ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン
日本語に訳せば、「悪い星の下に生まれて」。
“ほんとにツキのねぇ人生だぜぇー” … ってな意味である。
この言葉は、黒人のブルース奏者アルバート・キング(下)が大ヒットさせた曲名としてよく知られている。
▼ Albert King - Born Under A Bad Sign
アルバート・キングは1923年に生まれて、1992年に亡くなった人だが、この曲の最初のレコーディングは1967年頃といわれており、40代半ばという最も脂の乗り切ったときに世に出た曲だ。
♪ 「不運」と「トラブル」だけが俺の “友だち” さ。
10歳のときから、そんな人生を送ってきた。
俺は文字も読めねぇし、書き方も知らねぇ。
だから、どこへ行ってもクズ呼ばわりよ。
ほんとに悪い星の下に生まれちまったぜ。
歌詞は、まさにブルース!
都市の最下層民として生きる黒人の自虐的なぼやきが、そのまま歌になっている。
歌詞はヤケクソ的な精神に満ち満ちているが、この曲が、60年台後期の白人ロックミュージシャンたちに与えた影響は大きい。
クリーム、ジミ・ヘンドリックス、ジョニー・ウィンターなどがカバーを手がけていて、スタンダードブルースのなかでも定番中の定番といった様相を呈している。
実はこの曲、私が「ブルース」という言葉を使われたときに、最初に思い浮かんでくる曲なのだ。
聞いていると、椅子に座っていても、肩が自然に前後に揺れ始め、膝が勝手にリズムを取り始める。
決して、立ち上がって上下にぴょんぴょん飛び跳ねたりはしないけれど、それでも身体が “ブルースの波動” に感染して、微熱がじわじわ上がってくるのを感じる。
脳より先に皮膚が音に反応する。
そういう力を持った曲である。
このアルバート・キングの演奏を聞いていると、スタックス・レコードと契約したばかりの頃を反映してか、非常にソウル・ミュージック的な演奏になっていることが分かる。
特にこのテイクはホーン・セクションも入ったりして、この時代のR&Bっぽいつくりになっている。
もっとも、『ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン』が有名になったのは、クリームが1968年にカバーしてからだ。
クリームの演奏が世に出てから、本家アルバート・キングの曲も知られるようになったという。
▼ Cream Born Under A Bad Sign
私が最初に聞いたのも、このクリーム版だった。
1968年に発表されたクリームのアルバム『WHEELS OF FIRE (クリームの素晴らしき世界)』に、この曲が収録され、けっこう有名になった。
“ブルースフリーク” だったエリック・クラプトンがいかにも好みそうな曲で、ロック的なアレンジにもかかわらず、ブルース本来のねちっこいドライブ感を大事にした曲風になっている。
実は、この曲を際立たせているのは、メンバーの一人ジャック・ブルース(2014年没 上の写真では真ん中の人)の弾くベースである。
こんなに重くてネバッこいベースの響きは、そうめったに聞けるもんではない。
まるで、ティラノザウルスが、長いシッポで砂煙を立てながら、ダンスを踊っているみたいだ。
エモノを倒した後の、肉食恐竜の饗宴を盗み見しているような気分になる。
このクリーム版の『ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン』は、60年~70年代のロックを聞き慣れた人にはコテコテのブルースに聞こえるかもしれないけれど、わたし的には、これが「ハードロック」なのね。
演奏形式ではなく、「ハード」という言葉を “重量感”、“刺激性”、“カッコよさ” などという概念で切っていくと、こいつはまぎれもなく、ハードロックだな … と思う。
ベーシストのジャック・ブルースは生涯この曲が気に入っていたのか、2005年のロイヤル・アルバート・ホールで昔のメンバーを集めたときのライブにおいても、枯れた味わいの中にも凄みを利かせる演奏を繰り広げている。
▼ Cream - Born Under A Bad Sign (Royal Albert Hall 2005)
1968年のスタジオ版よりも、さらにテンポは落とされ、その分レイドバックしたニュンアスが漂う演奏になっているが、逆にジャック・ブルースの凄み … というか、怖さみたいなものも浮かび上がってくる。
この人、本当にこの曲が好きなんだな … と思えてくるのだが、その歌詞の内容に、なんだか彼の人生を重ね合わせたような雰囲気も伝わってくる。
それにしても、画像を見ると、クラプトンもジンジャー・ベイカーもそうとうオッサンになっている。
ま、2005年の映像だしね … 。
ジャック・ブルースも、このときはずいぶん老けた顔になっているけれど、肉食恐竜の猛々しさは失っていない感じだ。
元クリームメンバーとしては、“大御所” エリック・クラプトンも1994年のライブでこの曲を披露している。
もともとギターリストだけあって、ギターの勝った演奏になっているが、私はジャック・ブルースの演奏の方が好きだ。
クラプトンがブルース好きなのは分かるけれど、この曲に関しては、ジャック・ブルースの思い込みの方が勝っている。
ボーカルに関しても、クラプトンの歌よりジャック・ブルースの方が味がある。
ま、クラプトンバージョンに興味を持たれた方は、こちら(下)もどうぞ。
この曲に関しては、日本のミュージシャンもけっこうカバーしていると思う。
1960年台後半、日本でもブルース・ロックの愛好家がいっぱい輩出して、学園祭などでクリームのコピーをやっていたバンドは、よくこの曲もレパートリーに取り入れていた。
YOU TUBEで拾えるものとしては、有名どころでは柳ジョージの演奏がある。
▼ 柳ジョージ- Born Under A Bad Sign
演奏はオリジナルのアルバート・キングとクリームの中間ぐらいにある感じ。
テンポはクリームのリズムに近いが、コーラス隊をバックに配したアレンジなどは、かなりアルバート・キングのR&Bっぽい仕上げに近くなっている。
彼は、この曲を、器楽を使って演奏するよりも、「歌う」ことの方に関心があったように思える。
で、そのヴォーカルが、またいい!
彼のしょっぱい歌声は、まさにこういう歌を唄うために神様から授かったように思える。
『ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン』 。
まだまだいろいろなカバーがYOU TUBEにあふれているけれど、今日のところはそれぐらいに …。
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