アートと文藝のCafe

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思ってもいない言葉が口をつく

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 人間、追いつめられて、疲労も蓄積してくると、頭脳と肉体がそれぞれ別の方向に向かって歩き出してしまうことがよくある。
 思ってもいない言葉が、ふと口をつくというヤツ。
 
 いくつかの例があるが、私の場合、そのひとつが、「意味のない独り言」。
 
 先だって、ある人と話していたら、
 「身体も心もトコトン疲弊してくると、いつのまにか独り言をつぶやいているんだよね」
 という話になった。
 
 道を歩いていても、電車に乗っていても、気づくと、仕事や生活とはまったく無縁の、ほとんど意味のないことをつぶやいている。
 
 「あ、それ、俺もある!」
 「やっぱ?」
 と、2人で見つめ合い、お互い哀れむようにうなづきあった。
  

 
 もうひとつ怖いのは、言い間違いが多くなってきたこと。

 年のせいかもしれないが、自分がおかしなことを言い始めても、なかなか気づかない。 

 
 こういうことって、他の人にもいっぱいあるらしい。
 ある雑誌を読んでいたら、疲れてタクシーを拾った人が行き先を告げるときの失敗談を載せていた。
 
 本 人  「家までお願い」
 運転手 「どこのです?」
 本 人  「だから、家までだよ」
 
 似たような話が、自分にもある。
 
 ある私鉄の駅で、自動販売機を使わずに、駅員のいる窓口でキップを買おうとしたときのことだ。
 
 行き先の駅名を何度言っても、窓口の向こうにいる駅員はまったく応じてくれない。
 そればかりか、私の真意をさぐるような目つきでこちらを見つめてくる。
 
 駅名を連呼しているうちに、私は、ふと気がついた。
 駅員に向かって、
 「マイルドセブンライト(煙草の名)」
 と、言い続けていたのだ。
 
 切符を買ったあと、駅構内に入ったら、売店で煙草を買う。
 頭の中でそういう段取りを付けていたのだが、その順序が逆になったのだ。
 
 この手の話を、
 「アハハハ俺その時ボケちゃってよ」
 ってな笑い話で済ませられるうちはいい。
 
 だけど、笑い話で済ませられないようになったら、どうしよう。

 たとえば、ある日カミさんと、こんな受け答えをしたら?
 
 「お、ヨシ子、パーマにいったのか? 似合うじゃないか」
 
 「私、パーマなどに行っていませんけど。それにヨシ子じゃありません。ヨシ子って、誰?」