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プーチンのウクライナ侵攻は「気候変動」説で説明できる?

 

 
 ロシアのプーチン大統領は、なぜウクライナへの侵攻を始めたのか。

 

 それに関しては、
 ① プーチンNATOの東方拡大を恐れたから。
 ② 彼がロシア帝国の復活という野望をいだいたから。
 ③ ウクライナにいた親ロシア系住民を、ウクライナのネオナチ勢力が大量虐殺し始めたから。(それを食い止めるため)。

 

 世界のメディアでは、(フェイクニュースやプロバガンダを含め)いろいろな解析が飛び交っている。
 しかし、本当のことは、プーチン氏の心の中を読み解かないかぎり解らない、というのが今のところの共通した結論のようだ。

 

 しかし、この戦争は、「地球の気候変動」がもたらしたものである、ということを唱えた学者が出てきた。『人新世の「資本論」』を書いた斎藤幸平氏大阪市立大学大学院経済学研究科准教授)である。

 

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 斎藤氏が書いた同著は、マルクス資本論を現代的に解説した人気書籍であるが、その骨子は、マルクスの残した膨大なメモから、マルクスが地球の気候変動に関する危機的状況を伝えようとしていたところにある。

 

 そんな視点で「資本論」を読み直した斎藤氏によると、ロシアのウクライナ侵略も、また違った側面から見直す必要があるという。

 

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 AERAオンラインに、3月9日付で寄稿された記事によると、
 「プーチンウクライナに侵攻したいちばんの理由は、気候変動によってロシアの農業や工業が壊滅的な打撃を受ける前に、豊かなウクライナを手に入れて、ロシア経済の安定化を目指すところにあった」
 という。

 

 斎藤氏によると、
 「(地球の)気温上昇によって、干ばつや豪雨、山火事などが多発し、食糧や水といった、人間が必要とする最低限の生存条件が危うくなってきた。
 ロシアも例外ではなく、広大な領土の至るところに、気温上昇による非常事態が発生しつつある」

 

 具体的にいうと、
 「シベリアでは永久凍土が解け始め、山火事、洪水などの自然災害が多発する危機が高まり、トナカイの死骸から炭疽(たんそ)菌が広がったり、マンモスの死骸から未知のウイルスも発見されたりするようになった」

 

 ロシアにおける永久凍土の占める割合は、国土の65%にのぼる。
 永久凍土の融解が進むと、ロシア領内のかなりの土地で地盤沈下が発生する。

 

 当然、それはロシアの農業にも深刻なダメージを与える。
 農業面積が狭まるだけでなく、気温上昇による干ばつや水不足も発生する。

 

 現に、2010年にはロシア南部が干ばつに見舞われ、ロシアの小麦生産が大打撃を受けた。

 プーチンをはじめとする政権幹部は、ロシア領内の食糧危機をはじめとする気候変動の脅威を真剣に考えざるを得なくなってきた。

 

 しかし、自国の気候変動に対し、真剣に対応するほどの経済力と技術力がロシアにはない。
 欧米に比べ、この分野では、ロシアは圧倒的に後進国なのだ。
 
 そのため、ロシアは自国の経済力を維持するために、膨大な資源として管理していた石油と天然ガスをまず売りさばいて外貨を稼ごうとした。

 

 しかし、そこにロシアの悩みが生まれた。

 

 というのは、ロシアから化石燃料を輸入しているEU諸国では、地球の温暖化対策として、「脱炭素化」を目指す動きが活発になってきたことだ。

 

 そこでロシアは、EUの脱炭素化政策がしっかり固まる前に、石油と天然ガスを売り尽さなければならないという焦りを抱えることになった。

 

 そういう焦りが、一方では、自国の農業政策を見直す計画に拍車をかけた。

 

 自国の小麦生産が不安を抱えるようになったとき、ロシアは世界でも有数な小麦生産国が隣にあることに目を付けた。

 

 ウクライナである。

 

 ウクライナは、ロシアと並ぶ小麦輸出大国で、ロシアとウクライナの小麦生産量を合せると、全世界の3分の1(29%)に達する。
 さらにウクライナはトウモロコシの生産量も多い国で、ここを抑えれば、ロシア人の胃袋を保証するだけでなく、中国、中東、アフリカなどへの食糧輸出の目途もたつ。

 

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 ロシアのウクライナ侵攻ではやたら都市の攻撃が目立つが、ロシアにとって欲しいのは都市ではなく農業地帯なのだから、ウクライナ全土が小麦・トウモロコシ畑になってもかまわないのだ。

 

 以上は、斎藤幸平氏の分析に、若干私の解釈を混ぜたものだが、このように、ロシアのウクライナ侵攻を気候変動問題と、農業政策の観点から見直すという斎藤氏の作業はとても新鮮であった。

 

 日本のマスコミは、ともすれば、「プーチンロシア帝国再建の野望」とか、「NATOへの警戒心」、「ソ連を崩壊させた西側諸国への復讐」という政治的物語でこの問題を眺めようとするが、世の中はそんなに単純なものではないな ということを悟ったようにも思う。