが行われるらしい。
 
 嫌な世の中になったものだ。
  
 今日も、近所のオバ様のお一人が、こう言ったとか。
 
 「私たちの世代でさ、よもやスキーも滑れない男がいるなんて、思いもしなかったのよ。
 だから、“スキーに行こうよ” と誘ったきの返事が妙だったことに気づかなかったのね。
 それまで、いくら誘っても、やれ腰が痛いのだの、膝が悪いだのといって、急に体の不調を訴え始めるわけ。
 で、ようやくスキー場に連れ出して、ゲレンデに立ったとき、“いやぁ今日は特別に寒い日だから止めよう” とか言い出したのよ。
 寒くもなんともない日だったのに。
 だから、私、思い切って背中をポンと押して斜面に投げ出したの。
 どうしたと思う? 
 ワァーとか叫んで、そのまま雪だるまみたいに斜面を転がっていくの!」
  

 そこでオバ様方が一斉にワァーとか盛り上がるらしい。
   

 
 こういうとき、うちのカミさんにも取っておきの切り札があるらしいのだ。
 
 「うちの旦那なんか、プールにいっても、“今日は泳ぐより日向ぼっこに向いているな” などといって、一向に水に入ろうとしないの。
 だから、こっちも可愛く、“ね、一緒に泳ごう!” といって無理やり手を引っ張ったらさ、ギャッとか叫んで、背中からプールに落ちたの。
 そして、けたたましい勢いで両手を回しながら水を跳ね飛ばし始めたわけ。
 私、“犬かき” ってのを生まれてはじめて見た」

 

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 ここで、みんながワァーと盛り上がったらしい。
 
 失礼な話である。
 犬かきだって、立派な泳法だ。
 ただ、クロールとか平泳ぎに比べて、前に進む効率が悪いというだけの話で、 “泳げる” ことにはかわりない。
   
 さらに、もうひとつ、うちのカミさんは、こんなネタも持っているようだ。
 
 「よくうちの旦那は、“オレは社会人野球のピッチャーをやっていた” と自慢するの。なんかすごそうな話に聞こえるじゃない?
 だけど、どうも会社の野球大会で、1回だけ投手をやったことがあるみたいなのよ。
 で、なぜ彼がピッチャーになったかというと、野手だと、どんな球が飛んできても取れないらしいのね。
 だから、いちばん簡単なボールが飛んで来るピッチャーに収まったらしいのだけど、投げるボールがホームベースまで届かないんだって。
 それで、ベースの直前で球がお辞儀するからみんな空振りになっちゃうらしいの。
 で、うちの旦那は、それを “地を這う魔球のフォーク” とか平然といっているのよ」

 

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 で、そこでギャハハとみんなを笑わせて点数稼ぎをしているらしい。

 

 失礼な話だ。
 私は、これでも高校時代は甲子園出場を夢みて、ときどき野球部の練習を眺めに行ったこともあるのだ。

 

 そういう隠れた努力は正直に言っても伝わらないだろうから、言わなかっただけの話。

 

 今度は少しずつ、カミさんにも話してやろう。
 小学校の運動会で、すでに私が10秒を切って、9秒86を記録していたことを。
 50m走で。