NHKのBSプレミアムで、『“イマジン” は生きている』というドキュメンタリー番組が放映された。(2020年11月21日)
現在東京で開かれている『DOUBLE FANTASY - John & Yoko』展に焦点を合わせた企画らしい。
この『イマジン』という曲が誕生したのは、1971年。
曲をつくったジョン・レノンは、歌の冒頭、
「想像してごらん、天国などないんだよ」
と歌った。
さらに、
「地面の下に地獄もない」
「国家や宗教もない」
「世界はひとつだ」
と続けた。
その歌から50年。
地球は、いま、この歌のような世界になりつつある。
『イマジン』は、国家や宗教を超えて、人類が一つにまとまるという平和の “理想郷” を歌ったものだが、それを実現したのは、この歌に託された「人間の想像力(イマジン)」 ではなく、グローバリゼーションと呼ばれる資本主義の運動であった。
この歌が注目を集めた1970年代。
「国家」を超えようとする “何か” が地球上に広がり始めていた。
「世界市場」である。
『イマジン』が誕生した時代というのは、欧米先進国の自動車や電気製品といった耐久消費財が自国内の市場ではさばき切れなくなり、それぞれ輸出に活路を求めなければならない状態になっていた。
さらに、80年代の終りになると、冷戦構造が崩壊して、ソ連をはじめとする社会主義国も資本主義社会に参入するようになった。
こうなると、各国の経済は、ますます国内だけでは完結しなくなり、国外の市場を求めて活発に動き始めるようになった。
つまり、ジョン・レノンの『イマジン』で歌われたのは、グローバル資本主義がそれぞれの国境を超えていこうとする姿そのものであったといっていい。
グローバル資本主義は、国境を超えるだけではない。
宗教も超える。
人種も超える。
文化も超える。
結果、「世界はひとつになる」。
歌のテーマは「世界平和」だが、それはまた資本主義のテーマでもあったのだ。
なぜなら、戦争や紛争がある地域では「市場」というものが成立しないからだ。
グローバル市場を成立させるためには、まず地球上から戦争地域が消滅しなければならない。
次に、流通する商品が、個々の国の宗教や文化、人種によって差別されてはいけない。
そのため、グローバル資本主義を推進する多国籍企業は、地球上のすべての宗教、文化、人種がすべてフラットな価値観で統一されるような世界観を目指した。
『イマジン』は、その様子を予言した曲だった。
もちろん、ジョン・レノン自身は無邪気な平和主義者に過ぎず、グローバル資本主義の動向など意識することはなかったろう。
にもかかわらず、その10年後に訪れる世界経済の動向を予言したのだとしたら、それこそ、ジョン・レノンの透徹した想像力(イマジン)によるものだったといっていい。
こういう世界観を秘めた曲であったから、いろいろと物議をかもしたこともあったらしい。
国家を否定していることから、「共産主義思想」の歌だと思われ、欧米の保守層からは警戒されたこともあったという。
そういう保守派の警戒心は、まったく的外れというわけでもない。
なぜなら、「共産主義思想」もまた、資本主義から生み出されたものだから、骨格は同じものなのだ。
つまり、どちらも「国境を超える」ことを目的とした運動だといえる。
そもそも、20世紀のイギリスとアメリカに登場した「ROCK」という音楽形式そのものが「グローバル資本主義」の象徴的形態であったかもしれない。
この日(11月21日)、ジョン・レノンの『イマジン』特集を組んだNHK BSプレミアムでは、それに続いて、ザ・ローリング・ストーンズのキューバコンサート(2016年)のLIVEを放映した。
キューバ革命を領導したフィデル・カストロが死去した後、経済の自由化が進んだとされるキューバだが、体制はいまだに「社会主義国家」である。そのため、2001年までは、西側のロックバンドの公演は許可されなかった。
しかし、2016年に行われたローリング・ストーンズのキューバ公演(「ライブ・イン・ハバナ、キューバ」)では、地元の若者が熱狂している様子がしっかりと映像に残されていた。
彼らの熱気は、自由主義諸国のライブよりも激しかった。
こういうことからも、ROCKは「国やイデオロギー、宗教、体制、民族」を超えるものだということがよく分かる。
まさに、20世紀の半ばに台頭したROCKは、グローバル資本主義が作り出した「熱狂」だったのだ。
ちなみに、このキューバ公演では、会場の中と周辺に集まった観客が70万人。
さらに音だけを聴くために、別の場所に集まった聴衆が50万人。
合わせて120万人のキューバ人がストーンズの音を楽しんだという。
あとは、余談だけどさ。
俺も今年で70歳になったわけ。
そうなると、カッコいい “老人像” というものを少しずつ考えるようになるのね。
今のところさ、「カッコいいなぁ!」と思うのは、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズ(76歳)。
自分の生きざまを表現する自慢のギターなんかを抱えてさ、笑ってステージに立っている姿なんかは、見ていて惚れ惚れするね。