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短歌から学べる現代社会

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 「短歌の会」というのに入って、3ヶ月経つ。
 月に1回合評会が開かれる。
 2月はサボってしまったが、その間につくった一首が「秀歌」に選ばれて、住んでいる市の広報に載った。

 

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 「おぉ !」
 と思った。
 だって、わが人生でたった3首つくったうちの1首だからね。

 恥ずかしいが、ちょっとご披露。

 

 休日の 朝はのんびりお茶のむも
     空しさつのる 定年後の日々

 

 まぁ、65歳で定年退職して、それから3年。
 会社に行かず、自宅で仕事をするようになっただけで、仕事内容が変わったわけではないけれど、目覚まし時計によって起こされる朝からは解放された。

 

 そのため、「朝はのんびりお茶を飲む」というライフスタイルも実現するようになったわけだけど、それってどこか空しいよね。

 
 会社勤めが忙しいからこそ、“休日の朝” に価値があるわけで、毎日が日曜日じゃ、休日のありがたみっていうのもなくなる。

 

 だから、「休日の朝」って言ったって、「どうせ毎日が休日だろ?」という突っ込みを想定したジョークなんだけど、まぁ、それでもこの歌は、短歌の会の参加者の方々からはいちおうの合格点をいただいた。

 

 なにしろ、その前に提出した歌が、

 
 元カレのインスタ見つけて悪ふざけ
      十代の女に化けて “いいね” 押す


 というやつで、これはそうとう評判が悪かったからだ。

 
 この歌を提出した後、はじめての合評会に顔を出したら、
 「どんな怖い人が来るのか心配だった」
 と言われた。

 

 「ふざけすぎている」という意味なのか、
 「おちょくりもいい加減にしろ」という意味なのか。
 真面目に歌を作っていない、ととられたようだった。

 

 以来、多少は真面目に歌を作り始めている。
 一昨日2回目の合評会に顔を出した。

 

 今回は、お題が出されていて、そのテーマが「紙」。
 そこで提出させてもらった歌が、次の一首。


 一片の 紙で始まり また終わる
      結婚離婚 軽さは同じ


 これも合評会では、
 「結婚も離婚も、けっこう重いもんじゃないかしら?」
 という感想が出た。

 

 そうしたら、合評会を仕切っている短歌の先生が、
 「その重いはずの結婚と離婚が、婚姻届けや離婚届けというペーパーになってしまうと、意外に軽いもんだ という皮肉交じりの詠嘆になっているところが面白い」
 と助け船を出してくれた。

  
 「短歌会」に参加されている方は、だいたい12~13人ぐらい。
 年齢は、基本的に70歳代。
 男性3に女性7という割合だ。

 

 それぐらいの年齢の方って、仕事から解放されているから、家族の介護や子育て、両親への追憶といった “家庭内の視線” で社会を眺めることが多い。
 
 そうすると、意外や意外、仕事場で悪戦苦闘されている現役世代よりも、世の中を的確に観ていることがあるのだ。

 たとえば、こんな歌。

 

 また一人 乗り込んでくる昼間のバス
           乗客に老人多し

 

 こういう情景は、通勤バスなどに乗っている現役世代はあまり見ることがないだろう。
 昼間のバスに乗る機会の多いリタイヤ世代だからこそしっかり見ている景色だと思う。

  

 元号が変わる前にと急ぐのか
      喪中はがきの多くなりけり

 

 この歌にも、年を取った知り合いの多いシニア世代の実感が反映されている。
 これらの歌からは、ひたひたと押し寄せる高齢化社会の影が感じられる。

 

 リタイヤ世代の歌というのは、このように、年輪を重ねたからこそ見えてくる風景をしっかりとらえた正統派の短歌になる。

 

 私は、穂村弘さんなどが書かれるような現代短歌の方から入ってしまったから、正統派の方々の歌と歩調を合わせるのに、まだしばらく時間がかかりそうだ。

 

 穂村弘さんという歌人は、

 

    酔ってるの? あたしが誰かわかってる?
     ブー、フー、ウー(童話に出てくる3匹の子豚)

     のウーじゃないかな

 

  というような歌を作られる方だから、どうしても、どこか「読み手をはぐらかす」ような視点をもった歌になりがちだ。

 

 私はそういう歌が面白いと思うのだけれど、しかし、穂村さんだって、もとは地道に正統派の短歌を勉強された人なのだろう。

 
 私も地道に精進しなければならない、と思っている。

 

  
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