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トランプ大統領の精神分析


 「令和」という時代の最初の正月を迎えたばかりだというのに、波乱の時代の幕開けを予感させる事件が立て続けに起こっている。

 

 その一つが、米国トランプ大統領の指示によるイランのソレイマニ司令官の暗殺。

 

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 トランプ氏は、これを、
 「アメリカとイランが戦争へ向かう危険を取り除くための行為だった」
 と正当化しているが、こういう自分だけに都合のいいメッセージをまともに信じるのは、アメリカ国内にいる岩盤支持者たちだけだろう。

  

 明らかに、この発言は、その支持者たちに対するアピールを意識したものだが、トランプ氏の意図とは逆に、中東情勢が不穏な空気に包まれたことを反映して、世界の株価は暴落。
 アメリカ国内においても、トランプ氏の行動を「暴挙」と批判する声が高まっている。

 

 世の良識派の多くは、このようなトランプ氏の動向を不安な眼差しで見つめているが、彼のこういう政治姿勢を評価する日本のジャーナリストもいる。
 政治評論のコメンテーターとして活躍している木村太郎氏だ。

 

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 木村氏は、BS-TBSの『報道1930』(1月7日放映)に出演したとき、次のように語っている。

 

 「トランプ大統領が誕生して以来、世界は安定的に繁栄している。アメリカの経済も絶好調を迎え、その恩恵を日本も受けている。
 安全保障の面から見ても、日本は北朝鮮の核開発やミサイル攻撃の脅威から免れている。
 トランプ政権が世界を不安定にしているという見方は、とんでもない過ちだ」

 

 こういう木村太郎氏の意見は、一面正しい。
 しかし、木村氏はあえて意識してか、トランプ大統領の不安定要素には目をつぶっている。

 

 トランプ氏が政治家として抱えている一番の「不安定要素」とは何か?

 

 それは、彼の “無教養” である。

 

 本も新聞も読むことなく、側近からの近況報告にも耳を傾けず、テレビニュースだけを見て世界情勢を判断しているトランプ氏に、一般人としての教養が備わるはずがない。

 

 彼は、どんな国の歴史にも興味がなく、どんな国の文化にも関心がなく、各国の首脳たちと、ひたすら経済的利益のみ議題にする交渉事だけに専念している。

 

 そのことを、「ビジネスマンとしての才能がある」と評価する声もあるが、はっきりいえば、「ビジネスマン」と「政治家」は別の生き物だ。

 

 さらにいえば、「ビジネスマン」としての能力も2流以下である。
 彼は、イラン軍司令官を殺害することで、イランから受ける報復の被害額や、その報復を抑え込むための軍事費の流出を、まったくコストに入れていない。

 

 つまり、トランプ氏には、ビジネスマンにも政治家にも要求される長期的展望というものが一切ないのだ。
 
 
 なぜ、そういう人間がアメリカという大国のリーダーになれたのか?

 

 アメリカという国の「国力」が大崩壊を始めているからだ。
 
 「国力」とは何か?

 

 そこには、経済力も軍事力も含まれるだろう。
 目下のところ、アメリカはその二つにおいて、相変わらず、ダントツで世界をリードしている。

 

 しかし、「国力」として三つ目に挙げられる「知性の力」は、もう目を覆うばかりに地盤沈下を始めている。

 

 トランプ氏が大統領になるために掲げた政策を振り返ってみよう。
 「アメリカン・ファースト」
 「移民(難民)排斥」
 
 この二つのスローガンに興奮したプアホワイトの人々が大統領選では熱狂的にトランプ氏を支持し、それが今も岩盤支持者として彼の政権を支えているわけだが、よく考えてみると、
 「アメリカン・ファースト」とは、「世界のなかでは俺さまだけが偉い」という意味であり、「移民排斥」というのは、「ワケの分からない人種は出ていけ」という異民族・異文化への不安を表明したものだ。
  
 この二つは、「他者を排除」するという “思想” として一つに交わる。
  
 正月1日に放映されたTBSの『サンデーモーニング “幸せ” になれない時代』(新春スペシャル 分断と格差が深まる世界)という番組では、社会心理学者の加藤諦三氏に、
 「他者を排斥したいというのは、人々の幼児化が進んだことを意味する」
 と語らせている。

 

 「幼児化」というのは、大人の思考に耐えられないことをいう。
 つまり、「人間は困難な状況に接すると、無意識のうちに自我を防衛しようとして、退行現象を引き起こす」(フロイド)というのだ。

 

 今の世界は、一人の人間が自分の思考で全体を把握することができないほど複雑怪奇になっている。
 しかも、その複雑化する速度が年々早まっている。

 

 こうした状況に置かれると、人々は、身に降りかかる不安を払しょくするために思考を幼児化させ、単純な言葉を使って世界を分かりやすく説明する政治家の言葉だけを信じようとする。 
 
 それがポピュリズムの始まりで、その代表者として登場したのが、トランプ氏だ。
  
 彼は、幼児化していく支持者たちの知的コンプレックスを一掃した。

 

 大統領選を通じて、アメリカの新聞メディアはこぞって、トランプ批判にまわった。
 しかし、彼はそれを逆手に取り、「新聞が伝えるニュースはフェイクニュース(ニセ情報)だ」と言って、支持者たちから新聞を遠ざけ、代わりに自分の「ツィッター」を使って、言いたいメッセージだけを立て続けに流し続けた。

 

 彼の使う言葉は小学生レベルで、しかもセンテンスが短く、内容は扇動的だった。
 これが、さらに、支持者たちの知的コンプレックスを解消する働きを持った。

  
 こうしてみると、トランプ氏は、実にたぐいまれなる政治戦略をもっていた政治家だったのか?  と思い込む人も出てくるかもしれない。 
 
 しかし、専門家の分析によると、彼は政治戦略などほとんど持ったことがなく、ただひたすら「自分をカッコよく見せる」ことだけに神経をつかって生きてきた人だという。

 

 東洋経済ON LINE でトランプ氏を分析した岡本純子氏は、かつてこんなことをWEB上で発表していた。

 

 「トランプ氏という人は、とにかく自分が大好きな人である。彼はことあるごとに、歴代大統領のなかで、もっとも雇用を生み出したのは自分。アメリカをもっとも偉大な国にしたのも自分。いったんは地盤沈下したアメリカ経済をかつてないほど繁栄させたのも自分 というように、人々が賛美してくれることだけを期待して行動する人である」

 

 そういう傾向を持つ人を一般的に「ナルシスト」と呼ぶが、トランプ氏の場合は、その傾向が強すぎて、病的な領域に入り込んでいるとも。

 

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 アメリカの精神医学会のデータによると、精神疾患のなかには、「自己愛性パーソナリティ障害」と呼ばれるものがあるらしい。
 トランプ氏というのは、そういう診断を下されかねない人だという。

 

 この病理を抱えている人は、

  とにかく、自分の実績や人格を誇張して喧伝する傾向がある。
  限りない成功や権力欲にとりつかれる。
  人々からの過剰な称賛を求める。
  対人関係では、相手を常に利用することしか考えない。
 ⑤ 他者に対する共感をはなはだしく欠く。
  しばしば他人に嫉妬する。
  他者に対して、自分が傲慢であることを自覚しない。
  自分が批判されたときの耐性が低い(すぐ逆ギレする)

 …… いくつか省略したが、おおむね上記のような性格が目立つのだそうだ。

 

 上記の項目を見ただけでも、すべてトランプ氏に当てはまりそうな気がする。

 

 こういう精神構造を抱えたアメリカ大統領に接するとき、他国の元首はどう振舞えばいいのだろうか。
 
 まず、「教養」や「知性」をひけらかしてはだめだ。
 そういうものに欠けているトランプ氏を逆ギレさせる可能性がある。
  
 ドイツのメルケル首相やフランスのマクロン大統領は、その点でトランプ氏とそりが合わない。
 
 今のところ、もっとも相性がいいのは、日本の安倍晋三首相である。

 

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 安倍氏も、あまり本など読んでいないようだし、新聞も手に取ることがなさそうだ。
 そういった意味で、安倍さんは、現在のところ「教養」と「知性」に欠けるトランプ氏を不快にさせる要素がほとんどない。
 
 不安定要素ばかりが目立つトランプ大統領だが、日本の外交だけは、無教養な安倍さんのおかげで、多少安定しているのかもしれない。