ここ1ヶ月ほど、日本のメディア(特にテレビ)は、ほとんど連日 “戦後最悪” といわれる日韓関係の報道に徹している。
現在その話題の中心は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の最側近で、文(ムン)氏の後継者として次期大統領の候補と目されている曺国(チョ・グク)氏の不正疑惑について集中している。
識者のなかには、
「安倍首相に対する “モリカケ騒動” などをあっさりパスした日本のマスコミが、隣国大統領側近の不正問題などを過熱報道するのはおかしい」
という人もいる。
確かにそうだが、現在隣国で展開しているこの文在寅(ムン・ジェイン/曺国(チョ・グク)騒動の方がはるかに面白いのも事実だ。
すでに多くの人が指摘するように、これは “生きた韓流ドラマ” であるかもしれない。
しかし、この文在寅(ムン・ジェイン)大統領をめぐる一連の騒動は、韓国内の革新勢力と保守勢力の政権闘争を超えた新しい問題を提起している。
すなわち、これは半島国家の韓国が、三方を海に囲まれた “海洋国家” から、大陸の中心部をめざす大陸国家へ移行しようとするきっかけをつかもうとしている騒動なのだ。
文在寅氏の頭にあるのは、北朝鮮と一体となった “ワンコリア” 構想である。
韓国と北朝鮮が統一されれば、韓国にとって、北朝鮮は大陸への大きな橋頭保となる。
北朝鮮にも海はあるが、その領土的特徴は、半島というよりも、むしろ中国やロシアの国境に食い込む大陸国家としての性質を持っている。
そうなると、統一朝鮮は、国境を接する中国やロシアの旧共産主義陣営と友好的な関係を構築していかなければならなくなる。
「それでいい」
と文大統領は舵を切った。
「反日」「GSOMIA(ジーソミア)の破棄」といったカードを日本に突き付けた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、これまでの “アメリカの飼い犬” という役割を捨て、領土的にも近い中国やロシアとの協調関係を重視するという方針を掲げたのだ。
日・米・韓という自由主義陣営の安保体制を基本に考えてきた日米政府からみると、文(ムン)大統領の方針は、現実を直視することのない無謀な決断に映る。
しかし、もしかしたら、文(ムン)氏というのは、「理想」ばかり追う夢想家ではなく、実はその逆の、案外したたかなリアリストかもしれない。
彼は、
「日・米・韓といった軍事同盟は20世紀の遺物にすぎない」
と、早い時期から見切りを付けていたように思う。
彼は、学生運動のときに身に付けた「社会主義的正義感」を振りかざすだけの原理主義者ではなく、むしろ、中国のプレゼンスが増大していく新しい東アジアの秩序に対応しようとする現実主義者かもしれないのだ。
では、文(ムン)大統領の頭のなかには、どういう韓国の未来像があるのだろうか。
「朝鮮半島に “核” を持った新国家を誕生させる」
というビジョンである。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、アメリカとどういう交渉を続けようが、けっきょく金正恩は「核」を手放さないと文在寅(ムン・ジェイン)は見抜いている。
むしろ、「核」をもった北朝鮮と一体化した方が、文在寅にとっても有利である。
核兵器を持つワンコリアが誕生すれば、同じ核保有国である中国やロシアと対等に接することができるし、アメリカに隷属するという戦後構造から抜け出すこともできる。
彼の頭のなかには、そういう計算があるように思える。
しかし、問題がひとつ。
北朝鮮が、はたして韓国との統一話に乗ってくるかどうか。
現状では無理である。
これに関しては、文(ムン)氏も、北朝鮮の金(キム)委員長が、韓国からの呼びかけに対して冷たい返事しか送ってこないという現実に直面している。
韓国との間に経済格差や文化格差を抱える北朝鮮の金(キム)委員長は、南北統一によって、北朝鮮人民の精神的崩壊を恐れているのだ。
だから、半島の統一が実現するとしたら、それは北朝鮮主導型の “赤化統一” しかあり得ないというのが日本やアメリカの識者のこれまでの見立てだった。
もちろん私もそう思っていた。
しかし、文在寅氏は、もしかしたら赤化統一ではなく、韓国主導型の半島統一を密かに画策しているかもしれない。
どういうことか。
もし、南北統一が実現されたら、韓国経済や韓国文化に触れた北朝鮮人民は、資本主義社会の豊かさに圧倒され、あっという間に耐乏生活に耐えてきた精神力を骨抜きにされるはずだ。
そうなると彼らは、それまで自分たちを抑圧していた金正恩(キム・ジョンウン)政権に反旗を翻すかもしれない。
場合によっては、北朝鮮軍によるクーデーターが勃発することも考えられる。
そのときは、韓国軍が北朝鮮軍の動きに呼応して、金正恩政権を倒す。
文在寅氏(ムン・ジェイン)という人は、そのくらいのことをやりかねないしたたかな政治家だ。
南北対談のときは、文在寅(ムン・ジェイン)氏は、金正恩(キム・ジョンウン)氏に親し気に握手を交わし、顔全面に好々爺といった笑みを浮かべていたが、その内心はどうであったか。
彼は案外、韓国主導による北朝鮮併合を計算していたかもしれない。
もちろん、そういうことが起こったときには、文在寅氏はすでに大統領職から退いている。
しかし、今回法相になった曺国(チョ・グク)が自分の跡を継ぎ、その次も “親北朝鮮” 的な革新政権が続いていけば、文氏の野望はやがて達成される。
曺国(チョ・グク)氏は、その文(ムン)氏の意志をより強固に推進していく政治家だといわれている。
文在寅(ムン・ジェイン)氏や曺国(チョ・グク)氏の掲げる反日思想は、ナチス政権の掲げた反ユダヤ思想に非常に酷似している。
ヒトラーは、ドイツ国民の団結力を高めるために、反ユダヤ主義を呼びかけることを思いついた。
そして、ドイツ人たちに、ユダヤ人商店への不買運動を呼びかけ、ユダヤ商人の店には “立ち入り禁止” の札を貼り、ユダヤ企業をつぶしてその資産を没収した。
「日本製品の不買運動」、「日本 “戦犯企業” 商品のレッテル貼り」など、現在の韓国文政権に同調する様々な組織による反日行動は、まさにナチス政権下のユダヤ弾圧そのものを踏襲しているように見える。
だが、ヒトラーの反ユダヤ主義が、やがて国際社会の裁きを受けたように、文(ムン)政権の反日主義も長くは続かないかもしれない。
これもすでにいろいろなメディアで報道されていることだが、文政権の極端な「反日プロパガンダ」の異様さに気づいた韓国の若者たちがたくさん生まれているという。
そういう新しい韓国の若者と、どういう連帯を持つべきか。
それがこれからの日本政府と日本のメディアに課せられたテーマである。
文政権の「反日」に対抗するために、日本人の間に「嫌韓」を煽ることこそ、もっとも愚かな行為である。