手越祐也のジャニーズ退所記者会見というのをずっと見ていた。
いい男である。
よくしゃべる。
… という印象だった。
この人がなんでジャニーズを辞めるようになったのか、よく知らない。
ファンや芸能人仲間からどういう評価を得てきた人なのか、ということもよく分からない。
ただ、ひとつ。
この人は、「ジャニーズ最後の “ヤンキー” 」だったんだな … ということだけはよく分かった。
「不良」とかいう意味ではない。
反抗的 … という印象も、少なくとも記者会見を見ているかぎりは感じなかった。
ただ、事務所の顔を立て、仲間に気を使い、ファンに詫び … という気の回し方の裏に、ヤンキー特有の「オレオレオーラ」が沸騰してくるのを感じた。
ヤンキーの基本文化のひとつに、人が見ているときは、いつだって「パワー全開」というのがある。
ヤンキーが「マイルドヤンキー」と言われるようになって、エグさや、キワドさが薄味になってきたとしても、社会や職場、学校といったシステムを「斜に構えて」眺める態度。すなわち、エリートたちをあざけるようにパワー全開で挑む精神にこそ、ヤンキー魂の真骨頂がある。
彼の場合、「行儀のいいエリートたちの巣窟」が今のジャニーズであった。
ジャニーズが多種多様な若者たちが集まる雑然としたアイドル組織であったのは、もう昔の話。
最近のジャニーズには、飼いならされた若者たちの集まりに化し、まるで、エリートサラリーマンばかり選ばれたような “高学歴オーラ” の集団になりつつあった。
小説家として二足のワラジを履く若者。
深夜のニュース番組でキャスターを務める若者。
クイズ番組に出場すれば、これまでのレギュラー出場者たちをよそに、視聴者も分からないような難問をさらりと解いたりする若者。
今の指導部の方針なのかどうか知らないが、最近のジャニーズは、ものすごい勢いで “知性派・ジェントルマン路線” に舵を切ろうとしていた。
もちろん「ジャニーズ」という看板を背負った子供たちだから、みな無類のイケメン。
爽やかな清潔感もあり、行儀もいい。
そういう今風ジャニーズのなかで、やっぱり手越君は異色だった。
もちろん彼も早稲田大学中退という学歴ブランドを持っているし、記者会見で2時間の長丁場を、ほぼひとりで語り尽すというトーク力もある。
しかし、彼は、はっきりと、今のジャニーズが求める「高学歴・ジェントルマン」路線に決然と異を唱えた。
「これからは自分のやりたいことをやる」
という宣言は、まさに、
「ジャニーズにいるかぎりは許されなかったことをやる」
という意味だ。
それは、SNSやYOU TUBEを使った情報発信だというが、具体的には何をやりたいかということはほとんど見えてこない。
「女性向けブランドをデザインして立ちあげる」
という趣旨のことを語っていたが、それが何なのかは、今のところはっきりしない。
ただ、彼は、
「俺は、今のジャニーズ事務所が強制するものなどに従う気はない」
と宣言したかったのだ。
品行方正な知的路線なんて、クソくらえだ!
俺がやろうとすることこそ、正統派ジャニーズのメインストリームだ。
彼は、にこやかに、さわやかに言い切った。
それは何か?
「ジャニーズとは、ファンの女の子に、モテて、モテて、モテまくることで生命力を発揮してきた組織なんだ」
「ジャニーズは、モテることがすべてだ!」
記者会見の席で、彼は、そのチャーミングな笑顔とよどみないトークで、まさに、そう “絶叫” したのだ。
それをアピールする格好の場として、コロナの猛威が吹き荒れる外出自粛期間中、複数の女性を伴って飲みに行くという舞台を用意したのだろう。
バカである。
反知性的である。
ただ、彼は、ジャニーズ最後のヤンキーとしての色気と意地を見せたように思う。