昨年(2019年)の暮れから報じられるようになった新型コロナウィルスの感染が止まらず、世界中が大混乱に陥っている。
日本でも、多くのスポーツイベント・文化イベントがのきなみ中止となり、観客動員数の減少が「経済的損失」としてカウントされるようになってきた。
キャンピングカー関連のイベントも同様で、前回言及したように、1月31日から2月2日まで幕張メッセ(千葉)で開かれた「ジャパンキャンピングカーショー2020」を最後に、大阪や名古屋のビッグイベントは中止された。
▼「ジャパンキャンピングカーショー2020」
キャンピングカーは、「動く家」として、外部と遮断された状態で旅行できる道具なので、コロナウイルスに感染するリスクを避けながら野外生活を楽しむことができる。
そのため、こういう時節には、ぜひとも多くの人に知ってもらいたいレクリエーションツールだが、春のビッグイベントが中止となったため、一般の人がいろいろな車両を一括して見る機会がなくなってしまった。
そのため、ここでは今春唯一開催された「ジャパンキャンピングカーショー2020」における注目車両をあらためてピックアップしてみたい。
今回のショーは、これまでのショーとは多少趣(おもむき)が異なっていた。
これまでは、「国内最大級のビッグイベント」を謳うだけあって、各社の “イヤーモデル” ともいえる車両が並ぶだけでなく、話題性を先行させるため、モーターショー的にいえば、「コンセプトモデル」のような作品が展示されることもあった。
ところが、今年は “奇をてらった” 新車開発は影を潜め、パッと見は地味であった。
しかしながら、車両づくりのレベルは例年にないほど上がっていた。
つまり、本当の意味での使いやすさ、安全性、コストパフォーマンスなどを真摯に追求したユーザーファーストの車両開発が中心となっていたといってよい。
それを一言でいえば、「熟成」。
ようやく日本のキャンピングカーづくりが、地に足の付いた実質本位の企画を打ち出す時代が来たように感じる。
▼「ジャパンキャンピングカーショー2020」
一つのトレンドとして浮かび上がってきたのは、「気楽に買えて、気楽に乗れる車中泊車」。
すなわちミニバンキャンパーやバンコンを中心とした小型キャンピングカーだ。
この手の車両は、従来は本格的大型バンコンやキャブコンの入門編として位置づけられていたが、ここ数年のキャンピングカーユーザーの底辺の広がりを反映し、それ自体が独立した新ジャンルを形成しつつある。
こういうミニバンコンセプトのキャンピングカーは、女性にも運転しやすいとあって、買い物や育児に忙しいヤングミセスに人気があり、コストパフォーマンスの良さから若いファミリー層の注目を集めている。
もちろんリタイヤ後の “くるま旅” を楽しむシニアカップからも支持されており、令和のトレンドとして急成長しつつある。
今回のショーで、この手のミニバン系キャンピングカーの注目株の一つが、トイファクトリーがリリースした「グランエース」のポップアップルーフ車だった。
▼ トイファクトリーのグランエースポップアップ仕様
グランエースは、ノーマル車でもその価格が600万円超えなので、それに架装するとなると、オプション次第によっては、1,000万円に迫るキャンピングカーになりかねない。
そうなると、わざわざこの車両をベースにしたキャンピングカーまで欲しいと思う顧客はそうとう限定されてしまうだろう。
それでも、この車がキャンピングカーベース車として提案された意義は大きい。
過去にグランドハイエースという空前絶後の人気ベース車が一世を風靡したことがあったが、このような高級ミニバンタイプのベース車は、グランドハイエースの供給が途絶えた後姿を消していたからだ。
▼ グランドハイエースのキャンピングカー
ファーストカスタム製作「グランドロイヤル」(2003年モデル)
今回のグランエースは、すでに “レジェンド” になった昔のグランドハイエースの面影を復活させるものとして、東京モーターショー(2019年秋)で展示されて以来、ビルダーからも、ユーザーからも注目を集めていた車両である。
ただ、ベース車として考えると、過去のグランドハイエースと今回のグランエースは成り立ちが異なる。
グランドハイエースがキャンパーベース車として脚光を浴びたのは、ノーマル車として売り出されたグランドハイエースの救急車用車両として、ホイールベースを延長した特装車が登場したからだ。
それがキャンピングカーとして架装する場合の居住性を保証することとなった。
▼ ノーマル「グランエース」(トヨタ車体) のボディフォルム
▼ グランエースのインパネ
それに比べ、今回のグランエースはノーマル仕様のままでは本格的な架装を施すほどの居住性が取れない。
したがって、現行のままでは、キャンピングカーとしての本格的な装備を積むような仕上がりは期待できない。
また、そうとう使い勝手のいい高級シートがノーマル車には奢られているため、架装するとき、それを捨ててしまうのはあまりにももったいない。
▼ ノーマル「グランエース」(トヨタ車体)のシート
では、今回のトイファクトリーが取り組んだグランエースのキャンパーモデルは、いったいどういう意図のもとに開発されたのだろうか。
同社の藤井昭文社長に、その経緯を聞いてみた。
「ずばり、これは “キャンピングカー” というより、トヨタさんが提案している高級送迎車の延長線上にある車両として位置づけています」
と、藤井社長は語る。
▼ トイファクトリー 藤井昭文社長
もともとこのグランエースというミニバンは、個人の顧客よりは法人需要を意識して開発された車である。
つまり、接客部門を持つ企業がVIPを乗せ、空港からホテル、あるいはホテルからゴルフ場などへと送迎用に使う高級ワゴンとして開発されたものだ。
諸外国では、すでにこの手の市場が確立されており、欧米ではベンツのVクラス。タイやフィリピンでは、ヒュンダイのH1などが人気を博している。
そのような市場が日本ではまだ未成熟だったがゆえに、トヨタが目を付けたということになる。
▼ トイファクトリー「グランエースポップアップ仕様」リヤビュー
トイファクトリーでも、今のところ、このノーマル車の基本コンセプトを変えるつもりはないという。
ただ、ノーマル車にポップアップルーフを架装することによって、
「送迎車としての幅を広げ、ルーフベッドで仮眠も取れるようにして、お客様の移動距離を伸ばしたり、災害時などにも備えられるようにした」
という。
もちろん、今の形がキャンパーとしての “最終形” ではない。
あくまでも、ひとつの「提案」。
この仕様を見た多くの見学者やトヨタ自動車の意見も聞き、この車のさらなる可能性を引き上げていきたい、と藤井社長は語る。
そのため、現段階では、まだブランド名も考えられていない。
トイファクトリーとしては、キャンピングカーとして考えている車両はあくまでも200系のハイエースであり、200系がこれからも存続していくかぎり、グランエースは、主流キャンピングカーとは異なる路線を意識した「試作車」という位置づけになるという。
藤井社長へのインタビューは、このあと「未来のキャンピングカー」という方向に進んだ。
「キャンピングカーもこれからはそうとう変わっていくだろう」
と藤井氏は予測する。
「今後キャンピングカーというカテゴリーそのものがなくなっていくかもしれない」とか。
つまり、「キャンプ」とか「車中泊」という使用目的から解放された、まったく未知の車に生まれ変わっていく可能性もあるという。
キャンピングカーのベースとなる自動車自体がすでに “100年に一度” という変革期を迎えている。
自動運転を可能にする乗用車のテストもすでに最終段階を迎え、“空飛ぶ自動車” まで企画される時代になった。
さらには、リチウムイオン電気を超えるさらなる高性能バッテリーの研究も進んでいる。
そういう時代に備え、同社では、すでに次世代のキャンピングカー開発を水面下で進めているという。
なお、トイファクトリーのグランエースキャンパーの価格が発表されるのは、5月ぐらいになる予定である。
次回のブログでは、このシリーズの続編を掲載する予定。