10月24日(木)から始まっている「東京モーターショー」で、キャンピングカーに興味を持っている人たちの関心を集めているのが、トヨタコーナーで発表された「グランエース」(開発 トヨタ車体)だ。
全長5,300mm。
全幅1,970mm。
現在バンコンの主流を占める200系ハイエース・スーパーロングと同等の全長を誇り、全幅に関してはスーパーロングよりも広い。
エンジンもトルクを重視するディーゼルエンジン(2.8リットル)。
足回りも、バンベースのハイエースとは違い、リヤサスペンションは新開発のトレーリングリンク車軸式を採用して、乗用車としての乗り心地を確保している。
さらにいえば、前突を想定したときに心強い “鼻つき” 。
どことなく、昔キャンピングカーベース車として一世を風靡した「グランドハイエース」の面影すら漂う。
そういった意味で、この「グランエース」は、キャンピングカーベース車としてのこの上ないポテンシャルを確保した新型車ともいえるのだ。
しかし、現状では、この車がキャンピングカーシャシーとしてそのまま活用される可能性はほとんどないだろう、と一部のキャンピングカー専門家はいう。
プレスデーに訪れていたあるキャンピングカージャーナリストは次のように語った。
「まず価格的にこのままでは無理でしょう。現段階(モーターショー開催中)では価格が公開されていませんが、トヨタのミニバンのなかでは、アルファード/ヴェルファイアを上回る高級ワゴンになるはず。
そうなると、価格的に500万円を超えることも考えられ、ひょっとすると600万円以上の可能性もあるかもしれない。
それをベースに架装するとなると、とんでもない高いキャンピングカーになってしまいます。
たぶん手を出すビルダーさんは、なかなかいないのではなかろうか」
ただ、このスタイルを維持したまま、サードシートのところだけを加工して、簡易的な家具を載せる方法もないわけではない、という。
M・Y・Sミスティックさんや、バンレボさんが開発するような高級ワゴンスタイルのミニバンキャンパーである。
ベース車の内装が豪華であるがゆえに、架装部分の家具がそれに見合った格調を維持できれば、「それはそれで面白いキャンピングカーになるかもしれない」 … と、プレスデーにグランエースを観察したキャンピングカーライターさんは語った。
ところで、そもそもこの「グランエース」。
いったいどういう目的で開発された車なのだろうか。
「高級送迎車」
… と、トヨタ車体の増井敬二社長は、多くの報道人を集めたプレスカンファレンスでそう語った。
つまり、VIPを乗せて、空港からホテル、あるいはホテルからゴルフ場などへ。
そういう送迎用に使われる高級ワゴンの市場が、諸外国ではすでに確立されている。
そのような車として高い人気を誇るのが、欧米ではベンツのVクラス。
タイやフィリピンでは、ヒュンダイのH1など。
が、残念なことに日本車はまだその市場に参入していない。
しかし、これからは日本国内でも、そういう市場が急激に伸びるのではないか、とトヨタはにらんだ。
具体的には、来年のオリンピック。
また、セレブの外国人観光客に焦点を合わせたカジノ構想も動き出している。
「もちろん、個人のお客様も想定していますが、それ以上に、ホテルのようなサービス業の方々の送迎車としてのマーケットを掘り起こしたい」
とトヨタ車体のスタッフは語る。
では、送迎車としてのグランエースの特徴は何か?
「ひとつはゆったりした移動を楽しんでもらえるシートです」
と、スタッフ。
今回登場したグランエースの2列シートおよび3列シートには、電動オットマン付きの本革のキャプテンシートが奢られている。
基本的には、職業運転手がハンドルを握り、VIPのお客を快適にもてなすための車なのだ。
そのため、乗り心地や走行安定性には細心の注意が払われている。
サスペンションは、フロントにマクファーソンストラット。
リヤはトレーリングリンク車軸式。
静粛性を追求するために、遮音材・吸音材もふんだんに使われ、車であることを忘れさせるような快適空間が実現しているという。
「そのため、正直にいうと、車両重量も増えています」
と、トヨタ車体のスタッフは語る。
そうなると、当然トルク特性が大事になってくる。
そのため、エンジンはディーゼル1本。
排気量は2.8リットル = 1GD型 2,754cc 130kW(177PS)/3400rpm
トルクは450N・m(45.9kgf・m)/1600~2400rpm。
すでにプラドにも使われているエンジンだ。
なお、今回のモーターショーには出展されていなかったが、6人乗り仕様のほかに、8人乗り仕様も用意されているという。
ともに全長・全幅は変わらず。
8人乗りの場合は、後席のシートピッチを少しずつ狭くして、多人数の乗車に対応するという。
その場合の4列目シートは跳ね上げ。
跳ね上げた場合は、そこにラゲージスペースが生まれる。
さて、ここで最初の本題にもどる。
はたして、この車をベースにしたキャンピングカーは生まれてくるのだろうか。
現在、キャンピングカーのなかで、バンコンといわれるジャンルの最大ボリュームを誇る車は200系ハイエースのスーパーロングバンだ。
グランエースは、サイズ的にはこのスーパーロングと同等になる。
▼ 200系ハイエース・スーパーロング
スーパーロングの全長は5,380mm。
それに対して、グランエースは5,300mm。
全長はグランエースの方が若干足りないが、それでもアルファードの4,945mmやヴェルファイアの4,935mmをはるかにしのいでいる。
逆に、全幅は、スーパーロングの1,880mmに対し、グランエースは1,970mm。
もう “ほぼ2m” といっていい。
この横幅では、ミニバンとしては走りづらいかもしれないが、キャンピングカーとしての居住性を考えると有利だ。
ただ、室内長を考えると、グランエースはスーパーロングよりも不利である。
グランエースの室内長は3,290mm。
それに対し、スーパーロングバンのワゴン版であるグランドキャビンの室内長は3,525mm。
グランエースは、衝突規制強化対応の “鼻付き” であるため、やはりスーパーロングよりも室内容積が足りない。
また、全高も、スーパーロングの2,285mmに対し、グランエースは1,990mm。
そのため、室内高も1,290mmしか取れず、キャンパーとしてのヘッドクリアランスも乏しくなる。
ただ、最小回転半径は、グランエースの方が有利だ。
スーパーロングバンの最小回転半径は6.3m(2700ガソリン 6AT)。
それに対し、グランエースは5.6m。
最小回転半径は、よくホイールベースの長さに左右されるというが、ホイールベースそのものは、さほど変わらない。
スーパーロングの3,110mmに対し、グランエースは3,210mmで、むしろグランエースの方が長いくらいだ。
それなのに、グランエースの方がよく切れるのは、フロントの舵角を45度に設定しているからだという。
▼ 200系ハイエース・スーパーロング
以上のように両車を比較すると、それぞれ一長一短があるものの、キャンパーシャシーとしては、現状では200系ハイエース・スーパーロングの方が、居住性、価格、架装効率すべての面でまさっているとしかいいようがない。
特に、ベース車がそうとう高くなりそうだというところが、大きなハードルとなることは明らか。
豪華なキャプテンシートをはじめ、ここまで作り込まれた高級ワゴンの室内装備をすべて捨てさって、そこにベッドやダイネットというキャンピング装備を組み込むということは、どう考えても現実的ではない。
ただ、シートなどを最初からレスして価格を抑えた “どんがら” ボディがデリバリされるようになれば、話は別である。
かつて一世を風靡したグランドハイエースなどは、「キャンパー特装」という形で、キャンピングカービルダーにドンガラボディが供給されるようになり、それによって一大ブームが巻き起こった。
▼ グランドハイエースベースのバンコン
グランエースにその可能性はあるのだろうか?
まったくない … という気配でもなさそうである。
というのは、トヨタ車体のスタッフがいうところによると、
「すでにリヤシートをレスした “特装車” のようなものは出ないのだろうか?」
という質問が、主にキャンピングカービルダーからかなり寄せられているという。
もちろん、現状では、
「その予定は今のところはない」
と答えざるを得ないとのこと。
しかし、
「そういうニーズがどのくらいのボリュームになるのか。それによっては、架装に対して負担にならないような仕様の価格設定も検討せざるを得なくなるかもしれない」
とも。
「ただ、今は、“送迎に最適な高級ワゴン” というブランドイメージを確立することの方が急務」
という。
このへんは非常にセンシティブな話になるので、しばらくの間は、前向きな答が出てくることはなさそうだ。
ただ、少なくとも、開発スタッフの意識のなかには、“キャンピングカーベース車” としての「グランエース」というイメージがまったくないわけでもなさそうだった。
ま、これは “気配” の話なので、確たるものは、今は何もなし。
しばらくは「楽しみに待つ」という気持ちでいようと思う。