人間のさまざまな欲望の中で、いちばん奇怪なのは「モテたい」という欲望。
これ、何なんだろうね?
特に男にとっては、「モテる」ということが、時に、カネや名誉よりも切実なものとして感じられる時があるんだな。
で、男たちは、たとえ擬似的でも「モテた瞬間」を手に入れたいために、キャバレー、キャバクラといった「キャバ場」に顔を出すことになる。
たとえ1時間 3、000円取られても、若い女の子がぴったり寄り添ってくれて、酒を注いでくれて、時には腕を組んでくれたり、さらに店によっては × × × (← 注)を触らせてくれたりするわけだから、一瞬のモテ幻想に酔えるわけだね。
※ 注 (× × × は次の中から選択可 肩、小指、鼻の穴)
でもさぁ、そういうところに行っても、誰でもモテるわけでもないんだよね。
カネがありそう見えるかどうか。
関係ないね。
イケメンであるかどうか。
それもあんまりねぇ …… 。
話が面白いかどうか。
男がもっとも誤解しているのが、それだな。
俺の話は面白い ! って自分で思い込んでいるヤツの話なんて、たいていの場合、たいしたことないんだよね。
でもあるよ。モテるための必勝法が。
それはね、自分の一番 “モテ要素” と信じているものを自ら封じることなんだよね。
つまり、「オンナは、俺のココに魅力を感じるだろうな」と自分で信じているものをまず封印すること。
それが必勝法。
なぜかといえば、自分の一番のチャームポイントだと信じているものを無理矢理押し出そうとするとね、たいていの人間は、「どーだスゴいだろうぉ!オーラ」がギンギンに出過ぎちゃうわけ。
それって、商売女からすれば、「バカがまた1人」になってしまうんだよ。
特に、仲間同士でくり出すときは要注意。
男同士で「モテ度」を競うようになったときは、一番 “モテ” を強調するヤツから、逆に “馬群” に沈んでいく。
比較的許されるのは、自分自身を笑いのネタにするヤツ。
いわゆる “自虐ネタ” 。
これは、だいたいどこでも歓迎される。
「この前よ、オレの頭の後ろを写真に撮ったヤツがいたの。それを見たら、スポットライトが当たる場所でもないのに、オレの後頭部に光が当たっているのよ」
「わー、ナニナニ?」
「で、カミさんが、その写真見てよ、“あら知らなかったの? もう3年前からですよ” って言うんだよ」
「えー、どこどこ?」
「ここだけど … 」
「あ、大丈夫ですよ。まだボール大だから。帽子かぶってりゃ分かりませんよ」
…… おいおい、ボール大ってほんと?
そこでメゲてはいけないのである。
モテるためには、さらなる自虐ネタを繰り出さなければならない。もう少し辛抱だ。
「ま、ハゲとデブはモテないというけどさ。その二つが重なると辛いよな。ハゲの方は帽子かぶってりゃ何とかなるけど、お腹が出てきたら防ぎようないしな。
“むかしは相撲取りだった” なんて冗談も通じねぇしよ(笑)」
「大丈夫ですよ。私、お腹の出ているくらいの男の人が好き。だって、自分の欲望に忠実そうな感じじゃないですか。食べたいだけ食べて、ブクブクしている人って、男らしいなぁ!」
…… お前、本気?
それにしても、ブクブクって …、もう少しほかの言い方ないの?
ここでメゲてはいけないのである。
「まぁお腹の方は、まだベルトをギュッと締めて我慢していりやなんとかなるけれど、足が短いのはごまかしが利かないよなぁ」
「大丈夫ですよ、座っていれば分かりませんから。お客様の場合、けっこう背が高そうに見えますよ」
…… 要するに、胴長って意味?
「足が短いのは座っていればごまかせるけど、俺ねぇ、極端なO脚なのよ。ま、幼い頃から乗馬やっていたからしようがないんだけどね」
「へぇーカッコいい! どうせなら、もっと曲がっていれば、カバにも乗れますよね」
…… カバにまたがってどうすんのよ。バカにしてんのか?
そこでメゲてはいけないのである。
「ま、モテなくたってさ、こうやって可愛い女の子と一つ屋根の下で肩を寄せ合っている時間が持てるだけで幸せかもな」
「そーですよ。私なんかも、毎日深夜に帰って、誰もいない部屋の明かりを自分でつけて、“ああいつまで独りぼっちの生活を送るのかなぁ … ” とため息ついているときに、ヒョコっとゴキブリが顔を出しただけで、“一つ屋根の下に私と同じ生き物がいたんだ !” と、たとえ隣にいるのがゴキブリだってしみじみしちゃうことがあるんです」
…… あのさぁ、なんでそこでゴキブリの話が出るの?
それって、俺のこと?