アートと文藝のCafe

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バーチャルリアリティーの時代こそキャンプだ

 

コロナは世界のグローバル化によって広まった

 

 新型コロナウイルスが世界的に蔓延している状況をみると、これほどまでに “世界のグローバル化” が進んでいたのか、という証拠を改めて突き付けられたような気分にな

る。

  

 コロナウイルスは人と人の接触によって感染する。
 各国の感染経過をみてみると、海外に渡航したときに罹患する率が非常に高いことが分かる。

 

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 もし世界の国々が閉ざされていたならば、これほど早く地球規模で蔓延することはなかったろう。


 航空機もなく、海洋交通も帆船に頼っていたような時代だったら、世界中の人々がコロナウイルスに感染するのに5年か10年、あるいは20年ぐらいかかっていたはずだ。

 

 ところが、世界のグローバル化が進んできた現代社会では、疫病が地球規模で広がるには2~3ヶ月あれば十分だということが分かった。


仕事も遊びもますますバーチャル化を深める
 

 コロナウイルスへの感染がこれほどまでに早まってきたことへの警戒心から、「人と人」の接触を避けようという意識が人々の間に生まれてきている。

 

 ビジネスの現場では、在宅勤務を原則とするテレワークが浸透するようになり、エンターティメントの世界でも、YOU TUBEを活用して、自宅で音楽動画やアニメを楽しむ風潮が強まっている。

 

 この傾向は、今後の「遊び」のスタイルをガラッと変えていくだろう。
 「VR
 すなわち人間の視覚システムをIT 機器と連動させることによって、実際に旅行に行ったり、冒険を始めたりするような映像を目の前に繰り広げる「バーチャル・リアリティー」の技術がより進化していくことは間違いない。

 

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 このような楽しみを盛り込んだ “VRコンテンツ” は、すでに何年も前から実用化が進んでいたが、それが、コロナウイルスの世界的な感染を機に、より注目を集めることは火を見るより明らかだ。

 

インドア的文化がますます花開く

 

 他人と接触することなく、自宅で “疑似リアル” な世界を旅できるVRコンテンツが世代を超えて定着していけば、ユーザーたちは自分が恐竜時代にタイムトリップしたり(ジュラシックパーク)、海底を遊泳しているうちにサメと遭遇したり(ジョーズ)、宇宙船を操縦して敵の宇宙船とバトルを展開したり(スター・ウォーズ)できることになる。

 

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 そういう遊び方が一般的になると、家の外に出る楽しみというのは、おいしい料理を食べさせてくれるレストランや食堂に行くことぐらいしか考えられなくなる、という声もある。
 
 しかし、人間の嗜好がすべてインドア的な快楽に収斂していくかといえば、実は、そうとばかりはいいきれない。


いっぽうではキャンプが注目される

 

 文化がVRテクノロジーに侵食されるようになると、逆に、より一層「自然」に接するような遊びが復活してくる可能性も出てきた。
 たとえば、キャンプである。

 

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 昨今のテレビを観ていると、やたら「キャンプ番組」が増えている。
 特に人気なのは、芸人のヒロシがYOU TUBEで動画を流す “ソロキャンプ” コンテンツ。


 ヒロシは、視聴者に向かって、はっきり言う。
 「キャンプというのは、不便を楽しむ遊びなんです」

 

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 つまり、キャンプ場に行くと、自分が身体を動かさなければ何も始まらない。
 テントを立てないと寝る場所もつくれないし、火を熾さないと料理も作れない。

 

 しかし、そうやって、自分の身体を使ってその場を生き抜くコツを身に付けることが、今や新しい “ステータス” になってきた。
 ヒロシのソロキャンプが人気を保つ理由はそこにある。

 

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焚き火に対する関心度が
かつてないほど高まっている

 

 そのとき、アウトドア的楽しみ方の軸となるのが、焚き火である。

 

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 現在「冬キャンプ」や「春キャンプ」がブームになっているのは、ひとつは、焚き火を楽しむ風潮が浸透してきたからだという人もいる。

 

 人類は、火を確保し、それをコントロールすることによって、はじめて野生動物の恐怖などから逃れることができた。

 
 そのとき、人類は「温かさ」や「明るさ」という物理的な豊かさを手に入れただけではなく、同時に「安全」、「安心」、「幸福」などという抽象的な概念も手に入れた。

 

 つまり、人間は、焚き火という習慣を身に付けることで、はじめて抽象的な “思考” を獲得したのだ。
 それが、「哲学の始まり」となった。

 

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 なぜ、焚き火が「哲学」を用意するようになったのか。
 それは、哲学が「沈黙」から生まれる学問だからだ。
 
 人間は、ある種のひらめきによって、新しい思考を獲得することがある。
 たとえば、人との会話がヒントになって、今まで考えたこともないようなイメージを思い浮かべることがある。

 

 だが、イメージの段階では、ただの “アイデア” でしかない。
 そのアイデアが、堅固な論理を持つ哲学に至るには、どんな人間にも沈黙の時が必要になる。

 

 

 実際に、焚き火愛好家のなかには、「焚き火を囲んでいるときの “沈黙” が心地よい」という人が多い。

 

 人間は、満ち足りたときには、「沈黙」の中に身を潜めることで安らぎを得られるようになっている。
 ソロキャンプというのは、そのことを端的に教えてくれる遊び方だともいえる。

 

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 今は面白い時代である。
 身体を動かさなくても、“世界の果て” まで旅に出られるVRの便利さが浸透してきたことによって、その対極にある不便なキャンプも面白く感じられるようになってきたのだ。

 

 人間の身体には、原始時代を生き延びてきた血と、未来を切り開く想像力の両方が詰まっている。

 

 コロナウイルスのために、他人とあまり接しないソロキャンプ(あるいは自分の家族だけのキャンプ)が脚光を浴びてきたというのは、きっと何か意味があることに違いない。

 

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