アートと文藝のCafe

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ディープフェイクの時代

  

 ウクライナ危機がどういう解決を見せるのか。
 ロシア軍の侵攻が始まって1ヵ月ほど経った今も、いまだにその出口が見えない。
 
 停戦の話が進んでいるとも聞くが、ロシア軍の “時間稼ぎ” という見方もあり、悲惨な状況はまだまだ続きそうだ。

 

 いずれにせよ、このウクライナ問題に注視している人たちの多くは、
 「新しい戦争の時代」
 が始まったことを理解したのではなかろうか。


 戦車砲とミサイルが飛び交う実戦の場だけでなく、それと同じ勢いで、「ニセ情報」がぶつかり合うサイバー戦争が起こったことを知ったはずである。

 

 4~5日ほど前だったか、ウクライナのゼレンスキ―大統領がウクライナ市民に「ロシアへの投降」を呼びかけるニセ動画が出回った。
 AI が制作した “ディープフェイク” と呼ばれるもので、注意深く見ても、本物と分からないほどの精巧な作りだった。

 

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 この動画は、「しゃべっている内容がおかしい」ということで動画配信元が調査し、画像的にも不自然だということが分かって、即座に削除された。
 しかし、本物と比べて見ないと “ニセ画像” と判断することがきわめて難しい仕上がりだったという。

 

 最近、こういう報道が多い。

 

 BSで海外ニュースを見ていたとき、
 「ウクライナ軍が、殺傷能力の高いミサイルで親ロシア派のいる町を攻撃し、親ロシア派市民が20人ほど殺害された」
 というテロップの入った画像を見た。

 

 私は、ロシア軍だけでなく、ウクライナ軍もひどいことをしているのだ … と思い、憂鬱な気分になった。

 

 しかし、すぐにそれは、「ロシア側が仕組んだプロパガンダ戦略」だと知らされた。
 日本のニュースでも同じ情報が流されていて、「親ロシア派住民殺害」に使用されたロケットの破片が「ロシア製」であることが確認されたという。

 

 この手のフェイクニュースは日増しに増えている。
 たいていの出どころはロシアだと言われているが、おそらくウクライナや西側諸国が流したフェイクニュースもかなりあるだろう。


 何を信じていいのか分からない時代になった。

 

 ウクライナから遠く離れた日本でも、YOU TUBEを中心に、プーチンを擁護する情報が多く出回っている。

 その大半は、
 「アメリカには “ディープステート” という悪の組織が存在し、実は、プーチンはそれと戦っているのだ」
 と主張している。

  
 どこの誰が言い出したのかは知らないが、これは「陰謀論」である。
 
 問題は、こういう陰謀論に刺激されて、日本のネットでも、
 「本当に悪いのは、プーチンよりも西側諸国だ」
 と訴える論調が勢いを見せていることだ。

 

 そのことの当否をここでは問わない。

 

 それよりも、こうしたフェイクニュースの洪水のなかで、いかにしたら自分の “目” を確立することが出来るかどうか。

 

 これについては、すでにたくさんの論評がネットでも出回っているが、「決定打」といえる対処法はない。
 
 私なりにひとついえることは、自分なりの “哲学” を持つことだと思う。
 
 「哲学」というのは、人間の情感を超えたところに “真理” があると洞察することである。
 つまり、感情をたやすく刺激してくるものには、むしろ疑問の目を向けることが大事だ。

 

 先ほどいった「陰謀論」の大半は、
 「アメリカの民主党政権は、実は、幼児性愛者の巣窟である」
 などという、人の感情をいやらしく煽るようなことをまことしやかに訴えてくる。
 
 一回だけ聞き流してしまえば、「なんかおかしい」と誰にでも分かりそうな内容だが、同じことが、公共電波やSNSを通じて繰り返し発信されると、どんなガセネタでも “真実” に思えてくる。

 

 今ロシアの国営放送がロシア国民に流している情報がまさにそれだ。

 ① ウクライナの政府は “ネオナチ” の極右政権である。
 ② 彼らは、東部に住んでいる親ロシア派住民を虐殺している。
 ③ ロシアは、彼らの命を守るために、軍事行動に踏み切った。

 

 プーチン大統領がロシア国民に訴えているのは、すべて捏造された “正義の戦い” である。


 そういうプロバガンダばかり毎日聞かされているロシア国民がどれだけ真相をつかめるのか。
 これは、案外難しい問題かもしれない。