アートと文藝のCafe

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自分にとって最高のドライブ音楽は「ジェシカ」

オールマン・ブラザーズ・バンド

ジェシカ」

 

※ 2020年の1月にUPしたものを多少改稿して再録

 

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 オールマン・ブラザーズ・バンド(写真上)の音を最初に聞いたのは、ラジオのFM放送だったが、あるいはFENだったか。
 放送局も番組名も忘れてしまったが、曲名だけははっきりしている。
 『ジェシカ』だ。

 

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 1973年に発表された『ブラザーズ&シスターズ』(写真上)のなかに収録された曲だが、私がそれを聞いたのは、1970年代の後半だった。

 
 当時、私が好んで聞いていたのは、ビートルズ、クリーム、ブラインド・フェイスレッド・ツェッペリンというブリティッシュ系ロックだった。

 

 その後アメリカの音楽にも興味が出てきたが、主に聞くようになったのは、BLUES、R&B、SOUL MUSICという黒人音楽ばかりで、アメリカの白人ロックにはまったく関心がなかった。

 

 そういう自分の好みを変えたのが、オールマン・ブラザーズ・バンドの「ジェシカ」だったのだ。 

 

 「あ、心地いい!」

 

 一回聞いただけで、思わずのけ反った。

 

オールマン・ブラザーズ・バンドジェシカ』

 

 こういう躍動感を持った曲をそれまで聞いたことがなかった。
 自分がずっと身体(からだ)の中に蓄え込んできたのは、「ブルースの波動」であり、本家の黒人ブルースをもとより、白人系ロックでもクリームやツェッペリンのようなブルースのコード進行やリズム感を維持した曲しか受け入れなかった。

  

 「ジェシカ」という曲は、そういうブルース好きの私の好みをあっさりとくつがえした。

 

 なぜ、そういうことが起こったのか。
 この曲を聞いたとき、自分は自動車を所有するようになっていたのである。
 買ったのはトヨタスターレットKP47だった (▼ 写真はレース仕様)

 

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 つまり、この車を買ったことで、自動車の走行感覚にフィットする音楽というものを意識するようになったのだ。
  
 自動車を手にしたことは、新しい音楽への扉を開いた。

 

 その代表的な例が、ディープパープルの「ハイウェイスター」で、ラジオなどでこの曲が流れると、それまではプチンとスイッチを切っていたが、カーラジオで聞く限り、これが妙に車の走行感とマッチすることを知った。
 
 ドゥビー・ブラザーズの「ロングトレイン・ラニング」なども好みの曲になった。
 あれは “トレイン(列車)” をテーマにした曲ではあるのだが、やはり軽快なギターカッティングによる “疾走感” の表現が素晴らしいと思った。

 

 一方、テクノポップ系でも、“疾走感” を追求した音楽というものがあった。
 ドイツのクラフトワークである。
 彼らには「アウトバーン」(写真下)という曲があって、これはドイツのアウトバーンの走行感覚を無機的な電子音でなぞった音楽として一世を風靡した。 

 

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 このように、自動車に乗るようになって、世の中には、モビリティーをテーマにした音楽というものがたくさんあることに気づいた。

 

 それらは、室内の固定した環境で聞いているかぎり何の感興もわかないことが多いが、「リスナーの肉体が車で水平移動するとき」に聞くと、がぜんそれまでとはうって変わって刺激的な音に生まれ変わる。

 

 しかし、オールマン・ブラザーズ・バンドの「ジェシカ」は、もう机の前に座って聞いただけで、自分が運転しているときの情景が浮かんだ。

 

 そのとき脳裏に浮かんだのは、アメリカ中西部あたりに広がる乾いた荒野だった。
 そして、そこを貫いて地平線まで伸びている一本道。
 「この曲を聞きながら、そんなところを走ってみたい !」
 そういう衝動を強く喚起する音だった。

 

 ちょうどその頃、テレビCMなどでは、片岡義男がナレーションをつとめる「ロンサムカーボーイ」(パイオニアカーステレオ)などのCMが流行っていた。

 

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 そういうシチュエーションに憧れ、アメリカを走りたい欲望が募っていく。


 実際に、ラスベガスでレンタルモーターホームを借りてアメリカの中西部を走ってみたが、それは2007年になってからである。(このモーターホームにはCDプレイヤーが付いていたが、『ジェシカ』のアルバムを持ってこなかったことをそのとき後悔した)

 

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 アルバム『ブラザーズ&シスターズ』に収録されている「ジェシカ」の演奏時間は7分28秒である。
 
 アコースティックギターのカッティングに始まり、それにディッキー・ベッツ(写真下)の奏でる主旋律が重なっていく。

 

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 ディッキー・ベッツのギターは、どことなくカントリーミュージックのフレイバーが効いていて、いい意味で軽い。


 苦悩も内面的な深みもないかわりに、陽光のきらめきを感じさせるような、あっけらかんとした明るさがあって心地よい。
 これを聞いた後は、そういう「アメリカ白人の楽天主義もいいものだ」と思うようになった。

  
 「ジェシカ」では、このディッキー・ベッツのギターを引き立てるように、2台のドラムスとベースのリズム隊が、レシプロエンジンのピストン運動を想像させるような軽快なリズムを刻み続ける。

 

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 聞きどころは 2分30秒を過ぎたあたりから始まるチャック・リーヴェルのピアノソロ。
 多少、えげつない表現を使えば、この個所から、ベッドの上で上下動する男女が、来たるべくエクスタシーを予感し、リズム隊と呼吸を合わせて、絶頂を迎えようと準備を始めた気配が伝わってくる。
 
 ピアノの音が、海面を跳ねるイルカのように踊り始めると、それに呼吸を合わせて、リズム隊が追う。

 

 いよいよそのときが迫る。


 チャック・リーヴェルのピアノソロからバトンを受けて、ディッキー・ベッツのギターソロが始まる瞬間が、そのときだ。
 リスナーの頭の中で “何か” が弾ける。

 

 そのとき、リスナーが口にするのは、
 「来た ! 来た !(Come  Come!)」という言葉。
 車などを運転していると、もう本当にヤバイ。

 スピードがあがっていくことに対して、ドライバーの神経が麻痺してしまうのだ。

 

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 この「ジェシカ」は、リスナーに何を伝えようとしているのだろうか。

 

 本当によくできたドライブミュージックには「性交の快感」があるということを教えようとしているのだ。
 つまり、(多少上品な表現に変えれば)モビリティの本質が “エクスタシー” にあることを伝えようとしている。


 『ジェシカ』については、別のWEBサイトでより詳しく書いた。
 興味をお持ちの方は、そちらも開いてみてほしい。


 (↓)

 佐藤旅宇氏が主催するウエブマガジン「GoGo GaGa