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ザ・ローリング・ストーンズのブルースまでの長い旅

ザ・ローリング・ストーンズ展 5月6日まで開催

 

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 5月6日まで、東京の「TOC五反田メッセ」で、「ザ・ローリング・ストーンズ展」が開かれている。
 
 それを記念して、4月19日(金)には、彼らの最新CD『HONK』も発売された。
 
 この『HONK』は、これまでの彼らのヒット曲の大半が網羅された36曲入りのベスト盤で、ストーンズの半世紀を振り返るには最適なアルバムかもしれない。

 

 だた、私がここで取り上げたいのは、その『HONK』ではなく、2016年にリリースされた彼らのブルースアルバム『ブルー&ロンサム』である。

 

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 『HONK』のなかにも、このアルバム収録曲の一部が取り上げられているが、やはりブルースに関してはアルバムを通して聞いて、多くの人がその “コク” をたっぷり味わってほしいと思っている。 

 


彼らはようやくブルースを手に入れた !
 
 で、
 「ようやく !」
 …… と、私は言いたいのだ、このアルバムに関しては。

 「ようやくブルースにたどり着いたな」
 というのが、聞いたときの正直な第一印象だ。

 

THE ROLLING STONES - Everybody Knows About My Good Thing (Blue and Lonesome)

youtu.be

 
▼ デビューアルバムのジャケット

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 ザ・ローリングストーンズに関しては、私はデビューアルバムから買っていた。
 1964年にリリースされたファーストアルバムに収録された曲は、

 

  I Just Want to Make Love to You  (Willie Dixon)
  Honest I Do  (Jimmy Reed)
  Mona (Bo Diddley)
  I’m a King Bee  (James Moore)

 

 など、ブルースのオンパレード。
 さらに、

  Carol (Chuck Berry
  Can I Get a Witness  (Brian Holland/Lamont Dozier 他)
  Walking The Dog (Rufus Thomas)

 といったロックンロールやR&Bで埋め尽くされていた。


 いわば、大半が黒人音楽のカバー集といえるようなアルバムだったのに、当時の私は、ザ・ローリング・ストーンズの演奏からはまったく “黒っぽさ” を感じなかった。

 

 ずっと後になってもこの思いは変わらず、ストーンズサウンドのルーツを解説するときに、必ず音楽評論家たちがいう、
 「彼らの原点は黒人ブルースにある」
 という話を、ほとんど信用しなかった。

 

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▲ 若い頃のストーンズ

 

 
ブルースに失敗したからこそストーンズサウンドがある

 

 これに関して、チェスレコードの創始者であるレーナード・チェスの息子マーシャル・チェス(↓)は、BSの音楽番組で、面白いことを言った。

 

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 それは、次のような言葉だ。
 「ストーンズは、黒人ブルースをやろうとしたが、それができなかった。だから、結果的に “ストーンズサウンド” を確立させることができた」

 

 ストーンズのメンバーは、1964年にブルースの聖地であるシカゴに渡った。

 
 このとき、当時の彼らにとってはアイドル的な存在であったマディー・ウォーターズやチャック・ベリーが在席していたシカゴのチェスレコードに寄り、そこでレコーディングを体験している。

 

 当時の顛末をレーナード・チェスの息子であるマーシャル・チェスが観察している。


 後に、マーシャル・チェスは、ストーンズとずっと行動をともにすることになるが、彼らをからかうときに必ずいう言葉があるそうだ。

 

 それが、
 「あんたたちは、チェスレコードがつくり出すような黒人のサウンドを追求しようとしていたが、ついに成功しなかったね (笑)、だから逆に今のあんたたちがあるのさ」
 というセリフ。
 
 これは言い得て妙だと思った。

 

 
ミック・ジャガーの声質はブルース向きではない

 

 もし、彼らがもっと器用で、黒人ブルースやR&Bの真似が上手だったら、案外1970年代ぐらいに消えていたかもしれない。
 
 白人なのに黒人音楽が好きなグループだったら、60年代から70年代にかけて、イギリスにはいっぱいいたからだ。

 

 しかし、ストーンズは、黒人音楽への情熱とリスペクトは溢れるほど持っていたにもかかわらず、黒人のサウンドを真似することが不得手だった。

 

 特に、ミック・ジャガーのボーカルは、声の調子をどう調節しようとも、黒人の声質に近づくことができず、「ミック・ジャガー」という人間のボーカル以外の音を出せなかった。

 

 「だからこそ成功した」
 というのは、マーシャル・チェスの言う通りである。
 
 “下手くそ” (?)な、ブルースコピーバンドとして誕生したザ・ローリング・ストーンズの54年目のブルースアルバムが、この『ブルー&ロンサム』。

 

 実は、ストーンズのオリジナル曲が1曲もないブルースのフルコピーアルバムというのは、これが初めてであるという。

 

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 「もともと、今回はブルースアルバムなど作る気はなかったんだ」
 と、ギタリストのキース・リチャーズ(↑)はいう。

 


やっぱり彼らはブルースをリスペクトしている!

 

 オリジナルのニューアルバムをつくる “準備体操” として、みんなが練習しなくても演奏できるブルースで “肩慣らし” をするという意図しかなかったとか。

 

 そうしたら、みんなブルースに熱中してしまい、次から次へとブルース曲を演奏し続けることになった。

 

 「そうやってレコーディングしたものを聞いてみたら、これアルバムになるじゃないか !」
 という話になった、とキース・リチャーズは語る。
 
 今回のアルバムを聞いた私も、「ようやくストーンズがブルースを手に入れたな」と思った。 

 
 彼らの体内を駆け巡っていた黒人ブルースの血流が、息遣いとして吐き出されるのに、53年かかったのだ。

 

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 (写真 左から)
 チャーリー・ワッツ 77歳
 キース・リチャーズ 75歳
 ミック・ジャガー 75歳
 ロン・ウッド 71歳

 

 たいしたジジイたちだ。
 
 私が、彼らのアルバムを初めて買ったのは17歳のとき。
 そのとき、ミック・ジャガーは23歳だった。

 
 私もまた、彼らと53年付き合ったことになる。
 
 

 
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