アートと文藝のCafe

アート、文芸、映画、音楽などを気楽に語れるCafe です。ぜひお立ち寄りを。

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

冷たいバラード

「櫛(くし)を拾うと、つき合っている人と別れることになると、昔の人はよく言ったわ」 そう言って、女は喫茶店のシートに置き忘れられた誰かの櫛を、そっと自分のバッグにしまい込んだ。 半月形の古風な木の櫛だった。 アメ色に染まって、べっ甲のようにも…

祝 たぬき様ご生誕69周年

本日、東京都内において、たぬき様(本名 町田)のご生誕69周年を祝う記念式典が、本人および奥様を含む総勢2名という多数のご家族ご列席のもとに、盛大に行われた。 ▼ 式典に用意された直径10メートルのバースデーケーキ。屋敷内に入らなかったため、クレ…

NHK『平成万葉集』にみる日本人の短歌ブーム

「平成」という時代もあと数日というときに、NHK制作の『平成万葉集』(BSプレミアム)という番組が放映された。 俳優の生田斗真と吉岡里帆が、素人の短歌を中心に拾い上げて朗読し、かつ実作者を訪ねてインタビューするという企画で、何回かに分けて放映さ…

眠りが忍び寄る

仕事中にパソコンを見ているときも、居間でテレビを観ているときも、突然こっくりと居眠りをする私である。 もちろん、すぐに目が醒める。 しかし、いつのまにか、再びうつらうつらしている。 年をとるということは、生活の中に、「眠り」が忍び寄ってくる回…

七歳までは神の内

一番最初にお化けを見たのは、3歳ぐらいのときだった。 いま住んでいる町に越してくる前。 古びた町の古い一軒屋の中で、両親と伯母と4人で暮らしていた頃だ。 一軒屋といっても、今の感覚でいえばスラム街のバラック。 柱はみな黒塗りながらハゲだらけ。…

穂村弘の文章は最高だ

文芸批評 理屈では語れない文章 「短歌ブーム」という話も聞く。 特に、これまで短歌と縁がなさそうな若い人が、最近関心を持ち始めているとも。 新元号の「令和」という言葉が万葉集から採られたというニュースがこれほど脚光を浴びたのも、その底辺には現…

頑張った若者の話

電車の中というのは、一種の “公共の場” であるわけだが、最近、どんどんプライベート空間化しているような気がする。 まず、通勤前に、車内で朝ご飯を食べている人たちが増えた。 「食べる」といっても、おにぎりとかサンドイッチのたぐいだが、スマホなど…

「東ベルリンから来た女」という映画の美しさ

映画批評『東ベルリンから来た女』 映画は途中から観るものではない、と分かっていても、テレビで放映されている映画の場合は、往々にして途中から観ざるを得ないものがある。 たまたま観た1シーンがものすごく印象的で、「いったいどんな話なんだろう ?」…

日本人の心を劇的に変えた「平成」

今週のお題「平成を振り返る」 昭和的な幸福感と決別した時代 平成という時代は、一言でいうと、世界経済のグローバル化に翻弄され、昭和の時代に日本が蓄えたさまざまな資産をすべて喪失した時代だったといえる。 劇作家の宮沢章夫によると、 「(平成は)…

ザ・ローリング・ストーンズのブルースまでの長い旅

ザ・ローリング・ストーンズ展 5月6日まで開催 5月6日まで、東京の「TOC五反田メッセ」で、「ザ・ローリング・ストーンズ展」が開かれている。 それを記念して、4月19日(金)には、彼らの最新CD『HONK』も発売された。 この『HONK』は、これまでの彼らのヒッ…

『燃えよ剣』に描かれたテロリストの美学

司馬遼太郎の人気小説『燃えよ剣』の映画化が決まり、2020年に公開される予定だという。 主人公の歳三を演じるのは、岡田准一。 近藤勇役は、鈴木亮平。 沖田総司役には、Hey ! Say ! JUMPの山田涼介。 ほか、芹沢鴨が伊藤英明。 土方とからむ女性役には、柴…

平成最後に「場末」を眺める

「場末」って、好きだ。 BASUE …… 今、この言葉はどれほどまで機能しているんだろうか。 ひょっとして、もう「死語」なのかな。 若い人は、もうこういう言葉を知らないんじゃないか? 「街の中でも、目抜き通りから少し外れた、さびれた場所」 … っていうよ…

占い師の裏話 

自分は占いを信じるタイプか? そう自分自身に問うてみると、若いときは、けっこう占いの結果にこだわる人間だった。 受験の失敗、失恋 … 。 先行きに暗雲が立ち込めてくるようなときは、雑誌の片隅に掲載された星占いの結果ですら、ものすごく重要なメッセ…

戦争は平和の使者のような顔して近づいてくる

文芸批評 島尾敏雄『贋(にせ)学生』 いちばん危機が迫った社会というのは、一見、平和な相貌をしている。 大地は豊かな恵みを人間に与え、物資は潤沢に整い、時間はのんびりと流れ、人々の声は明るい。 ちょうど、太平洋戦争直前の日本がそうだった。 今の…

井上陽水の天才性を証明した『傘がない』

「天才」とは、自分の凄さみたいなものは確信しているけれど、「どう凄いのか」ということを自分で説明できない人のことをいう。 そういう意味で、井上陽水というミュージシャンは、天才ではないのか。 この土曜日、NHKの歌番組『SONGS「井上陽水」』の2回…

人類最後の日を人々は何をして過ごすのか?

映画批評『On the beach 渚にて』 原発事故による「放射能汚染」の話題が出るたびに、思い出す映画がある。 アメリカ映画の『渚にて』( On the beach )だ。 1959年にスタンリー・クレイマー監督が撮った(当時の)近未来SF映画で、まさに地球規模の “放射…

「平成」は現代の「平安時代」だった?

平和ながらも、人々の不安が増大した時代。 「平安」も「平成」も、そんな印象が強い時代であったように思う。 ただ、794年に始まる「平安時代」といわれる歴史区分のなかに、「平安」という元号があったわけではない。 平安時代というのは、「延歴」から「…

まっすぐな道はさびしい

俳句とか短歌が持っているなんともいえない情感が好きである。 病院などに入院して、退屈な午後をやり過ごしているとき、デイルームなどで拾った週刊誌などを開いていると、必ず短歌や俳句のページに目が行く。 病院という閉鎖空間に閉じ込められていると、…

リキテンシュタイン『ヘアリボンの少女』

絵画批評アメリカンコミックを “芸術” にした男 「ポップアート」というと、誰でもアンディー・ウォーホールの名前を思い浮かべる。 しかし、もう一人忘れてならないアーティストがいる。 ロイ・リキテンシュタインだ。 彼の制作した『ヘアリボンの少女』こ…

速報 地球外生命体がついにフロリダ沖に飛来

アメリカの航空宇宙局(NASA)の発表によると、昨日の未明、フロリダ沖に謎の飛行物体が墜落し、その中から地球外生命体らしき存在を確認して保護していたことが判明した。 この地球外生命体は、外見的特徴としては、地球上に存在する類人猿に近く、保護した…

「コミュ力」という言葉の軽さ  

前回のブログで、 「平成という時代は、コスパ思想が席巻した時代だった」 という内容の記事を書いたが、実はもうひとつ、「平成」の精神風景を語るときに無視できない概念がある。 それが、「コミュ力」という言葉だ。 平成という時代は、老いも若きも「コ…

コスパ思想で始まり、そして終わった「平成」

新しい元号が発表になって、いよいよ「平成」という時代も、あと1ヵ月を切るようになったが、そのせいか、テレビなどでは「平成」という時代を事件や歌で振り返る番組が増えた。 「平成」とはどんな時代であったか? 私が思うに、「平成」という時代は、“コ…

60年代R&Bバラードの頂点に立つ男スモーキー・ロビンソン

音楽の好みでいえば、1960年代から70年代初頭のリズム&ブルースがいちばん好きである。 仕事で頭が疲れてくると、まずグラスにペットボトルの紅茶を注ぎ、そこにウィスキーを数滴垂らす。 それをチビチビ舐めながら、パソコンの前に座り、YOU TUBEを頼りに、…

人は誰も自分の記憶の古層にはたどりつけない

すべての人間は、「自分は橋のたもとで拾われた子どもではないか?」という疑問を解消することはできない。 両親の温かい愛に包まれた幸せな幼年時代。 そのような記憶があったとしても、それははたして本当の記憶なのだろうか。 1982年に公開された『ブレー…

朝鮮半島の地政学的な悲劇

韓国の裁判所が決定した元徴用工訴訟における日本企業への差し押さえの範囲が広がっている。 その前には、韓国海軍による日本の自衛隊機に対するレーダー照射問題があり、さらにさかのぼれば、日韓合意に基づいて設立された「慰安婦財団」を、韓国側が一方的…

キリコ作『街の神秘と憂鬱』の謎

アート批評ジョルジョ・デ・キリコの形而上絵画 われわれは「イタリア」という言葉から、人間性を謳歌する享楽的で、現世的な文化風土を想像しがちである。 しかし、そのような「明るく陽気な」風土が広がるイタリアというのは、ローマ以南、ナポリやシチリ…

“オネェ系” の店でモテるコツ    

“オネェ系” というのか、昔は「オカマ」っていったんだけど、あの人たちって、面白いよね。 ときどき顔を出す居酒屋で、カシラを塩で焼いてもらって遅い夕食をとっていたら、隣りのオカマバーのママさんがふらりと入ってきた。 「マスター、やきそば! お客…