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アメリカ大統領選挙の本当の意味


 アメリカの大統領選挙戦も、残るところ3週間を切った。
 コロナウイルスを患った共和党のトランプ氏に対し、アメリカでも「病気に対する危機管理が甘い」という批判が巻き起こったが、トランプ氏はまったく気にする様子がない。

 

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 果たして、彼の大統領再選はありうるのか?

  

 日本のメディアは、対立候補のバイデン氏(民主党)の有利を伝えながらも、トランプ氏の巻き返しがありうるという報道を流し続けている。
 トランプ氏がどんな劣勢に立たされようが、彼を支える岩盤支持層の熱烈な応援が崩れる気配はないからだ。

 

 その支持層とは、いわゆる “プアホワイト” と呼ばれる経済的に恵まれない白人労働者階級。
 そして、キリスト教福音派(長老派)という宗教原理主義たち。

 

 福音派は、厳格な聖書解釈を目指す人たちだから、
 「人間と猿が同一の祖先を持っている」
 などという説を許さない。

 

 人間と猿は、神が最初から別々に生命を与えた生き物だから、まったく違う生き物である、と彼らは信じている。
 つまり、ダーウィンの進化論を否定しているために、「進化論」を教える学校に子供を登校させないという親までいる。

 

 こういう宗教家たちに加え、トランプ支持者には、黒人やヒスパニック系住民の増加に不満を持つ白人たちがいる。


 これに、「共産主義」「社会主義」という言葉に恐れを感じる人たちを加えてもいいだろう。
 
 いずれも、政治的には、変革を嫌う保守的な人々である。

 

 彼らは、海外から流入してくる移民を不安視し、同性愛者婚や妊娠中絶を批判する。
 外交的には、キリスト教福音派の心情に従って、中東における極端なイスラエル寄りの方針を支持する。

 

 「トランプ政治」というのは、こういうアメリカ保守派の意向を汲んだ形で進められてきたため、国内的には、人種差別が深刻化し、経済格差も広がり、世界的には、かなりいびつな国際関係を志向する形になっていた。

 

 唯一歓迎されたことといえば、アメリカの富裕層に対し、株価が高値で推移することを保証したことだろう。

 

 しかし、そろそろそういうトランプ型政治が、アメリカでも終焉に向かいつつある。

 

 トランプ氏の政治志向は、政権発足当時から数々の批判を招いてきた。
 国論は分断され、トランプ支持派と反トランプ派は、お互いが憎み合う暴力沙汰すら巻き起こした。

 

 一言でいうと、いまアメリカで起こっていることは、「多様性」を排除しようとするグループが、トランプ氏の思想を利用して、自分たちの「同一性」を強固にしようとする動きを強めているということなのだ。

 

 だが、いつまでも、そういう異様な緊張状態が続くことはありえない。

 

 今年で、たぶんトランプ氏の治世は終わる。


 もし、彼が民主党のバイデン氏を土壇場で破り、大統領としての2期目を迎えたとしても、続く4年間は、アメリカにとっても、世界にとっても、最悪の時代を迎えることになるだろう。

 

 なぜ、そうなのか。
 
 その大きな理由の一つは、ここ数年の間に劇的な様相を呈してきた地球環境の変化だ。

 

 現在「100年に一度」と呼ばれるたぐいの異常気象が世界各国で起き始めている。

 

 広範囲にわたる山火事の多発。
 ハリケーンや台風の強大化。
 「熱中症」が深刻な危機をもたらす “真夏日” の増加。

 

 その原因の多くは、地球の温暖化だ。
 そしてそれは、世界中で増え続ける二酸化炭素のせいだといわれている。

 

 この6月には、シベリアで気温が38度℃に達した。
 このままいけば、永久凍土が融解することになる。
 そうなれば、大量のメタンガスが放出され、気候変動がさらに進行する。

 

 そのうえ水銀が流出したり、炭疽菌のような細菌やウイルスが解き放たれするリスクも生まれる。

 

 ところが、トランプ氏は、
 「地球温暖化などという説は、一部の学者がまき散らすフェイクニュースに過ぎず、信じるに値しない」
 と言い放ち、温暖化を抑制しようとするパリ協定から離脱。化石燃料を大量に使用する産業活動をさらに加速させた。

 

 たぶん今の地球に、こういうトランプ氏の判断を許容する余裕はない。

 

 最新の研究によると、このままのペースでの温室効果ガスの排出が続けば、短い年月のうちに、世界の平均気温は4度℃以上の上昇が起きるとされている。

 

 そうなると、南極・北極の氷の融解が始まり、その海面上昇によって、30年後には1.5億人の人々が住む地域が浸水を経験するようになり、「大洪水」による環境難民が発生するとか。

 

 もちろん、こういう “温暖化危機説” は、トランプ氏のいうとおり、学者のなかでも反対論を唱える人たちがいることも事実だ。

 

 彼らは、
 「地球の温暖化と寒冷化は、何万年~何千年という単位で周期的に繰り返されるもので、今回の温暖化が、産業の振興によって生じた二酸化炭素の増加という人為的なものだとは言い切れない」
 という。

 

 確かに、そうかもしれない。

 
 しかし、そういう学者たちがいる一方、その見方に異を唱える学者たちもいる。
 そういう学者たちは次のようにいう。

 

 「産業の振興が起こした温暖化かどうかを見極めているうちに、その結論が見えたときは、すでに地球の救済は手遅れになっているはずだ」

 
 どちらの説が正しいのか?

 

 それを判定するには、高度な政治的・経済的思惑が絡んでいることを考慮しなければならない。

 

 経済活動を優先する人々は、当然「地球の温暖化は、地球固有の自然現象に過ぎない」と主張する。

 そういう思想には、「資本主義的なバイアス」がかかっていると見なすこともできるだろう。

 
 つまり、学術的な判断だけで真偽を確かめることは難しいのだ。
 
 ただ、トランプ氏の政策が、地球環境への配慮を欠いたものであることを示す証拠が出てしまった。

 
 それは、彼自身が “コロナ禍” を軽視したため、自分自身が感染してしまったことを指す。

 

 ブラジルのボルソナル大統領とトランプ大統領は、ともに、コロナを軽視し、産業振興に前のめりになり過ぎたゆえに、自分自身が感染してしまったという意味で、とても象徴的な人物のように思える。

 

 そもそも、新型コロナウイルス自体が、人類が自然ヘの配慮を欠いた対応を繰り返してきたことへの結果であるのだ。

 

 もともとウイルスというのは、野生動物に寄生していたものである。
 つまり、野生動物と人間の生存圏が適当な距離を保っていれば、人間が感染するリスクは低かったのだ。

 

 しかし、近年、人間による自然環境の破壊が驚くほどのスピードで進み、野生動物と人間の住環境が極端に近づくようになった。
 
 熱帯雨林の破壊。
 無秩序な耕作用地の拡大や都市開発。

  
 それによって、野生動物の生態系が壊され、動物にしか寄生しなかったウイルスが、より棲みやすい宿主(しゅくしゅ)を求めて人間に触手を伸ばすようになった。

 

 SARS、MERS、エボラ出血熱、ジカ熱、そして新型コロナ。
 ここ20年ほどの間に、これほど頻繁に新しいウイルスが人間を脅かすようになったのは疫病学史上はじめてのことだという。

 

 つまり、この “20年” のうちに、人類による自然破壊はかつてないほどのスピードで進んでしまったといえる。

 

 アメリカの大統領選挙は、アメリカ国内のリーダーを決めること以上の意味を持っている。
 地球環境の破滅を回避するリーダーを選び出す選挙でもある。