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陰謀論が日本人を汚染し始めた

 

 元アメリカ大統領のトランプ氏が、新大統領のバイデン氏にホワイトハウスを明け渡したことによって、ようやくバイデン新体制がスタートした。

 

 この間、アメリカと日本のメディアは、「アメリカ社会の分断」という視点で、数々の問題が積み残されていると指摘してきた。

 

 しかし、ここにきて、これまでのトランプ支持者も、ようやく情熱が冷めてきたようで、近々(1月21日)のトランプ氏の支持率は34%まで落ちてきたという。

 

 たぶん、「分断」は、これからもずっと残ったままだろうが、これまでのような「トランプ派 vs 反トランプ派」、あるいは、「共和党 vs 民主党」、さらには「低所得のブルーカラー層 vs 高学歴エリート層」といった対立構造は、少しずつ穏便なものになっていくように思う。

 

 なぜなら、以上のような「分断」は、みなその構造が合理的に説明されるからだ。
 どれもみな、基本的にはここ24~5年の間に激化したグローバリズムの問題であり、それが引き起こした格差社会の問題である。

 

 つまり、バイデン氏の政治が、それを解決する道筋をつけていけば、「分断」の壁は少しずつだろうが、乗り越えられないことはない。

 

 ただ、どうしようもない「分断の壁」が、けっきょく最後まで残る。

 

 それは、「陰謀論の壁」だ。

 

 この “壁” は、合理主義で解決できる「分断」の<外>にそびえている。

 

 今回の大統領選で見えてきたものは、トランプ氏に票を投じた支持者たちといえども、その多くは、反トランプ勢力の主張に耳を傾ける合理性を持っていたということだ。

 

 特に、1月6日のトランプ支持過激派による「議事堂乱入事件」のあと、それを機に、一部の過激派とは距離を置き始めたトランプ支持者も増えたといわれている。

 

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 そういう人々は、納得のいく説明を受ければ、状況の推移を理性的に見極める能力を持っていることを意味する。

 

 しかし、「陰謀論者」たちは別である。
 Qアノンのような、“盲目的トランプ教” ともいうべき妄想に取り付かれた人々は、今回の大統領選の結果そのものを、まず認めようとしない。

 

 「選挙に不正があった」
 「選挙結果そのものが盗まれた」

 

 陰謀論に加担する人々は、いまだに、そういう主張を繰り返している。
 「不正」を主張する根拠がどこにもないにもかかわらずだ。

 

 もちろん集計上の多少の誤差はあったかもしれない。
 しかし、陰謀論者たちのいうような、選挙結果が大きく変わるほどの「不正」は、どう考えても起こりようがない。

 

 「不正」を叫ぶ声が支持者の間に広まったのは、トランプ氏自身が、「不正があった」と信じているからだ。

 

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 だから、彼がSNSなどを通じて熱狂的な支持者に呼びかけると、そこに理性的判断を惑わすような空気が生まれ、一種の “信仰共同体” のようなものが生まれた。

 

 これは、「主義」とか「思想」の問題を遠く離れ、はっきりいって「病理」である。

 

 正常な神経を持っていれば、まともに取り合うことのできないようなフェイク情報が彼らの病理の中核に居座っている。

 

 その一例が、Qアノン信奉者の信じるディープステート “神話” だ。
 
 「ディープステート」とは、<闇の政府>と訳され、彼らの信仰の根幹をなしている “悪役” である。
 
 すなわち、トランプ大統領が登場する前のアメリカ政府やメディアは、悪魔を崇拝する小児性愛者の秘密結社(ディープステート)によって牛耳られており、その構成員は、みなこっそり児童人身売買や、児童を相手に淫らな性欲を満足させている。

 

 そういう人間のなかかにはジョー・バイデンバラク・オバマヒラリー・クリントン、ナンシー・ぺロス、マイク・ペンスビル・ゲイツなどが名を連ねている。

 

 彼らの総本山はバチカンにあり、ローマ教皇自身が大悪魔として君臨している。

 
 
 この「ディープステート」は、また中国共産党とも手を組み、民主主義諸国の正義をくつがえそうとしている。

 

 そこでトランプ氏はどういう役目を果たすのか。
 Qアノン信者がいうには、
 「トランプこそディープステートと戦うヒーローなのだ」
 だから、トランプが政治の場から消えれば、アメリカの正義も消える。
 彼らはそう信じている。

 

 こういう説に、はたして、どう向き合えばいいのだろうか。
 「荒唐無稽な話」の域を通り越して、笑うどころか怖くなる。
 少しでも現代政治や近現代史を勉強した者から見れば、こういう説そのものが “とんでも思想” 以外のなにものでもない。

 

 しかし、この説を真正面から信じているのが、アメリカの「Qアノン」(下の写真のような人)だ。

 

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 「彼らは単にゲームを楽しんでいるだけだ」という声もあるが、私はその見方に同意する前に、恐怖を感じる。

 

 問題は、そのような非合理主義的な空気が日本にも波及してきたことだ。

 

 「アメリカ大統領選挙には不正があった」
 ということを、YOU TUBESNSを通じて声高に主張する日本人たちがついに登場してきた。
 それも、それなりに “学識経験者” を自認するような人たちだ。
 
 そういう “日本版Qアノン” の人たちが発信する情報は、日本語で語りかけてくるだけ生々しい。

 

 だから、その声に刺激され、その手のフェイク情報に共感する人たちも出現している。


 それも、高学歴を誇り、理性的な判断力を備えていそうに思える人が、あれっ!? と思えるほどのあっけなさで、陰謀論に加担してしまう。

 

 「言論の自由」を謳うわが国では、そういう意見を抹殺することもできないだろう。
 私個人としては、そういう声は、ただただ静かにフェイドアウトしていってほしいと願っている。