テレビで安定した視聴率を稼げるのは、スズメバチ駆除の話と、人気ラーメン店の紹介だという話を聞いたことがある。
つまり、画面にハチかラーメンが映っていれば、「どの番組が面白そうかな … 」と、コントローラーをちゃかちゃか動かしていた人の手が止まるということだろう。
ハチは、まぁいいとして、ラーメンが画面に登場すると、私もついついテレビを見入ってしまうタイプである。
つまり、ラーメンという食べ物は、映像を見るだけで、それを口に運んだときの汁の濃淡や辛さ、麺の食感、具材の味わいなどを想像しやすい食物になっているということなのだ。
で、私の好きなラーメンは、あっさり醤油仕立ての “東京ラーメン” 。
若い頃は、九州系の濃厚な豚骨味とか、北海道のこってり味噌味などを好んで食っていたけれど、齢(よわい)60歳を超えたあたりから、さっぱりした醤油ベースのラーメンじゃないと食べる気がしなくなった。
年とって、胃が脂っぽいものを受け付けなくなったというわけではない。
いまだにトンカツはロースだし、ハンバーグなんかも、バターの切れっぱしを上に載せて食べている。ハムサンドなどは、「これでもかぁ !」というほどマヨネーズでまぶす。
だが、ラーメンに限っていえば、あっさり醤油の “東京ラーメン” のうまさがようやく理解できるようになった。
で、下のラーメンは、吉祥寺駅南口(東京・武蔵野市)にある『おおむら』のラーメン(650円)。
中央線の南口改札を出て、井の頭公園に向かう階段を降りて10秒。
駅の真正面にある店(写真下)だ。
なんと、私はここに50年近く通っている。
店舗は1回だけニューアルされたものの、味は昔のままだ。
麺は潅水がほどよく効いた中程度の太さの縮れ麺。(最近はうどんみたいな太麺を食べさせるラーメン屋も増えたが、私はそういう麺をうまいとは思わない)
具材は、チャーシュー1枚、メンマ少々、海苔1枚、ネギ少々という、まぁ東京ラーメンの定番ともいえるシンプルさが特徴。
「もう少しメンマが多いといいなあ … 」
とか、
「海苔をもう1枚 … 」
などと思うこともあるのだけれど、トッピングの選択肢はなし。
しかし、食べ終わる頃には、各具材の量が計算されたちょうどよいものであることが分かる。
で、ここのメニューのもう一つの看板が、チャーハン(800円)なのである。
この味も絶妙。
米が一粒ずつふっくらと立ち上がっている感じで、口に入れたときの玉子のまろやかさと、塩味の配分と、脂の乗り方がもう芸術品の域に達している。
肉片として、刻んだチャーシューが入る。
これがまたうまい。
悩むのは、ラーメンもしっかり食いたい、… けどチャーハンも食いたいと二択を迫られたとき。
そんなお客のために、ここでは「ラーメン+半チャーハン」(950円)というセットが用意されている。
店内で見ていると、実際にこのオーダーがいちばん多く通っている。
誰もがこの店のうまいものをよく知っているのだ。
もうひとつお薦めは、やきそば。
これもハマる。
味が単純なソース味ではない。
醤油をベースにして、ラードやごま油などで味を調えている。
この味の作り方も神技だ。
やっぱり「店長」と呼ばれる人の腕がすごいのだ。
私は、この店長が小学生ぐらいの頃から店の手伝いをしていたのをずっと見てきたが、そういう年季を重ねて出来上がった味はやっぱり違う。絶品である。
(その彼も今では還暦だという)
で、ここの餃子も悪くない。
ただ、白いご飯と合う味なので、チャーハンをオーダーしてしまうと、お互いの味が相殺されてしまい、すごくもったいないことになる。
むしろ、ラーメン+餃子の方が相性がいい。
しかし、そうなるとトータルの金額が1,050円になってしまい、「ラーメン+半チャーハン」のセット料金より高くなる。
ここが悩むところだ。
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下は、三鷹駅南口(東京・三鷹市)から歩いて2分程度のところに店を構えている『中華そば みたか』というラーメン屋である。
ここにもときどき顔を出す。
雑居ビルの地下にある店だが、そこに降りる階段に、いつも常連客が列をなしている。
この店に通うようになって、やはり40~50年は経つ。
店の名前は、以前は『江ぐち』といった。
オーナーが変わったが、味は先代の味をそのまま踏襲している。
というのも、先代が『江ぐち』を閉めるとき、それを惜しんだ常連客の一人がその味をなんとか世に残したいということで、修行に励み、店を引き継いだからだ。
この店のラーメン(550円)も、あっさりした醤油ベースの “東京ラーメン” 。
麺は多少太めで、どちらかというと和風味。だから醤油ベースのスープとの相性はいい。
ここはトッピングの自由度が高くて、チャーシュー、メンマ、もやし、玉子などを別オーダーできる。
ただし、この店にはラーメン以外のメニューはない。
私が頼むのは、メンマを増量したチャーシューメン(写真上 850円)。
『江ぐち』の時代から、常連客はこれを「竹の子チャーシュー」と呼んだ。
だから、私もそうオーダーする。
で、「メンマ入りのチャーシューメンね」とか頼んでいる客を見ると、心のなかで「お前はまだ新参者だな」とバカにすることにしている。もちろん顔には出さない。
ここのチャーシューは好きである。
脂身が多いのだが、それがうまいのだ。
ただ、チャーシューをかじりながら、麺をすするときの配分が難しい。
なにしろ、ここのチャーシューメンを頼むと、もうドンブリの中に麺が入っていることが分からないほど、表面が大量のチューシューで覆われる。
だから、普通のラーメン屋で出されるチャーシューメンの配分で食っていくと、後半になって、チャーシューだけが丼の底に大量に残ってしまうことになる。
そのため、多少「贅沢だな」と思いつつ、麺と一緒に大量のチャーシューを一気に口に入れてしまった方がいいのだ。
そうすると、スープを飲みほす後半戦になって、麺とチャーシューが同じ配分で減っていくことが確認できて気持ちがいい。
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吉祥寺・三鷹で、もう一軒だけ、お気に入りの “町中華” を挙げるとすれば、それは「ちくせん」である。
三鷹駅の南口をまっすぐ南へ。
距離として、駅から500~600メートル。
時間にして、徒歩5分といったところか。
ここも古い店だ。
先代のご主人が亡くなられたあと、今は若い夫婦が店を切り盛りしているが、料理の味にはしっかりと先代の味が受け継がれている。
お薦めは、店の看板にもなっている600円の「昔ながらのあっさり味の東京ラーメン」。
まぁ、年配の方ならば、スープを最初に吸っただけで、「あ、これは昔懐かしい味だ!」と思うはず。
ここは、チャーハン(写真下)もうまい。
ラーメンとチャーハンの両方を食べたい人には、
「ラーメン&半チャーハン」
と、
「チャーハン&半ラーメン」
の2種類のセットがある。
だけど、個人的にお薦めなのは、餃子である。
これは本当にうまい!
1人前5個で480円だが、3個で300円という「ミニギョーザ」というメニューも用意されている。
私はいつもこの二つをいっしょに頼んで、8個(780円)にして食べている。
忘れてならないのは、ラー油である。
この味も、ほかの店ではお目にかからない。
たぶん自家製。
容器の底に、粉末の唐辛子がしっとりと沈んでいて、その唐辛子の粉をたっぷりすくいとって、小皿に注ぐと、ほんとうに幸せな気分になる。
その小皿に、醤油と酢を少々。
醤油4に、酢6ぐらいの配分がよいようだ。
そして、いよいよ餃子を小皿に浸け、餃子の裏・表にたんねんにラー油をからめ、白いご飯といっしょにほうばる。
食べ終わっても2日ぐらい幸せな気分が続く。
東京の吉祥寺駅・三鷹駅近くに住んでいらっしゃる方で、まだこの3店に足を運んだことがない人がいらっしゃったら、一度お試しあれ。