アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

冬キャンプ&ソロキャンプ

 

 キャンプ用品が売れているという。
 コロナウイルスの蔓延によって、人々の消費スタイルが変わったことを前回のブログで書いたが、キャンプ用品が売れているのも、コロナの影響らしい。

 

 つまり、ウイルスの感染率が高い都会の繁華街を避け、比較的他人との接触が少ないキャンプ場で遊ぼうという機運が高まってきたといえる。

 

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 子供たちは休校になっているのに、家や学校の許可がないと外に出られない。
 お父さんは在宅勤務が増え、昼間から家にいる。

 

 「では、気晴らしも兼ねて、家族でキャンプに行くか?」
  というのは、きわめて自然な選択のような気がする。

 

 この前、『スッキリ』という朝のワイドショー(日本テレビ)を見ていたら、冬のキャンプがブームになっているという特集をやっていた。

 

 私の若い頃は、冬にキャンプをする人は、そうとう偏屈な趣味の持ち主というイメージがあった。

 

 冬山登山のためのテント泊なら別だが、キャンプ場が最終目的地で、そこにテントを持ち込んで泊まるというのは、ただのモノ好きの遊びだろうと思っていた。

 

 そんな偏見をずっと持っていたが、最近は違うらしい。

 

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 冬の方が空気が爽やか。
 人が少ないので、のんびりできる。

 夏より星空がきれい。

 虫がいない。
 寒いからこそ、焚き火の楽しさが味わえる。

 

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 そう思う人たちが増えているらしく、冬のキャンプ場もそれなりににぎやかになってきたらしい。

 

 電源サイトを持つキャンプ場も増えてきているので、テントのなかで電気毛布なども使える。

 焚き火台もそうとう普及したし、アウトドア用薪ストーブなどの器具も充実してきた。
 私の若い頃とは違い、冬キャンプを楽しむ環境がかなり変わってきたことは確かだ。

 

 

 冬キャンプの盛り上がりのもう一つの要因は、ネットを通じて “キャンプの楽しさ” を伝える情報発信が強力になってきたことも挙げられる。

 

 芸人のヒロシがYOU TUBEを使って「ソロキャンプ」の魅力やノウハウを伝授する企画は今は大人気。

 

▼ 「ジャパンキャンピングカーショー2020」にも登場してキャンプトークを披露したヒロシ氏

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 「ソロキャンプ」という言葉はいまや完全にメッセージ性の強いキーワードになっていて、『スッキリ』という番組でも、冬のソロキャンプを楽しむ中年女性(WEBマガジンの編集長)のキャンプスタイルが大々的に採り上げられていた。

  

 

 このような流れを反映して、キャンピングカーにおいても、「ソロキャンプ」専用の車両が登場するようになった。
 その名もずばり「BASE CAMP SOLO(ベースキャンプ ソロ)。

 

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 リリースしたのは、愛知県岡崎市でキャンピングカー製作・販売を行っている「NONIDEL(ノニデル)」。

 

▼ 「ノニデル」の島川康一郎社長

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 この会社は、ハイエースの注文製作を得意とするビルダーとして知られているが、最近のソロキャンプブームを意識して、より軽快に走る乗用車ライクのキャンパーも手掛けるようになった。
  
 ベース車は走行性に優れ、かつリーズナブルな車両価格を実現する日産NV200。
 基本的には、若者の “一人旅” をテーマにした企画で、広いベッドスペースを維持しながら、サイドカウンターに設定されたキャンプ装備を使って車中泊の夜を楽しむことができる。

 

▼ ベースキャンプソロ 室内

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 ベッドサイズは全長1870mm。「ソロ」とは言いながらも、2名就寝が可能。
 電子レンジ、冷蔵庫、FFヒーター、液晶TVなども用意されているので、それらを買い足していけば、そうとう快適なキャンピングカーに仕上がる。

 

 この「ソロ」の仕様を少し変え、4人乗り乗車を実現しているのが、「BASE CAMP SOLO+(ベースキャンプソロプラス)。

 

▼ ベースキャンプソロ+(プラス)外装

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▼ ベースキャンプソロ+内装

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 こちらの車なら、4人で使えるレイアウトを狙った分だけベッドスペースも広くなっているので、小さな子供のいるファミリーでも使えるし、シニアカップルにも向いている。

 

 お値段は、車両本体価格で、ともに200万円台後半から300万円台。

 

株式会社NONIDEL(ノニデル)
愛知県岡崎市大平町字瓦屋前54-10
電話:0564-73-8833
https://nonidel.jp/
 

 

コロナウイルスとキャンピングカー(2)

 昨年(2019年)の暮れから報じられるようになった新型コロナウィルスの感染が止まらず、世界中が大混乱に陥っている。

 
 日本でも、多くのスポーツイベント・文化イベントがのきなみ中止となり、観客動員数の減少が「経済的損失」としてカウントされるようになってきた。

 

 キャンピングカー関連のイベントも同様で、前回言及したように、1月31日から2月2日まで幕張メッセ(千葉)で開かれた「ジャパンキャンピングカーショー2020」を最後に、大阪や名古屋のビッグイベントは中止された。

 

▼「ジャパンキャンピングカーショー2020」

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 キャンピングカーは、「動く家」として、外部と遮断された状態で旅行できる道具なので、コロナウイルスに感染するリスクを避けながら野外生活を楽しむことができる。

 

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 そのため、こういう時節には、ぜひとも多くの人に知ってもらいたいレクリエーションツールだが、春のビッグイベントが中止となったため、一般の人がいろいろな車両を一括して見る機会がなくなってしまった。

 

 そのため、ここでは今春唯一開催された「ジャパンキャンピングカーショー2020」における注目車両をあらためてピックアップしてみたい。

 

 今回のショーは、これまでのショーとは多少趣(おもむき)が異なっていた。

 

 これまでは、「国内最大級のビッグイベント」を謳うだけあって、各社の “イヤーモデル” ともいえる車両が並ぶだけでなく、話題性を先行させるため、モーターショー的にいえば、「コンセプトモデル」のような作品が展示されることもあった。

 

 ところが、今年は “奇をてらった” 新車開発は影を潜め、パッと見は地味であった。
 しかしながら、車両づくりのレベルは例年にないほど上がっていた。
 
 つまり、本当の意味での使いやすさ、安全性、コストパフォーマンスなどを真摯に追求したユーザーファーストの車両開発が中心となっていたといってよい。
 
 それを一言でいえば、「熟成」。
 ようやく日本のキャンピングカーづくりが、地に足の付いた実質本位の企画を打ち出す時代が来たように感じる。

 

▼「ジャパンキャンピングカーショー2020」

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 一つのトレンドとして浮かび上がってきたのは、「気楽に買えて、気楽に乗れる車中泊車」。
 すなわちミニバンキャンパーやバンコンを中心とした小型キャンピングカーだ。

 

 この手の車両は、従来は本格的大型バンコンやキャブコンの入門編として位置づけられていたが、ここ数年のキャンピングカーユーザーの底辺の広がりを反映し、それ自体が独立した新ジャンルを形成しつつある。

 

 こういうミニバンコンセプトのキャンピングカーは、女性にも運転しやすいとあって、買い物や育児に忙しいヤングミセスに人気があり、コストパフォーマンスの良さから若いファミリー層の注目を集めている。
 もちろんリタイヤ後の “くるま旅” を楽しむシニアカップからも支持されており、令和のトレンドとして急成長しつつある。

 

 今回のショーで、この手のミニバン系キャンピングカーの注目株の一つが、トイファクトリーがリリースした「グランエース」のポップアップルーフ車だった。

 

▼ トイファクトリーのグランエースポップアップ仕様

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 グランエースは、ノーマル車でもその価格が600万円超えなので、それに架装するとなると、オプション次第によっては、1,000万円に迫るキャンピングカーになりかねない。
 
 そうなると、わざわざこの車両をベースにしたキャンピングカーまで欲しいと思う顧客はそうとう限定されてしまうだろう。

 

 それでも、この車がキャンピングカーベース車として提案された意義は大きい。
 過去にグランドハイエースという空前絶後の人気ベース車が一世を風靡したことがあったが、このような高級ミニバンタイプのベース車は、グランドハイエースの供給が途絶えた後姿を消していたからだ。

 

▼ グランドハイエースのキャンピングカー
 ファーストカスタム製作「グランドロイヤル」(2003年モデル)

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 今回のグランエースは、すでに “レジェンド” になった昔のグランドハイエースの面影を復活させるものとして、東京モーターショー(2019年秋)で展示されて以来、ビルダーからも、ユーザーからも注目を集めていた車両である。

 

 ただ、ベース車として考えると、過去のグランドハイエースと今回のグランエースは成り立ちが異なる。


 グランドハイエースがキャンパーベース車として脚光を浴びたのは、ノーマル車として売り出されたグランドハイエースの救急車用車両として、ホイールベースを延長した特装車が登場したからだ。 
 それがキャンピングカーとして架装する場合の居住性を保証することとなった。

 

▼ ノーマル「グランエース」(トヨタ車体) のボディフォルム

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▼ グランエースのインパネ

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 それに比べ、今回のグランエースはノーマル仕様のままでは本格的な架装を施すほどの居住性が取れない。


 したがって、現行のままでは、キャンピングカーとしての本格的な装備を積むような仕上がりは期待できない。

 

 また、そうとう使い勝手のいい高級シートがノーマル車には奢られているため、架装するとき、それを捨ててしまうのはあまりにももったいない。

 

▼ ノーマル「グランエース」(トヨタ車体)のシート

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 では、今回のトイファクトリーが取り組んだグランエースのキャンパーモデルは、いったいどういう意図のもとに開発されたのだろうか。
 同社の藤井昭文社長に、その経緯を聞いてみた。
  
 「ずばり、これは “キャンピングカー” というより、トヨタさんが提案している高級送迎車の延長線上にある車両として位置づけています」
 と、藤井社長は語る。

 

▼ トイファクトリー 藤井昭文社

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 もともとこのグランエースというミニバンは、個人の顧客よりは法人需要を意識して開発された車である。
 つまり、接客部門を持つ企業がVIPを乗せ、空港からホテル、あるいはホテルからゴルフ場などへと送迎用に使う高級ワゴンとして開発されたものだ。

 

 諸外国では、すでにこの手の市場が確立されており、欧米ではベンツのVクラス。タイやフィリピンでは、ヒュンダイのH1などが人気を博している。

 そのような市場が日本ではまだ未成熟だったがゆえに、トヨタが目を付けたということになる。

 

▼ トイファクトリー「グランエースポップアップ仕様」リヤビュー

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 トイファクトリーでも、今のところ、このノーマル車の基本コンセプトを変えるつもりはないという。


 ただ、ノーマル車にポップアップルーフを架装することによって、
 「送迎車としての幅を広げ、ルーフベッドで仮眠も取れるようにして、お客様の移動距離を伸ばしたり、災害時などにも備えられるようにした」
 という。

 

 もちろん、今の形がキャンパーとしての “最終形” ではない。
 あくまでも、ひとつの「提案」。
 この仕様を見た多くの見学者やトヨタ自動車の意見も聞き、この車のさらなる可能性を引き上げていきたい、と藤井社長は語る。
 そのため、現段階では、まだブランド名も考えられていない。

 

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 トイファクトリーとしては、キャンピングカーとして考えている車両はあくまでも200系のハイエースであり、200系がこれからも存続していくかぎり、グランエースは、主流キャンピングカーとは異なる路線を意識した「試作車」という位置づけになるという。

 

 藤井社長へのインタビューは、このあと「未来のキャンピングカー」という方向に進んだ。

 

 「キャンピングカーもこれからはそうとう変わっていくだろう」
 と藤井氏は予測する。
 「今後キャンピングカーというカテゴリーそのものがなくなっていくかもしれない」とか。
 つまり、「キャンプ」とか「車中泊」という使用目的から解放された、まったく未知の車に生まれ変わっていく可能性もあるという。

 

 キャンピングカーのベースとなる自動車自体がすでに “100年に一度” という変革期を迎えている。
 自動運転を可能にする乗用車のテストもすでに最終段階を迎え、“空飛ぶ自動車” まで企画される時代になった。
 さらには、リチウムイオン電気を超えるさらなる高性能バッテリーの研究も進んでいる。

 

 そういう時代に備え、同社では、すでに次世代のキャンピングカー開発を水面下で進めているという。
 
 なお、トイファクトリーのグランエースキャンパーの価格が発表されるのは、5月ぐらいになる予定である。

 

 次回のブログでは、このシリーズの続編を掲載する予定。

 

キャンピングカーで身を守れ!

キャンピングカーはコロナウイルス
の感染から身を守るシェルターだ

  

 連日ニュースで報道される新型コロナウイルスの感染情報に接していると、まるで全世界が未知の細菌によって破滅していく “SF映画” でも見ているような気分になる。

 

 もちろん、この騒動もやがて終息するだろう。
 そのときが来たら、
 「今年の春はコロナウイルスにずいぶんやられたね」
 などと苦笑しながら今の状態を振り返るのかもしれない。

 

 しかし、安堵してもいられない。
 今後このウイルスが、世界の滅亡を描いた “SF映画” のような惨劇をもたらさないとは、今の段階では誰にも分からない。

 

▼ 核戦争による “死の灰” によって人類が滅亡
 するというストーリーを描いたSF映画渚にて

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 実際、世の中の風景は変わりつつある。
 学校は休校となり、職場ではテレワークが推奨され、繁華街のレストランや観光地にも人影が少なくなった。
 街は、まさにSF映画の終末モノを見ているような寂しい空気に包まれ始めている。

 

 スポーツイベントや文化イベントものきなみ中止か延期。
 政府や医療関係者も、「不要不急の外出控えるように」と呼び掛けているので、街に出ること自体が “悪いこと” でもするかのような空気が広まっている。

 

 キャンピングカー業界でも、1ヵ月ほど前に幕張メッセで開かれた「ジャパンキャンピングカーショー2020」を最後に、大きなショーは中止ないしは延期することになった。
 
 3月7日~8日の「大阪キャンピングカーショー」は中止。
 3月14日~15日の「名古屋キャンピングカーフェアSPRING」も中止。
 3月21日~22日に予定されていた「東北キャンピングカーショー」も、8月に延期されることになった。

 

 これらのキャンピングカーイベントの中止決定は、もちろんコロナウイルスの感染拡大を防止する意味でやむを得ないものであるが、ある意味、非常に残念である。

 

 なぜなら、キャンピングカーというのは、現在のコロナウイルスの脅威から家族を待燃える格好の “シェルター” でもあるからだ。

 

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 キャンピングカーイベントに足を運び、購買することを意識しながらキャンピングカーを眺めるとき、これはまでは、誰もが「レジャー」や「行楽」という目的で車両を吟味する習慣を身に付けていた。

 

 しかし、キャンピングカーには、ウィルスの脅威や自然災害から家族の生活を守り抜くというシャルターとしての機能が十分にある。

 

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 政府や医療機関が「不要不急の外出控えるように」と通達しているということは、早い話、「家に閉じこもっていろ」ということになるのだが、キャンピングカーは、その “家の機能” を保持したまま、外界から隔離された状態で移動できるので、買い物や家族の送迎、ビジネスの場が各段に広がる。

 

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 キャンピングカーには、家族の大半が安眠できるベッド機能が備わっているほか、電気、水道、ガス、冷蔵庫、テレビ、エアコンなどが完備しているものが多い。

 

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 要は、キャンピングカーというのは冷暖房機能、キッチン機能、娯楽設備などをコンパクトに配置した “小宇宙” なのだ。
 パソコンやモバイル通信機器を搭載すればオフィスになるし、児童たちの勉強部屋、遊び場にもなる。

 

 人が密集するレストランなどに行きづらいという今のご時世。
 キャンピングカーに搭載されたガスコンロ、電磁調理器、電子レンジ、冷蔵庫などを活用すれば、人と接することのない駐車場などで、そのまま車内のキッチン機能を生かして食事を作ることもできる。

 

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 コロナウイルスの感染の危険が多いのは、人が密集した都市部だが、人気がない地方のアウトドア施設などはそれほど感染が広がっていない。

 

 そういうところに車両を持ち込み、家族だけの休息を楽しむ。
 そうすれば、家に閉じこもるよりも、大人も子供も、心がリフレッシュされて、生活の励みを取り戻せることは間違いない。

 

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 次回は、2月のはじめに行われた「ジャパンキャンピングカーショー2020」で取材した今年の新型キャンピングカーなどについて、少し語ってみたい。
 
 

 

グランエースはキャンパーになれるのか?

 

 10月24日(木)から始まっている「東京モーターショー」で、キャンピングカーに興味を持っている人たちの関心を集めているのが、トヨタコーナーで発表された「グランエース」(開発 トヨタ車体)だ。

 

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 全長5,300mm。
 全幅1,970mm。

 

 現在バンコンの主流を占める200系ハイエース・スーパーロングと同等の全長を誇り、全幅に関してはスーパーロングよりも広い。

 

 エンジンもトルクを重視するディーゼルエンジン(2.8リットル)。
 足回りも、バンベースのハイエースとは違い、リヤサスペンションは新開発のトレーリングリンク車軸式を採用して、乗用車としての乗り心地を確保している。

 

 さらにいえば、前突を想定したときに心強い “鼻つき” 。
 どことなく、昔キャンピングカーベース車として一世を風靡した「グランドハイエース」の面影すら漂う。

 

 そういった意味で、この「グランエース」は、キャンピングカーベース車としてのこの上ないポテンシャルを確保した新型車ともいえるのだ。

 

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 しかし、現状では、この車がキャンピングカーシャシーとしてそのまま活用される可能性はほとんどないだろう、と一部のキャンピングカー専門家はいう。

 

 プレスデーに訪れていたあるキャンピングカージャーナリストは次のように語った。

 

 「まず価格的にこのままでは無理でしょう。現段階(モーターショー開催中)では価格が公開されていませんが、トヨタのミニバンのなかでは、アルファードヴェルファイアを上回る高級ワゴンになるはず。
 そうなると、価格的に500万円を超えることも考えられ、ひょっとすると600万円以上の可能性もあるかもしれない。
 それをベースに架装するとなると、とんでもない高いキャンピングカーになってしまいます。
 たぶん手を出すビルダーさんは、なかなかいないのではなかろうか」

 

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 ただ、このスタイルを維持したまま、サードシートのところだけを加工して、簡易的な家具を載せる方法もないわけではない、という。

 

 M・Y・Sミスティックさんや、バンレボさんが開発するような高級ワゴンスタイルのミニバンキャンパーである。

 

 ベース車の内装が豪華であるがゆえに、架装部分の家具がそれに見合った格調を維持できれば、「それはそれで面白いキャンピングカーになるかもしれない」 と、プレスデーにグランエースを観察したキャンピングカーライターさんは語った。

 

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 ところで、そもそもこの「グランエース」。
 いったいどういう目的で開発された車なのだろうか。

 

  「高級送迎車」


  と、トヨタ車体の増井敬二社長は、多くの報道人を集めたプレスカンファレンスでそう語った。

 

 つまり、VIPを乗せて、空港からホテル、あるいはホテルからゴルフ場などへ。
 そういう送迎用に使われる高級ワゴンの市場が、諸外国ではすでに確立されている。

 

 そのような車として高い人気を誇るのが、欧米ではベンツのVクラス
 タイやフィリピンでは、ヒュンダイのH1など。

 

 が、残念なことに日本車はまだその市場に参入していない。

 

 しかし、これからは日本国内でも、そういう市場が急激に伸びるのではないか、とトヨタはにらんだ。
 具体的には、来年のオリンピック。
 また、セレブの外国人観光客に焦点を合わせたカジノ構想も動き出している。


 
 「もちろん、個人のお客様も想定していますが、それ以上に、ホテルのようなサービス業の方々の送迎車としてのマーケットを掘り起こしたい」
 とトヨタ車体のスタッフは語る。
  
  
 では、送迎車としてのグランエースの特徴は何か?

 

 「ひとつはゆったりした移動を楽しんでもらえるシートです」
 と、スタッフ。

 

 今回登場したグランエースの2列シートおよび3列シートには、電動オットマン付きの本革のキャプテンシートが奢られている。
 基本的には、職業運転手がハンドルを握り、VIPのお客を快適にもてなすための車なのだ。

 

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 そのため、乗り心地や走行安定性には細心の注意が払われている。
 サスペンションは、フロントにマクファーソンストラット。
 リヤはトレーリングリンク車軸式。
 
 静粛性を追求するために、遮音材・吸音材もふんだんに使われ、車であることを忘れさせるような快適空間が実現しているという。

 

 「そのため、正直にいうと、車両重量も増えています」
 と、トヨタ車体のスタッフは語る。

 

 そうなると、当然トルク特性が大事になってくる。
 そのため、エンジンはディーゼル1本。


 排気量は2.8リットル = 1GD型 2,754cc 130kW(177PS)/3400rpm
トルクは450N・m(45.9kgf・m)/1600~2400rpm。
 すでにプラドにも使われているエンジンだ。


 なお、今回のモーターショーには出展されていなかったが、6人乗り仕様のほかに、8人乗り仕様も用意されているという。

 

 ともに全長・全幅は変わらず。
 8人乗りの場合は、後席のシートピッチを少しずつ狭くして、多人数の乗車に対応するという。
 
 その場合の4列目シートは跳ね上げ。
 跳ね上げた場合は、そこにラゲージスペースが生まれる。

 

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 さて、ここで最初の本題にもどる。
 はたして、この車をベースにしたキャンピングカーは生まれてくるのだろうか。

 
 
 現在、キャンピングカーのなかで、バンコンといわれるジャンルの最大ボリュームを誇る車は200系ハイエースのスーパーロングバンだ。
 グランエースは、サイズ的にはこのスーパーロングと同等になる。

 

▼ 200系ハイエース・スーパーロング

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 スーパーロングの全長は5,380mm。
 それに対して、グランエースは5,300mm。

 
 全長はグランエースの方が若干足りないが、それでもアルファードの4,945mmやヴェルファイアの4,935mmをはるかにしのいでいる。

 

 逆に、全幅は、スーパーロングの1,880mmに対し、グランエースは1,970mm。
 もう “ほぼ2m” といっていい。

 

 この横幅では、ミニバンとしては走りづらいかもしれないが、キャンピングカーとしての居住性を考えると有利だ。

 

 ただ、室内長を考えると、グランエースはスーパーロングよりも不利である。
 グランエースの室内長は3,290mm。
 それに対し、スーパーロングバンのワゴン版であるグランドキャビンの室内長は3,525mm。

 

 グランエースは、衝突規制強化対応の “鼻付き” であるため、やはりスーパーロングよりも室内容積が足りない。

 

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 また、全高も、スーパーロングの2,285mmに対し、グランエースは1,990mm。
 そのため、室内高も1,290mmしか取れず、キャンパーとしてのヘッドクリアランスも乏しくなる。

 

 ただ、最小回転半径は、グランエースの方が有利だ。
 スーパーロングバンの最小回転半径は6.3m(2700ガソリン 6AT)。
 それに対し、グランエースは5.6m。

 

 最小回転半径は、よくホイールベースの長さに左右されるというが、ホイールベースそのものは、さほど変わらない。

 
 スーパーロングの3,110mmに対し、グランエースは3,210mmで、むしろグランエースの方が長いくらいだ。

 

 それなのに、グランエースの方がよく切れるのは、フロントの舵角を45度に設定しているからだという。

 

▼ 200系ハイエース・スーパーロング

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 以上のように両車を比較すると、それぞれ一長一短があるものの、キャンパーシャシーとしては、現状では200系ハイエース・スーパーロングの方が、居住性、価格、架装効率すべての面でまさっているとしかいいようがない。

 

 特に、ベース車がそうとう高くなりそうだというところが、大きなハードルとなることは明らか。

 

 豪華なキャプテンシートをはじめ、ここまで作り込まれた高級ワゴンの室内装備をすべて捨てさって、そこにベッドやダイネットというキャンピング装備を組み込むということは、どう考えても現実的ではない。

 

 ただ、シートなどを最初からレスして価格を抑えた “どんがら” ボディがデリバリされるようになれば、話は別である。

 

 かつて一世を風靡したグランドハイエースなどは、「キャンパー特装」という形で、キャンピングカービルダーにドンガラボディが供給されるようになり、それによって一大ブームが巻き起こった。

 

▼ グランドハイエースベースのバンコン

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 グランエースにその可能性はあるのだろうか?

 

 まったくない という気配でもなさそうである。

 

 というのは、トヨタ車体のスタッフがいうところによると、
 「すでにリヤシートをレスした “特装車” のようなものは出ないのだろうか?」
 という質問が、主にキャンピングカービルダーからかなり寄せられているという。

 

 もちろん、現状では、
 「その予定は今のところはない」
 と答えざるを得ないとのこと。

 

 しかし、
 「そういうニーズがどのくらいのボリュームになるのか。それによっては、架装に対して負担にならないような仕様の価格設定も検討せざるを得なくなるかもしれない」
 とも。

 

 「ただ、今は、“送迎に最適な高級ワゴン” というブランドイメージを確立することの方が急務」
 という。

 

 このへんは非常にセンシティブな話になるので、しばらくの間は、前向きな答が出てくることはなさそうだ。

 

 ただ、少なくとも、開発スタッフの意識のなかには、“キャンピングカーベース車” としての「グランエース」というイメージがまったくないわけでもなさそうだった。

 

 ま、これは “気配” の話なので、確たるものは、今は何もなし。
 しばらくは「楽しみに待つ」という気持ちでいようと思う。

 

FICCオートキャンプ世界大会 89th

 2019年9月28日(土)より、10月6日(日)まで、福島県天栄村の羽鳥湖高原にて、「FICCオートキャンプ世界大会」(日本オートキャンプ協会主催)が開かれた。

 

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 この大会に、TAS(トレイル・アドベンチャー・スピリット = BCヴァーノンを中心としたモーターホームクラブ)の一員として参加させてもらった。

 

 参加国はイギリス、フランス、ドイツ、ポルトガルなどのヨーロッパ各国のほか、台湾、韓国などアジア諸国を含め、計14ヶ国。

 

 「世界大会」が日本で開かれるのは25年ぶりだという。
 次の国際大会が日本で開かれるのも、25年後。
 人生の半ばで貴重なイベントを経験できたことになる。

 

▼ TASのメンバーが集まった道の駅「羽鳥湖」の駐車場

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 なにしろ9日間にわたる長丁場のラリー。
 普通のキャンプイベントなら時間を持て余してしまうところだが、世界各国のキャンプ愛好家が集まる国際大会だけに、イベントのメニューは豊富。

 

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 民族衣装を身にまとった各国メンバーが会場を行進するパレード(写真上)。
 国ごとの料理が振舞われるパーティー(写真下)。

 

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 そのほか、
 日本酒品評会。
 花火大会など、豊富なメニューが用意され、1日があっという間に過ぎていった。

 

▼ 日本の民族衣装で仮装した日本人グループ。

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▼ TASのポトラックパーティ。様々な食文化を持った人々が参加するため、料理メニューの表記には材料表示も行われた。

 

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▼ コリア・ナイトでは、韓国音楽界を代表するテノール歌手ベー・チェチョル氏のミニコンサートも開かれた。
 舞曲「カルメン」やイタリアのカンツォーネを採り上げた選曲も素晴らしく、たいへん楽しめた演奏会となった。

 

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 今回、片言の英語とボディランゲージを駆使して、短い会話ながら、各国の参加者とコミュニケーションを交わすことができた。

 

 ただ、韓国の人々との会話は、最初だけは緊張した。
 なにしろ、日韓の関係悪化がマスコミから連日報道されている最中である。
 会話の内容が相手に失礼に当たらないかどうか、それだけはかなり気をつかった。

 

 しかし、けっきょくは “笑顔” が最大の友好関係の表示となった。
 前述したベー・チェチョル氏などとは、TASのポトラックパーティーで短い会話を交わし、温泉でも顔を合わせているうちに、彼の表情がとても人懐っこくなっていくのを感じた。

 

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 国同士の関係は、マスコミの伝えるニュースだけでは分からない。
 ニュースの教える情報は、抽象的かつ観念的なものに限られ、そこには、その国を生きる人々の喜怒哀楽などは反映されない。

 

 けっきょく、その国の実情を理解できるかどうかは、その国に生きる人々の具体的な顔を思い浮かべられるかどうかに尽きる。

 

 そのときの相手の笑顔。
 親しげなニュアンスを帯びた会話。
 そういうものの “生きた手触り” を体感してこそ、他国のことを理解できるようになる。

 

 そういうチャンスを得たキャンプイベントであった。

 

▼ 台湾から来たチャーミングな女性と乾杯 

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レクビィ35周年記念ミーティング

 4日間ほど、愛知県を旅した。
 キャンピングカー業界の老舗「レクビィ」さんの創業35周年記念ミーティングにお声をかけていただき、取材も兼ねて、瀬戸市品野町にある「サテライトギャラリー(同社キャンピングカー展示場)」を訪ねたあと、増田浩一社長の案内で、地元の陶芸家の工房なども見学させたもらった。

 

▼ サテライト・ギャラリー「レクビィ・ステーション」

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販売スタッフやキャンピングカー
メディアの記者たちが40人集まる

 

 3月27日(火)の「レクビィ35周年記念ミーティング」に参加したのは、レクビィの車両を販売する各ディーラーの代表者。
 北は北海道から南は九州までの約20社から23~24名。
 それに、レクビィ本社の社員およびキャンピングカーメディアの代表者やキャンピングカーライターが加わり、総勢40人ほどの会合となった。

 

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 「サテライトギャラリー(レクビィ・ステーション)」というのは、レクビィ本社工場の近くにオープンした同社のキャンピングカー展示場。
 本社より車で1分程度の「道の駅 瀬戸しなの」内にオープンし、今年で開設3年目を迎える。

 

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 基本的には、レクビィブランドを中心に展示する営業拠点の一つだが、営業色を抑え、 
 「キャンピングカーというものを詳しく知らない人々に、“現物はこういうものです” 、と知ってもらうための “ギャラリー” 」
 として位置づけられている。


来場者が気楽な雑談を楽しめる展示場

 

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 同社の代表を務める増田浩一氏(写真上)は、こう語る。

 

 「キャンピングカーというと、いまだにアメリカの巨大なモーターホームを想像される方々も多いのですが、街でよく見かけるワンボックスカーだって、立派なキャンピングカーになるんですよ、ということを知ってもらいたい」

 

 そして、
 「われわれスタッフが、来場者にキャンピングカーの魅力を “力説する” のではなく、逆に、展示場に来られた方々から、どのような旅行のスタイルが好きなのか、あるいはどういう仲間と旅行に行くのが楽しいのか、そんな話をいろいろ聞く気楽な雑談の場にしたい」
 という。

 

 もちろん、キャンピングカーユーザーが休憩に立ち寄ることも大歓迎。
 給水も、AC電源の充電も自由だ。

 

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レクビィ35周年の歩み 

 

  「35周年記念ミーティング」が開かれた当日は、各招待者がこのサテライトギャリーに集合し、お昼のお弁当をご馳走になったあと、道の駅の会議室で、レクビィの歴史、企業理念、現行車種の説明、オリジナル装備の機能紹介、マーケット分析、キャンピングカー文化の将来的展望などの説明を受けた。

 

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 参加者に配られた説明資料によると、同社が設立されたのは1984年。当時の社名は「ロータス名古屋」だった。


 「レクビィ」に社名変更したのは1990年。
 今でも同社の主力ブランドとして親しまれているバンコンの「ファイブスター」が誕生したのも、この時期である。

 

 その後、自社ブランドと平行して、輸入車を手掛けたりした時期もあったが、現在は日本を代表する国産バンコンのリーディングカンパニーとして、業界からもユーザーからも一目置かれる存在になっている。


キャンピングカーライターの
岩田一成氏といっしょにトークショー

 

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▲ 岩田一成氏(左)

 

 会議室の説明会では、キャンピングカーライターの岩田一成氏といっしょに、演壇に座り、参加者の前でトークショーを行った。
 テーマは、レクビィ車の機能性とその文化的意義。

 

▼ レクビィのフラッグシップモデル「シャングリラ」

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 岩田さんは、レクビィのバンコンが心がけている
 「簡単なベッドメイキング」
 「人の動線を確保したフロアプラン」
 「(上級ブランドにおける)トイレスペースの意義」
 について言及。

 

 私は、岩田さんの説を補足して、
 「(同社のフラッグシップモデルである)シャングリラをはじめとするカントリー・クラブ、ファイブスターなどのトイレスペースを持つバンコンの心理的効果」について語らせたもらった。


▼ トイレ用個室スペースを持つ「ファイブスター」

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 キャブコンにはトイレ/シャワースペースを持つ車は珍しくない。
 特に輸入モーターホームや大型の国産キャブコンでは、トイレスペースこそが、その車のブランド力をアピールする装備になったりすることもある。

 

 しかし、バンコンでは珍しい。
 もともとバンコンユーザーはスペース効率を優先する志向が強いため、リヤにトイレスペースを持つことを “もったいない” という感覚で見てしまう。

 

 だが、私のように、トイレ付キャブコンを25年間乗り続けてきた人間からすると、キャンピングカーのトイレスペースというのは、単なる機能的空間以上の大切なものだという感覚が強い。

 
キャンピングカーのトイレは
何のためにある?

 

 もちろん機能面だけに限定しても、室内にトイレがあることのありがたみはとても大きい。


 確かに、道の駅や高速のSA・PAや、コンビニにもトイレがあるご時世だが、いちいち車から降りてトイレに行くというのは、年を取ってくるとだんだん億劫になってくる。
 
 さらにいえば、小さな子供と旅行しているとき、暗い道の駅などで、子供をトイレに行かせるのも心配なときがある。


▼ 「シャングリラ」の個室空間 

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 だが、「トイレにも使える個室」を持つキャンピングカーというのは、機能以上の価値を生み出す。
 それは、“逃げ込める空間” になるからだ。

 

 いくら仲の良い夫婦といっても、長旅が10日以上、時に2週間以上になってくると、息が詰まってくる。
 そのときに、お互いに顔を合わせなくて済む “個室” が車内にあるというのは、息抜きの空間を持っていることになる。


トイレ空間は長旅の必需品

 

 たとえ、その中に実際に閉じこもらなくても、そういう “空間” が車内にあると意識するだけで、ずいぶん心が軽くなる。

 

 私たち夫婦は、そういうふうにして、2週間以上続く旅行においても、お互いに気楽に旅してきた。
 だから、トイレスペースに使える個室を持ったバンコンの意義をもっと強調してもいいと思っている。


ミーティング資料でも紹介を受ける

 

 今回のミーティングでは、レクビィさんが用意した36ページにも及ぶ討議資料の最終ページに、なんと、私が25年前に手掛けた『RV&キャンピングカーガイド』という年間本の94年版と95年版の表紙と、その編集後記が載せられていた。

 

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 当日参加した若いスタッフは私のことを知らない人も多い。
 それを考慮した増田浩一社長の好意であろう。
 思えば、増田社長とも25年の付き合いが続いたことになる。
 うれしい配慮であった。

 
 当日は、そのあと、レクビィ本社工場を見学。

 

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 同社のバンコンがどのように造られているのかという説明を受けたあと、「猿投(さなげ)温泉」という温泉宿に全員バスで移動。
 山深い “秘境” の風情すら漂う落ち着いた宿で、宴会となった。

 

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瀬戸焼きの工房『燄(えん)』を見学

 

 翌日は、有志だけの参加となったが、瀬戸市内に瀬戸焼の窯を構える波多野正典氏の工房『燄(えん)』の見学メニューが用意されていた。

 

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 波多野正典氏は、陶芸ビエンナーレ賞、朝日陶芸展・秀作賞、日本現代工芸美術展賞などの数々の賞を受賞した華々しい陶歴の持ち主で、高校生たちに陶芸を講義することもある地元の名士。

 

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 同氏の工房は、レクビィ社とも縁が深く、レクビィの看板バンコンである「カントリークラブ」などのシンク(写真下)が、この波多野工房で生産されている。
 

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「クールジャパン」のキャンピングカー版

 

 瀬戸市が “瀬戸物” の産地として知られているため、同じ瀬戸市に工場を構えるレクビィが、波多野工房に「瀬戸焼き製シンク」の製作を依頼したという経緯もあるが、そもそもキャンピングカーのシンクに “瀬戸物” を使うという発想自体が面白い。

 

 それこそ、日本製の漫画・アニメなどのポップカルチャーや、日本製ゲームコンテンツ、現代アート、ファッションなどを総称する「クールジャパン」の “キャンピングカー版” ともいえる。


 今回は、レクビィ・ステーションの見学に始まり、本社工場の視察、さらに陶芸工房を訪問して、瀬戸焼きの創作の現場を見せてもらうなど、メニュー豊富な旅を楽しむことができた。

 

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 旅行日数は、行きと帰りの移動日に、それぞれ2日掛けるという贅沢なものになった。
 昼は中央自動車道の山並みを眺めながら走り、夜はSA・PAで音楽を聞きながらの独り宴会。
 キャンピングカーの旅は楽しい。

 

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サテライトギャラリー(レクビィ・ステーション)
(道の駅 瀬戸しなの 第2駐車場)
電話:0561-59-7788
火・水曜休(祝日営業) 10:00~17:00

recvee.jp


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アクセス 
東海環状自動車道・せと品野から瀬戸市街方面へ約3.3km
レクビィ本社工場から車で1分

  

   

欧州キャンピングカーの罪深い快楽

ヨーロッパ系RVの妖しさ
はどこから来るのか?

 

▼ Hymer B660SL 2007年モデル

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欧州車は歴史を知らないと理解できない
  
 キャンピングカーの世界では、国産ビルダーの間で、日本市場を意識した日本的なデザインを追求しようという傾向が強くなってきた。
 ようやく、日本においても、欧米的なキャンピングカー文化とは異なる日本独自のキャンピングカー文化というものが育ちつつある という感慨を持つ。
 
 しかし、その一方で、輸入車の「ディープな快楽」というものを理解する日本人が少しずつ減っていくような寂しさも感じる。

 

 乗用車もそうだが、キャンピングカーも、それを造った民族の美意識、哲学、価値観などが反映されている。
 それは、ボディや家具を構成する素材や形状を分析しただけでは、見えてこないものだ。

 

 特にヨーロッパ車のように、長い歴史を通じて形成されてきたものは、文字どおり「歴史」を知らないと、本当のことが見えない。
 
 たとえば、本場ヨーロッパの高級キャンピングカーが持つ、あの恐ろしいような「快楽」というものを、まだ日本人は知らない。
  というか、目の前に提示されても、それを理解することができない。
  
 現在のキャンピングカージャーナリズムで活躍している人の多くが、ヨーロッパの高級車を見ると、いとも簡単に「豪華」とか「優美」とか「贅沢」などと形容してしまうが、ふと「本当の豪華ってものを分かってんの?」と、意地悪く質問してみたくなることがある。

 
▼ 欧州車の贅沢さをたっぷり教えてくれるドイツ・ホビー社の高級トレーラー

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ヨーロッパ車のゴージャス感の秘密
 
 ヨーロッパ車のゴージャス感というものは、商人資本主義以来の500年の蓄積によってもたらされたものである。

 

 その場合の「資本主義」とは、アフリカの希望峰を超えて東洋の富をあさりに行ったり、大西洋を超えて新大陸から金銀を持ち出すという、ヨーロッパ人たちの「略奪」を合法化した重商主義経済のことをいう。
 
 ヨーロッパ先進国というのは、そのような植民地支配を通して、世界の富を強奪するようにかき集め、それによって壮麗な文化を切り開いた。
 それは、けっして誉められたものではないだろう。
 むしろ、被征服者たちの犠牲の上に花開いた “悪の文化” ともいえる。
 
 しかし、そのような文化には、「血を吸った文化」の猛々しさと眩さ(まばゆさ)があり、触れた者をトロリと誘惑する、熟れた果実のような芳香がある。
 そして、自分を大人と思える …… すなわち「偽善者」であることを自覚した人間だけが味わえる、背徳的な悦びが隠されている。

 

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資本主義を繁栄させたのは「恋愛」である
 
 このような華麗な資本主義文化を成立させる原動力となったものは、いったい何だったのだろう。

 

 マックス・ウェーバーの主張した、プロテスタント的な倫理が資本主義の精神を形成したという洞察に異を唱えた学者として、ヴェルナー・ゾンバルトがいる。

 

 彼は、資本主義を発展させた推進力は、「恋愛」だと唱えた。
 つまり、18世紀になって花開いたフランス宮廷文化における華麗な「恋愛ごっこ」が、資本主義の勃興をうながしたというのである。

 

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 この時代、パリのヴェルサイユ宮殿を中心に繰り広げられた貴族たちの宴では、貴婦人たちや女官たちの歓心を買うために、男たちはあらんかぎりの豪華な文物を手に入れて、女たちにプレゼントした。
 
 プレンゼントの品々には、全欧州の金銀細工や宝石のたぐいは言うに及ばず、東洋や新大陸の珍奇で貴重な工芸品など、ありとあらゆる世界の富がかき集められた。
 
 それらの金銀細工や宝石を加工する産業が各地に勃興し、ヨーロッパの製造業は著しく成長した。
 中国や日本の陶器が上流階級の家庭でコレクションされるようになると、それをヒントに、マイセンをはじめ、ヨーロッパ中に磁器工場がつくられるようになった。

 

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 また、貴族のファッションを構成する素材として、レース製品が欠かせないものとなり、フランドル地方のレース編みは、その緻密さと美しさを評価されて、上流階級の間で飛ぶように売れた。


「不倫」がほんとうに「文化」であった時代
 
 そのような文物が溢れかえった時代の「恋愛」とは、どんなものであったか。
 ヴェルサイユ宮殿で、歴代の王族や貴族の “恋人” として名を馳せた貴婦人たちの呼称を見れば、彼らの恋愛模様というものがよく見えてくる。
 
 「シャトルー公爵夫人」
 「ポンパドゥール侯爵夫人」
 「デュバリー伯爵夫人」
 みな、「夫人」である。つまり、それぞれ夫を持つ立派な主婦たちである。

 

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▲ ポンパドゥール夫人肖像
 
 彼女たちは、夫を持つ身でありながら、時の権力者たちに取り入るための魅力を存分に発揮して愛人に収まり、夜毎のパーティやサロンを切り盛りして、華麗なる宮廷文化の華を咲かせた。

  
 貴族たちが群集うの宮廷では、「結婚」というものは何も意味しなかった。
 夫人たちは、それぞれ夫とは別の王侯貴族の愛人となることを当たり前のように求め、男たちは、妻とは別の貴婦人たちを当たり前のように恋人とした。
 「不倫」という言葉は、この時代の “辞書” には意味のない言葉として誰の目にもとまらなかった。

 

 人々が求めたのは、一瞬のきらめきに、すべてを託す忘我の快楽。
 あでやかな官能。
 ゲームとしての恋。

 

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「F1」ですら上級階層の遊戯だ
 
 平民の娘でも、美貌と才覚に恵まれれば、時の最高権力者の愛妾にもなれる。
 そういう筋道を、ポンパドゥール夫人がつけてからは、男女の関係は一気にアナーキーになった。
 性愛、富、権力。
 人間が快楽と感じるもののすべてが、この時代に合体した。
 
 フランスを中心とするヨーロッパの恋愛文化には、基本的にこのような精神が息づいている。
 かつて作家の五木寛之は、ヨーロッパ社会の中で「F1」というスポーツがどのようなものであるかを、こう書いた。
 
 「F1は、お子様連れで家族ぐるみで楽しみにゆく場ではない。あのエンジン音は、柔らかい幼児の鼓膜には良い影響を与えないはずだ。
 そこは、不倫だの、危険な情事だのと世間から雑音が入ることをものともしない人々が、愛人を連れてゆくような場所なのである」
 
 アンモラルな表現だが、まちがいなく五木寛之は、ヨーロッパ社会の伝統的な恋愛文化を念頭において、これを書いている。
 ヨーロッパのキャンピングカーというのも、こうした流れの中で造り上げられたものだという。

 
キャンプ文化は貴族の娯楽から生まれた
 
 日本オートキャンプ協会(JAC)の初代専務理事を務められた故・岡本昌光氏は、著書『キャンプ夜話』の中で、イギリス国立自動車博物館に保管されているキャンピングトレーラーの第1号といわれる車両を目にして、こう語る。
 
 「その最古のトレーラーの室内には、貴族の応接間のような格調高い家具が置かれ、窓飾りや、カーテン、壁紙、ジュータンまでもが『オリエント急行』のレストランのような豪華な雰囲気を漂わせていた。
 貴族たちは、動く別荘としてキャンピングカーを使い、自分の領地の景色の良い所に置いた。
 彼らはたくさんの召使いや、給仕、料理人を使い、大テーブルには山海の珍味を並べ、美女たちを招待し、最高の酒を味わった」
 
 この記述を読むと、最古のトレーラーといわれるものが、フランスで華開いたロココの精神の延長線上にあることは明らかだ。
 
 その流れは今も続く。
 たとえば、ホビー社の高級トレーラーの天井カーブを見ていると、まるでヴェルサイユ宮殿の天井をそのまま縮小したのではないかとすら思えてくる。

 

ヴェルサイユ宮殿の天井

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▼ ドイツ・ホビー社の高級トレーラーの天井

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「エレガンス」は差別意識から生まれた概念

 

 欧州車デザインのキータームは、「エレガンス」である。
 これも、貴族文化の流れをくむ言葉だ。
 「優美」「気品」「優雅」 … などと訳されるけれど、本来は差別意識の強い言葉だ。
 
 恋をゲームのように遊んだロココの貴族たちは、何よりも野暮ったさを嫌った。
 「まじめな恋や、一途(いちず)な恋というのは野暮ったい」
 だから、“まじめにならない浮気” こそがエレガントなゲームとなる。
 彼らが使う「エレガンス」という言葉には、そういう響きがある。

 

 つまり、「エレガンス」とは、「エレガンス」を解さない人間を侮蔑するために生まれた言葉である。

 

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 そのようなエレガントな恋を楽しむ場所として、彼らは、自分たちの暮らすスペースを精いっぱい優雅で洗練された意匠で飾った。
 
 その「快楽空間」というものが、どのようなものであったか。
 映画を例に取れば、ルキノ・ヴィスコンティの描く数々の映画に登場する人物像、その背景となる舞台、扱われる文物などに余すところなく描かれている。


貴族出身のヴィスコンティ監督
が描いた貴族の暮らし
 
 『イノセント』や『ルードヴィヒ』、『山猫』などという映画には、ヨーロッパ貴族たちが呼吸していた濃密な生活空間の空気が、見事に映像化されている。

 

 ▼ ヴィスコンティの『イノセント』 

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ヴィスコンティの『ルードヴィヒ』

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今のヨーロッパ車にも「快楽」は潜んでいる
 
 現在のヨーロッパ高級キャンピングカーを見ると、さすがにヴィスコンティの映画に出てきそうなバロックロココ的なケバケバしさというものは影を潜めている。
 

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 内装デザインはモダンになり、中にはSF映画の舞台ともなりそうな未来志向の室内空間を形成しているものもある。
 そして、時代のテーマを忠実に反映したエコロジーコンシャスの装備類や素材などをふんだんに投入し、爽やかで健康に満ちあふれたクルマ造りを志向しているように見える。
 

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 想定されるユーザー層は、あくまでも健全な家族であり、幸せな老夫婦。
 そこには、遊戯的な愛を交わし合ったロココの愛人たちの姿は見えない。
  
 しかしドッコイである。
 彼らは、そう簡単に「恋愛空間」としてのキャンピングカーを手放してはいない。
 
 ときめき。
 誘惑の蜜の味。
 吐息の熱さ。
 そいつを、目立たないように、こっそりと、しかし確実に、キャンピングカーに忍び込ませている。
  
 それは、時には、女体のくびれを連想させるコンソールボックスのアールかもしれないし、セクシーなデザインを与えられたハイネックのフォーセットかもしれない。

 

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 それらの形が、見た者をムズムズ とさせるのは、それを考えたデザイナーにも、営業マンにも、使うユーザーにも、恋愛文化の伝統がもたらす “ムズムズ感” が分かっているからである。
 欧州高級車の「色気」というものは、すべてそこから放たれてくるものといえる。

 

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「コマンダー」はキャンピングカーの名車だ!

愛車自慢 
初期型コマンダーGT

 
 仕事柄、 ということもあるが、キャンピングカー旅行が好きである。
 いま乗っているクルマは、「コマンダーGT」。

 

 このキャンピングカーを使った最近の旅行レポートは、下記に書いた。
 https://www.jrva.com/column/detail.php?column_cd=97
 (JRVA 日本RV協会 ホームページ)
   
 この「コマンダー」というキャンピングカーは、2002年(平成14年)に、横浜のキャンピングカーショップ(元)「ロッキー」から発売された。

 

 シャシーが韓国ヒュンダイ製。
 国産キャンピングカービルダーのバンテックがそのシャシーを輸入し、ロッキーが企画を練り、バンテックのタイ工場で造られたキャブコンという意味では、東アジアを股にかけて製作された国際的なキャンピングカーともいえる。

 

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コマンダーGT(初期型)

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「タイガー」を意識したスタイリング 

 

 スタイル的な特徴といえば、かつてアストロをベースにした輸入モーターホームとして一世を風靡した「タイガー」を彷彿とさせるところ。プロポーションもタイガーだし、ストライプの走り方もタイガーを意識している。
 これは当時の「ロッキー」の社長がアメ車好きであったことに由来する。


▼ アストロタイガー(後期型)

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 しかし、この企画を受けたバンテックの社長 故・増田紘宇一(ますだ・こういち)氏は、ヨーロッパ車が好きだったせいもあって、アメ車テイストの車をつくることには内心消極的だったともいわれている。

 
 ただ、そこはバンテックのヒット商品を次々と発表していた故・増田氏のこと。ロッキー側の依頼を受けて、見事にアメリカンテイストのフォルムを造形した。

 

 ちなみに、増田氏がヨットを趣味としていたこともあって、その人間関係から、ボディ造形には日本を代表するヨットデザイナーの横山一郎氏が関わっている。

 

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フィアット・デュカトをライバルに想定したシャシー

 

 このコマンダーを購入するときの、選択肢としての基準は、5m未満のキャブコンで、車両本体価格が500万円未満(当時)。
  ということであったが、実は、ベース車のヒュンダイSRXトラックにすごく興味があったからだ。

 

 なにしろ、このトラックは、商用車の分野でも国際マーケットへの進出を目指していたヒュンダイ自動車が、ヨーロッパのフィアット・デュカトの競合車として設計したトランスポーターだといわれている。

 
 つまり、アウトバーンでの走行も念頭においたもの !?
  となると、当然走りを期待したくなる。

  

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 このベース車を日本に導入するとき、バンテックがあちらこちらの国産ビルダーに、売り込みをかけた。
 それを受けたビルダーさんの反応が様々であった。

 

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某メーカーA社長
 「いいシャシーですよ。ただ韓国製ということで、うちの営業は全員反対でしたね。エンジンブロックなどの構造が日本の三菱系とはいっても、不具合が出たらどうするか。未知の部分が多すぎて

 

某メーカーB社長
 「シャシーはいいけれど、日本では売れないと思うよ。売れない理由が3拍子揃っている。ひとつは左ハンドル。次はディーゼル。そして、やっぱり韓国車はまだ日本では市民権を得ていない」

 

某メーカーC社長
 「これはいいシャシーだよ。ディーゼルだけど、やかましくないんだよ。それに、運転席が乗用車の雰囲気じゃない? しかも、ドアを閉めると、バタッと重厚感があって、トラックじゃないよ、あれは

 

某メーカーD社長
 「韓国製っていうから、それほど期待していなかったけれど、実際走らせたらびっくり! カムロードなんかよりパワーがあるし(当時)、直進安定性もいい。ワイドトレッドなどをわざわざ設定しなくても、ベース車自体の幅が広いから安定感がある。キャンピングカーにしたら良いクルマができると思うよ」

 

某メーカーE社長
 「バンテックさんが入れるというので、ヒュンダイの工場まで試乗に行ったんですよ。そうしたら、思ったより完成度が高かった。まぁ、トヨタほどの完成度ではないけれどね。ターボの回り方はいいので、走りは軽快。ホイールベースも長くて安定しているし、トレッドも広いので、コーナリングの不安がない」

 

  というように、架装した車両が生まれる前から、かなりの情報を得ることができた。

 

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絶妙の車両サイズ
   
 この「コマンダー」がデビューした2002年当時。ヒュンダイSRXベースの国産キャンピングカーは全部で3台あった。
 1台は、輸入元のバンテックが開発した「アトムSRX」。
 もう1台は、フィールドライフの「フランク」。

 
 翌年になると、マックレーの「エンブレム」が登場することになるが、2002年ではまだ「エンブレム」はなかった。
 
バンテックのアトムSRX(初期型 2002年モデル)

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▼ フィールドライフのフランク

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コマンダーGT

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 その中で、このコマンダーを選んだのは、ずばりサイズ。
 5m未満。
 アトムSRXは、全長5585mm。
 フランクは、全長5670mm。
 それに対して、コマンダーは4980mm。
 
 悲しいかな、わが駐車場といっても月極だが、そこに収まるのは5m未満のコマンダーだけだった。

 

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 実は、ベース車のヒュンダイSRXトラックの全長は5415mmなのだ。
 それをわざわざフレームの後部をカットしてまで、ショートボディにこだわったのが、コマンダーだった。

 

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 理想的といえば、理想的。
 頑丈なフレームを残したベース車だから、ボディ剛性もしっかり確保された上に、衝突安全性も保証される。
 それでいて、全長5m未満。
 もう、それだけで、ほぼ自動的に購入車両は決まった。
 
 結果的に、この5m未満ボディのおかげで、旅行に出ても駐車場選びで困ることはなかった。
 なにしろ、キャブコンでありながら、コインパーキングに収まってしまうというのはやはり便利だ。

 

 さらにいえば、リヤオーバーハングがないため、都市部の細い路地に入っていくことにもさほど困らない。
 サイズの収め方が実にうまいクルマであると後で思った。

 

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走行性能にも大満足

 
 走りは、正直にいって「拾い物!」という感じだった。
 実は、「カムロードよりよく走る」という評判は聞いていたのだが、それほどのことはあるまいと、タカをくくっていた。 

 

 当時のカムロードは91馬力。
 SRXのスペックデータは、103馬力(初期型)だったから、それほど大きな差があるわけではない。だから、実際に走らせるまで、大きな期待はなかった。
 
 しかし、ターボの力あなどりがたし。
 キックダウンして回転数が上がるまでは、ディーゼルトラック特有のもたつきがあるが、ターボが効きだしてトルクバンドに乗ってくると、かなり胸のすく走行フィールが味わえる。

 ある販売店のスタッフが「乗用車フィール」と言っていたのも、よく分かった。

 

 高速道路では、軽々と120km巡航ができるので、最初のうちは得意になって飛ばしていたが、燃費はガタっと落ちる。
 
 ちなみに、市街地では5.8~6.8kmリットル。
 高速道路では、平均8.6kmリットルぐらい。

 
 しかし、100kmを超える巡航を継続していると、高速道路でも市街地並みの燃費に落ちる。
 そのため、急ぎの用がないときは、高速でも80~90km走行。
 80kmをキープしていればリッター10kmは走る。

 

 直進安定性もいい。
 なにしろ、ホイールベースが3280mm。これは同時期のカムロードの2545mmを軽くしのぎ、ハイエースのスーパーロング(3110mm)よりもさらに長い。
 そのため、高速道路で100kmを超えても4輪(後輪ダブルだから正確には6輪?)がピタッと地面をトレースしている感触が伝わってきて、ハンドルがまったくぶれることがない。

 

このクルマは左ハンドルで正解

 

 

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 左ハンドル車を持つのは、実は初めてだった。
 だけど、幅2mを超えて、この車のように2.15mぐらいになってくると、やはり左ハンドルは悪くない。

 

 左いっぱいに寄せられるので、狭い道のすれ違いなどは、かえって右ハンドル車より有利に思える。
 
 ただ、最初のうちは、右席に乗った同乗者は、対向車線の車が飛び込んで来るように見えて、かなり困惑していたようだった。
 
 難点があるとしたら、右側から迫ってきた車に追い抜かれるとき、一瞬の死角が生じること。

 
 それを解消するのには、天吊りミラーが効果があるようだ(私は付けていない)。
 この “一瞬の死角” は、この車の納車が始まった頃から、すでに問題になっていたもので、何台かは補助ミラーをつけて納めたという話は聞いた。私は、「事前の注意と慣れ」でなんとかしのいでいる。
 

こんな使いやすいレイアウトはなかなかない!
 
 「コマンダー」というキャンピングカーの外形的特徴をいうと、“鼻付き” であることだ。つまり、ボンネットがバン! っと前に突き出ている。
 
 ボンネット型キャンピングカーは、確かにカッコはいいけれど、5mクラスのキャブコンとなれば、このボンネット部分にスペースを取られてしまう分、居住空間が狭められてしまう。
 つまり、長さの割りに、室内が狭い。

 

 これを「損」と取るか、「贅沢」と取るか。
 私は、「贅沢」と取った。

 

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 ただ、正直にいうと、家族の多いユーザーには向かない車だ。

 
 カタログで謳われている乗車定員は9名。就寝定員は6名だが、それは人間を動かないマネキン人形のように考えて、肌と肌を密着させた状態で詰め込んだときの数値で、実質的には夫婦2名+小さな子供2名というのが許容限度。
 理想をいえば、夫婦2人の車だ。

 

 息子は、いま身長が180cmを超えるが、こいつが一人乗り込んでくるだけで、室内があっという間に半分に縮小されちゃったのか? と思えるほど窮屈になる。
 でも、今はほとんど夫婦2人で使っているので、まったく問題がない。

 

 ボンネットなどという “無駄メシ喰らい” のスペースがあるため、室内空間は狭いのだが、それを感じさせないところが、この車の妙である。
 理由は、バックエントランス。

 

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 エントランスドアが、ボディの真後ろにある。
 エートゥゼットのアミティRRがこれを採用し、評判を取った。

 
 その昔は、日本人が企画した車ではアストロスター、イーグルなどというキャブコンがあり、輸入車ではシヌークがあったが、いずれにせよ、このレイアウトは少数派だ。
 
 トラックキャンパーでは、構造上このスタイルしか取れないわけだから、それはやむを得ないとして、キャブコンでこれを採用する車が少なかったのは、出入口がオーニング下からずれるし、リヤにキャリア類が付けられない などというデメリットがあったためだろう。
 
 でも、そういう不便さを気にしなければ、これは無類にスペース効率の良いアイデアだ。
 フロントエントランスにせよ、リヤエントランスにせよ、ボディの横に入口がある車は、その入口まわりに家具を置くことができない。つまり、エントランスステップが “デッドスペース” になってしまうわけだ。
 
 コマンダーは、バックエントランスを採用したため、運転席からリヤエンドまで真っ直ぐに伸びる純粋なキャビンスペースを確保している。
 そのため、“生意気にも” シャワー・トイレルームさえ実現している。

 

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(写真上)ボディサイドにエントランスドアがない分、室内には、ドーン! と優雅なサイドソファが通っているのが特徴。

  
 足の長さなど自慢できない奥ゆかしい私なんぞは、このサイドソファがあるだけで、(フロアベッドを作ることなく)そのまま寝っ転がることができる。

 

 トラックベースに見えない運転席周りも気に入っているところのひとつ。
 乗用車っぽくハンドルが立っている。
 運転席・助手席とも、肘掛けが付いていて、快適だ。

 

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 下は、キッチンスペース。
 さすがに狭いけど、いちおう2口コンロ付き。
 コンロの上には換気扇があって、煙草を吸っていたときは、この下で煙を吐き出すと同乗者のカミさんに迷惑をかけることがなかったので助かった。

 

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 12V仕様の電子レンジ()も最初から標準装備だった。
 これもけっこう便利。AC電源が取れなくても、冷凍モノを温めたりできるので重宝している。

 

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 ゆったりしたダイネットシートに座り、窓の外に広がる港の夜景などを眺めながら、気に入った音楽を流し、ウィスキーなどをすすっていると、最高の気分である。

 

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コマンダーGT(初期型モデル)主要諸元

ベース車両 ヒュンダイSRXトラック
全長 4980mm
全幅 2150mm
全高 2700mm
エンジン種類 インタークーラー付きターボディーゼル
排気量 2476cc
最高出力 103ps/3800rpm
最大トルク 24,0km/2000rpm
ミッション 4速AT(アイシン精機製)
駆動方式 2WD(FR)
ホイールベース 3280mm
トレッド(前) 1570mm/(後)1408mm ※ 後輪ダブルタイヤ
最小回転半径 6.3m
燃料タンク 70㍑(軽油
発売当時価格(初期型) 4,600,000円
 
主要装備
FRP一体成形ボディ/網戸付きペアガラス/バックエントランスドア/温水ボイラー/ファンタスティックベント/ギャレー(シンク&2口コンロ)/大型外部収納庫(左右)/給排水タンク(各94㍑)/3ウェイ冷蔵庫/12V電子レンジ/105Ahサブバッテリー×2/カセットトイレ/ベバストFFヒーター/サイドオーニング/バックアイカメラ/リヤラダー/大型凸面ミラー/走行充電装置ほか