アートと文藝のCafe

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この季節にぴったりの曲「雨に微笑を」

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 深夜放送っていうのだろうか。
 『音楽のある風景』

 

 深夜の12時を回ってから、BSで毎晩放映している音楽番組。
  つぅか、通販CDのテレビショッピング番組なんだけど、70年代、80年代あたりのヒット曲をごく短く切り取ってオンエアしていく放送がある。

 

 で、わが家の場合は、(たまにだが)そんな時間に夕食を摂ることもあったりするので、けっこうこの番組を観ている。


 往年のヒット曲の、ごく触りだけがコマ切れに流れていく。

 

 でも、それがまたいいんだな。
 押し付けがましくなくて。
 けっこう画面がきれいなので、環境ムービーみたいな味わいがある。

 

 夕焼けに染まった渚をバックに、プラターズの『Smoke Gets in Your Eyes』が流れたり、さびしいレンガ倉庫を背景に、ギルバート・オサリバンの『Alone Again』がかかったり

 

 風景が美しいので、そっちに気をとられていると、音楽がコマ切れであることが気づかなかったりする。

 

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 で、テキトーなタイミングでCMが入る。
 「今かかった音楽をまとめた4枚組みCDが、わずか9,800円です」とか、途中でナレーションが入るのだ。

 

 いまだに「音楽を聴くのはCD」と思い込んでいる高齢者層がターゲットなんだけど、若い頃に聞いた音楽をまとめて聴くのもいいか と思うシニア層も多いんではなかろうか。

 

 耳なじんだ曲は、やはり心地よい。
 若いときには、好きでもなかった曲が、サンフランシスコの街並みを背景に流れてきたりすると、それなりに「いいじゃん 」と思い直したりする。

 
 
 で、このまえニール・セダカの『雨に微笑を (Laughter In The Rain)』という曲がかかっていた。

 

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▼ 『雨に微笑みを』
Neil Sedaka - Laughter In The Rain [w/ lyrics]  

youtu.be

キャロル・キング的なピアノの入り方だ !!
 
 けっこう往年のヒット曲を知っているつもりの自分にも、この曲だけは、聞いたことはあったけれど、タイトルも歌い手も知らなかったのだ。

 

 こういう発見は楽しい。
 さっそく、YOU TUBEで聞きなおした。


 60年代にビートルズアメリカの音楽シーンを席巻するまでは、ニール・セダカといえば、アメリカンポップスを代表する人気歌手だったのだ。

 

 自分も、ビートルズを知る前は、けっこうファンだった。
 『カレンダー・ガール』、『恋の片道切符』、『悲しき慕情』

 

 ニール・セダカの歌は、ファンシーでメローなアメリカン・ポップスのなかでは、けっこうキャッチーなビート感を漂わすものが多くて、とびっきり洒落ていた。
 パット・ブーンコニー・フランシスの歌などにまぎれて流れてくると、あきらかに異質だった。 


 アメリカの音なんだけど、その旋律が独創的で、ラジオから彼の曲が流れてくるだけで、周囲の空気さえエキゾチックな香りに包んだ。

 

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 『雨に微笑を』は、その彼が1974年に作った曲だという。
 そのとき彼は、35歳という計算になる。
 すでに、世界の音楽シーンは、のきなみ “ロック化” していて、ディープ・パープルとか、グランド・ファンク・レイルロードがぎんぎんギターをかき鳴らして吠えていた時代だ。
 
 白人系はロック。
 黒人系は、ディスコ・ミュージック。
 そんな時代に逆行するように、彼はアメリカンポップスの正統派路線を堂々と歌った。

 

 なんという、この力強さ!
 メロディーも歌詞も、おだやかな優しさに包まれているというのに、「これこそアメリカンポップスの王道だ!」 とばかりに自信たっぷりに歌うニール・セダカ

 

 いま聞くと、やはりアメリカン・ポップスというのは、厚みが違うように思えてくる。
 一言でいうと、「贅沢」だ。

 

 特に、この曲、
 ♪ Ooooh, I hear laughter in the rain,
 ♪ walking hand in hand with the one I love. …
 というサビに入ってからのゴージャズ感というのは、一朝一夕に生まれてくるものではない。

 

 そこには、聖歌隊の合唱やら、ボードビリアンの芸やら、トラディッショナルフォークやら、ミュージカルやら、200年ぐらいアメリカ白人たちが聞いてきた音楽文化の厚みがゴソっと詰まっている。
 それが、独特のゴージャス感を生んでいる。
 

 
 メロディーラインもきれいだし、間奏パートも洒落ている。
 黒人っぽさはまったくないけれど、メロディーの節々に、かすかにR&Bっぽいフレーズも混じる。 

 

 これは、よく分からないけれど、キャロル・キング(写真下)からの系譜じゃなかろうか。
 ニール・セダカはかつてキャロルと付き合いがあったらしく、若いときには、そのキャロルを讃えた『オウ! キャロル』などという歌も作っている。

 

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 で、そのキャロル・キングといえば、初期はR&B畑で活躍した人。
 リトル・エヴァの『ロコモーション』(1962年)、マキシン・ブラウンの『オー・ノー・ノット・マイ・ベイビー』(1964年)などは、みな彼女が黒人歌手に曲を提供していたのだ。
  
 ニール・セダカがどれくらいキャロルを意識したかどうか分からないけれど、この『雨に微笑を』という歌には、キャロル経由のR&Bのテイストが少しあるような気がするのだ。

 

 というわけで、アメリカンポップスのエッセンスがぎっしり詰まった、この曲。
その年の全米チャートナンバーワンに輝いたという。
 
 雨の季節。
 こちら( ↓ )も、雨をテーマにした名曲ですね。

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youtu.be

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